scene#010 「創部パーティー」

商店街を適当に回り終えると、夕方になってしまった。そう、もうデートはおしまいの時間だ。


「この後、普通だったら主人公の家に行くのよね?」

「あぁ、だけど今日はダメだ。みんなで行くからな」


 そう、今日は前に桃が企画した創部パーティーをやることになっており、これからみんなで買い出しに行く。


「うーん、みんなで食べるんだったら鍋がいいよね」


 デートを終えたので、隣で歩く桃が尋ねてくる。


「鍋だと、冬って感じがしませんか?」


 神郷の言う通り、今は四月下旬鍋って感じではない。


「なんかつばさちゃんはリクエストある?」

「うーんそうだなぁ……」


 やっぱりみんなで共有して食べられるものがいいだろうそうするとものは色々と限られてくるが……。


「霜城はどう思う?」

「――わっ、私!?」


 さっきからずっと上の空だったので話しかけてみた。


「もしかして、無理に誘っちゃったか?」

「ち、違うのよ。むしろその……藤沢くんちに行けるのが楽しみっていうか」

「楽しみ?」

「そ、そういう意味じゃなくて! あっ、お好み焼きとかがいいんじゃないかしら!」


 おぉ、これはまたとないいい意見が出た。桃と神郷も同意したようで。


「うん、悪くないねー」

「私も賛成です」

「俺もオッケー」


 残るはわがままお嬢様だけ、さぁ庶民の食べ物であるお好み焼きで大丈夫なのだろうか。


「――……お好み焼きって何?」


 その彼女の発言に、その場が凍り付いたのは言うまでもなかった。




 それから買い出しを終えて、飛翔の部屋に集合した。何故かもう、大上はおりテレビの前で親父のように横たわりながらお酒を飲んでいる。

 皆で円卓を囲む。目の前にはホットプレートが敷かれ、各人はボールに入った具材を回している。


「よく混ぜてねー」


 桃が主導でお好み焼き指導をしている。ここまでは何も難しいことはない。桃と神郷と霜城は特に問題はない。そもそも混ぜるだけだから問題があってはおかしいのだが。

 しかし、このお嬢様だけは違った。具材を床にまき散らしている。


「お前、料理とができないだろ」

「うっ、うるさいわね。別にうちには料理人がいるしいいのいよ!」


 それは料理人がすごいだけであって、お前は何もできないということ言ってるようなもんだ。というより、あの容姿端麗、才色兼備のリア王が料理ができないとは知らなかった。


「華崎さん、もっと力を抜いて」

「は、はい」


 桃の一言でおとなしくなる。ったく、こいつは本当に仮面を使い分けるんだな。


「じゃ、鉄板の上に敷いちゃって」


 桃の合図で、皆混ざった具材を鉄板に敷いていく。


「桃、俺思ったんだけどさ」

「うん?」

「混ぜてる具材って皆一緒なんだろ、だったら一つで焼いた方がよくないか?」

「「「「――あっ」」」」


 四人とも今気が付いたという顔をする。


「じゃ、混ぜちゃいましょー」

「切り替え早いな……」


 こうしてホットプレートに均等に具材を敷いていく。おぉ、いい匂いがしていた。


「よしじゃあー」


 一斉に皆飛翔の方を見る。分かってる皆まで言うな。


「俺がひっくり返せばいいんだろ?」


 そして一斉に頷く。仕方ない、ここで男を見せてやるか。


「……」


 にしても……でかい、でかすぎるよ。果たしてこれを一人でひっくり返せるのだろうか。


「がんばれー、つばさちゃん」

「いけ、藤沢」

「藤沢くん頑張って」

「しっかりやりなさい」

「腹減ったから早くしろー」


 一人だけなんか違うような気もするが、女子(一人おばさん)に応援されてるのだ恥ずかしい所は見せられない。

 ヘラを左右にお好み焼きの下にいれ、スタンバイする。そして――


「うおおおおおおおお!!!!」


 秘儀! フルムーンサルト!


 お好み焼きが宙を舞う。そして、見事一回転して表側に鉄板は着地した。


「一回転させてどうするのよ……」

「でも、かっこよかったよつばさちゃん」

「うん、すごいな藤沢」

「さ、流石。創造家」


 今気になるようなことをさらっと霜城に言われたけどまぁいいか。

 その後、無事半回転ムーンサルトは成功すると、みんなでお好み焼きが焼きあがるのを待つ。

 華崎で焼かれているお好み焼きを興味津々に見ている。


「こ、これがお好み焼き……」

「お前食った事なかったのか?」

「い、家では和食は出るけどこんなジャンクフード出ないのよ」


 お好み焼きってそもそもジャンクフードなのだろうか、と言うより今時口にしたことのないのは本当に珍しいと思う。

 そう言えば、藤沢家でも、お好み焼きは出なかった。そう考えると華崎家の食事事情も少しだけ理解できる。多分彼女も生粋のお嬢様ってやつなんだろう。


「できたよー」


 桃がそう言ってお好み焼きを綺麗に六等分し、各々に振り分けていく。


「言い出しっぺがあれなんだけど私、久しぶりにお好み焼きって食べるかも」

「そう? うちはけっこうやるよ、うちの弟妹が好きだし」

「へぇ、神郷さんって兄弟がいるのね、私ひとりっ子だし羨ましい」

「まぁ、いたらいたで食費とか大変だけどな」


 そんな教室では見ることのない神郷と霜城の会話を見て微笑ましくなる。問題は……。


「お前は、会話に混ざらないのか?」

「べっ、別に私はいいのよ」

「そうか」


 華崎の場合気を遣ってるのか、プライドなのかどうか分からないんだよな。それを見ていた桃が近づいてくる。


「華崎さん、いつもありがとうね」

「京田辺先輩? どうしたんですかいきなり」

「桃先輩でいいって。その、つばさちゃんの事黙っててくれたりとか」

「それは別に気にしないでください。シナリオの手伝いだって好きでやってることですから」


 ん、そうだったのか。だったら正直にそう言えばよかったのにと思ったら睨まれてしまった。どうやら、桃に対する建前らしかった。


「でもなんか思うんだけど、華崎さんとつばさちゃんって似てるよね」

「――……は?」


 思わず声が漏れてしまう。華崎も納得のいっていないようで眉をひそめている。


「失礼ですが京田辺先輩、私たちのどこが似てるんでしょうか。正直私には理解できかねますが」

「そ、そうだぞ。第一、華崎は学園中の憧れで俺みたいなのとは正反対だろ」

「うーん、そういうことを言ってるんじゃなくてね」


 桃は数秒間頭を抱えると何か思い出したように手を叩いた。


「二人とも、あんまり人に対して本心で話してないよね。常に相手のことを考えて言葉を選んでるっていうか」

「「――……」」


 なんだろう、すんなりと納得できるような気がした。少なくとも俺はそうだ、他人に嫌われずまた好かれないように相手と接している。それは、相手の事、そして自分の事を理解するの、またされるのが怖いからだ。

 もしかして隣で座っている華崎もそうなのだろうか。


「あ、ありえないですね。私は誰にどうこう思われても気にしてませんよ」

「そう? でもそれで人気者ってすごいよね華崎さん」

「当然です。私、元々のポテンシャルが高いですから」


 胸を張る華崎。そんな彼女を見て、何故か桃はこちらを見て微笑んだ。

 どうやら彼女も何となく気が付いているようだ。理由は知らないが、華崎も他人とある程度の距離感を持って接している。

 それに桃が気が付くことができたのは、近しい人間がそうだからだろう。


「じゃあ、今日は楽しんでね」

「は、はい」


 桃はそう言って大上に切り分けたお好み焼きを運びに行く。


「何だったのかしら」

「さぁな、まぁお好み焼き食ってみろよ。うまいから」

「う、うん……」


 恐る恐る華崎が口にお好み焼きを運ぶ。


「どうだ、うまいか?」

「なにこれ、どんな高級フレンチよ……」


 ただ、小麦粉と具材を混ぜて焼いただけなのだが……。まぁ、感動してるならそれでいいか。

 その後、俺たちはもんじゃ焼きをみんなで作って食べた。初めて見た華崎は見た瞬間ゲロとか言っていたが最初に口に運んだ後から黙々ともんじゃ焼きを食べていた。

 みんなの笑い声。なんだか、こんなに部屋に人がいるのは初めてで、人が多ければ多いほど飯がうまくなることも分かった。

 あんまり、本人たちには言いたくないけれど、この部活を創ってよかったとそう思えた時間だった。

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