scene#008 「実は真面目な部員たち」

「うーん」


 今日は大上が職員での飲み会に出ているため、飛翔の部屋で桃と二人での夕食。


「なんか大変そうだね」


 皿洗いをしていた桃が、円卓に戻ってくる。


「まぁな。もう少しイメージモデルがしっかりしてくればいいんだけどな……」

「まぁまぁ、つばさちゃんの理想に華崎さんが合してくれてるわけだし文句言っちゃかわいそうだよ」

「そうはいってもなぁ……」


 あの迫真の演技の後、華崎は人が変わったように棒読みのセリフを繰り返した。もちろん本人に、非がないことは分かってるのだがどうもやるせない。


「それにしても、弥里ちゃんはいい子だよね」

「桃もそう思うか?」

「うん、学園ではいろんな噂が立ってたけど、喋ってみるとすごくいい子だよ。料理もできるし、家事も自分でやってるんだって」

「へぇー、そりゃ意外……」


 神郷、案外家庭的なところがあるんだな。

 部室での雰囲気を見ても、どうやら桃と神郷はかなり打ち解けあっているようだった。


「ちなみに、桃は華崎をどう見る?」

「そうねぇ、噂以上にいい子だとは思うよ。礼儀もしっかりしてるし、でも――なんだかロボットと話してるみたい」


 桃も飛翔と幼馴染を何年もやってるだけあって、人を見る目はあるらしい。


「でも、つばさちゃんや弥里ちゃんと話すときは楽しそうだよね。なんだか二人がうらやましいな」

「まぁ、あれは病気みたいなものだからな」


 すると、桃は何かを思い出したように手を合わせる。


「ねぇねぇ、じゃあさ今度創部祝いってことでここでパーティーしない?」

「パーティーか……」


 俺の部屋に皆が入ることを想像する。うん、カオスだ。


「まぁ、俺は別にいいけど、ほかの連中次第だな」


 おそらく神郷辺りは来てくれると思うが、華崎や霜城といったちょっとイレギュラーな存在はわからない。そもそも霜城なんかは、男子の部屋入るのは不純異性交遊とか言い出しそうだし。


「うん、じゃあ連絡してみるね」


 そう言って桃はスマホを取り出す。


「ていうか、桃みんなの連絡先知ってるの?」

「うん、もうグループ作ってあるしね」


 え、なにそれ知らない。最近ははやりのグループいじめってやつですか?


「そういえば、まだつばさちゃんは招待してなかったね。このグループ実は華崎さんが作ろうって言ったんだよ」


 あぁ、なるほど。だから俺を省くわけね。


「でも、つばさちゃんを入れなかったのには華崎さんなりに色々考えてだと思うんだよ」


 そう言ってスマホを見せてくる。グループチャットのログが表示されており、華崎が長文で何かを皆に聞いている。


「――今日の私の演技、改善点あれば教えてください、か」


 するとすぐに神郷が細かいアドバイスを教えている。案外こいつも面倒見がいいのな。


「ね、わかったでしょ?」

「まぁ、何となく」


 多分華崎が飛翔をグループチャットに入れなかったのは、気を遣った為だ。今後の演技に関して、迷惑をかけたくない、もしくはプライドがあって声をかけなかったのだろう。


「入る?」

「いや、いいや。パーティーの件だけ流しといて」

「らじゃー」


 そう言って桃はスマホに向かう。

 でもまぁ、華崎のやつ少しは悪いって思ってんのかな。別にこっちとしてはそこまで真剣にやってくれといったわけでもないし。

 彼女と交わした不思議な契約。形を変えてこれをシナリオに組み込むのもありだなと感じる、今日この頃だった。




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