scene#005 「ぎゃるびっちがなかまになった!」
次の日の放課後。飛翔と華崎、二人っきりの教室で何か起こりそうなシチュエーションだが二人場合特にそれはなかった。
「ふぅ……、今日一日大変だったわ、いつ変態がバラすんじゃないかと思って、ひやひやさせられたもの」
「あぁ、こっちだってどこぞの腹黒女がいつ俺の正体をバラすんじゃないかって、胃がキリキリしたぜ」
こんな悪口の言い合いがもう五分も続いている。今日、桃は家に来ないので、待ち合わせしていないとしてもこんなことをしていたら日が暮れてしまう。だから強引に話を区切ることにした。
「で、どうするんだよ。帰っていいか?」
シナリオの構想を練るために帰りたいのだが、もう正直あと一か月しか時間はないわけだし。
「ダメよ。言ったじゃない、君のシナリオに協力するって」
「いくらお前が、アリスに似ていると思っていても現実と二次元じゃギャップがありすぎる」
アリスというのはそのお嬢様ルートのヒロイン立華アリスのことだ。これからはめんどくさいのでアリスと呼ぶことにする。
「第一、お前「リア王」って呼ばれてるくらいだから。付き合ったりしたことあるよな」
「そ、そんなの当然でしょ? もう何十人も付き合ってたわよ、超経験豊富よ」
何故か目を逸らして彼女はそう言った。というか、正直引いた。もしかしたら神郷よりもビッチなんじゃないか。
「そ、そうか……。、まぁともかくだ。俺の持論だけど、本当の恋愛を知っている奴に面白いシナリオは書けないんだよ」
「ど、どうして?」
「そりゃ、普通の恋愛に、義妹、義姉、猫耳、ロボット、魔法使い、はたまた宇宙人は登場しないだろ。つまり普通の恋愛を知っている人間はそいつらとのコミュニケーションをどうとればいいかわからないんだよ。でも、知らないやつは何とでもできる、妄想は力なり!」
これは本当にあくまで持論だ。俺自身はもちろんそんなのは知らん、でもリアルに対し少しでも不満のあるやつの方が妄想力が高いのは事実だと思う。
「そ、そんなこと言うなら試してあげてもいいけど?」
「は?」
そう言って突然、押し倒される。普通男子が女子にやるものなのだが、その状況に理解できず、身動きができない。そして、めちゃくちゃ顔が赤くなった華崎の体が密着する。
豊満な胸、そしてラベンダーのようないい香り、正面には美少女の顔があって……、あぁどうにかなってしまいそうだ。
吸い込まれそうになる。あぁ、だめだ理性を押さえろ。二次元最高、二次元最高、二次元最高、二次元最高――
――……うーん、どうやらだめのようだ。だったら、自己嫌悪に浸るしかない。俺は処女厨、こいつはビッチ。俺は処女厨、こいつはビッチ。
しかし目の前の状況にどうでもよくなってくるのが男ってやつだ。あぁ、ダメ! 助けて猫型ロボット!
――そう思ったとき、不意に教室のドアが開く。二人してその方向を見ると、唖然とした神郷弥里が立っていた。
「――失礼、邪魔したな」
少し頬を赤くした神郷はゆっくりと教室のドアを閉める。その状況に、唖然とした飛翔だったが、華崎に頬を叩かれようやく意識がはっきりする。
「おっ、追わないと!」
「お、おう!」
二人して、廊下に飛び出し神郷の後を追う。早く誤解を解かなければ明日大変なことになる。
「な、なんだお前ら! 別に今日のことは黙っててやるって!」
「問答無用!」
「ごめん、神郷さん!」
二人掛かりで神郷を無事確保する。後は事情を説明するだけだ。
……ん? どう説明すればいいんだ?
説明の超難解さに気が付いたのか、華崎と顔を見合わせる。
「話せお前ら! 私は何も見てない、これでいいだろ!」
その下で暴れる神郷。何だこの状況は。
とにかく神郷を教室へと連行し、話はそれからとなった。
適当な椅子に神郷を座らせ、逃げ出さないよう二人して目の前に立つ。流石に学園一の問題児もその状況おとなしくなった。
「で、なんなんだよ……。別に教室でその……やってても私は気にしねーよ」
「そうじゃないのよ、神郷さん。あれは違うの」
「違うってどう見たって、その……あれだろ」
歯切れの悪い神郷、てっきりこんな状況に慣れているものだと思っていたからちょっと意外だ。
すると華崎が脇腹をつついてくる。
「ちょ、変態から説明してよ」
「どうして俺が……」
「君が説明した方が何かと都合がいいからでしょ」
「それは――あの契約について話していいって言ってるのか?」
「そういうことじゃなくて……、ライターなんだからそこはうまくまとめなさい!」
投げられてしまった。ため息を吐いて、神郷に向き直る。
「俺は同族としてこれから変な話をしようと思う。神郷、お前にその覚悟はあるか?」
「ど、同族? ていうか真顔でこっち見んなよ……」
「同族というのは、隠し事をしている人間のことだ。お前にだってあるだろう、例えばこの前駅で――」
「わー! わかったわかった! お前の言いたいことはわかったよ……、ていうかあれをみてたなら早く言えよな、恥ずかしい……」
どうやら作戦には成功したようだ。相手の弱みを勝手に引き出したように見せる。これはギャルゲーの処女ギャルルートでは当然の定石。まさかリアルギャルに通用するとは思っても見なかったが。
というか、なぜ彼女は今頬を赤らめているのだろう。てっきり駅で援助交際をしていることを秘密として暴露させたつもりなのだが、もしかして違うのか?
「その……藤沢だっけ、あんたのことは信用するよ」
それとどことなく、神郷との距離が近くなったような気がするし。
「あ、ありがとう」
思わずドキッとしてしまう。実はこの娘、噂で言われてるような娘ではないのではないか?
「――でもあんたは信用できない」
そう言って神郷は華崎の方を見た。
「ど、どうしてかな神郷さん。私は藤沢くんより十二分に信用できると思うけど」
「あんたその顔やめろよ、いつもクラスで見てて気持ちわりーんだよ」
華崎の顔に血管が浮き出る。というか神郷、まさか華崎の正体に気が付いてたのか、だとしたらこの娘は、相当人をよく見ているのかもしれない。
「こ、これが私の素ですけど?」
「よく言えたもんだな。まぁ、あたしにはあんたみたいに顔を使い分けたりできないから素直に尊敬するけど――」
「ちょちょちょ、ちょっと待てとりあえず二人とも落ち着こう」
華崎が拳を握りしめていたのを見て、直ぐに間に入る。
「まぁ、藤沢がそういうなら。ちょっといじめすぎたか」
そう言って彼女はいたずらっ子のように下を出す。うーん、やっぱりこの娘華崎以上にとんでもない娘なのかもしれない。
華崎は笑って沈黙。どうやら、もう何も話すことはないらしい。
「で、藤沢の秘密って何なんだ?」
「あぁ、そうだな。俺、実はゲームのシナリオライターをやってるんだよ」
そう言ってカバンからある設定資料や、過去作を神郷に見せる。
「そのカクめいじんってのが俺のペンネームな」
興味津々に資料を見る神郷。
「へぇー、藤沢ってすごいんだな。物語を書いてるなんて、私じゃできないよ」
「よかったら、その過去作のやつは持って帰ってもいいぞ。その代り感想をちゃんと聞かせてくれよ」
「おう、ぜひやらせてもらうよ」
やっぱりいい娘だ。隣で、こちらを睨み付けている誰かさんとは違う。
「随分彼女には優しいのね」
「そりゃあまぁ、理解しようとしてくれる努力をしてるわけだしな」
「私だって、この娘以上に君の事知ってるのに……」
小声で華崎がごにょる。よく聞こえない。
「なんか言ったか?」
「別に、協力してやってる私には何もないのかなってこと!」
切れ気味にそう言われた。
「協力ってなんだ?」
設定資料を見ていた神郷が不思議そうに尋ねてくる。
「あぁ今見てる設定資料集の中に、立華アリスってキャラいるだろ。そのシナリオを俺が書くことになったんだよ。それで、華崎に協力してもらってるわけ」
「あぁ、確かにこのキャラだと適材適所かもな」
バカにするように笑う神郷に対し、華崎はさらに拳を握る手を強める。
「というのが、さっきの状況の理由。わかってくれたか?」
「まぁ、大体。こっちも勝手に誤解して悪かったよ」
まぁあの状態じゃ誤解されない方が不思議なくらいだ。この娘を責める権利はない。
「なぁ、そのシナリオ作りだっけ――私も協力していいか?」
「えっ、あっ、えぇ!?」
思わず声を上げてしまう。どうした彼女の中で何があった!
「いや、その……秘密を共有する仲間としてさ。仲良くしたいなーなんて思って」
そういうことか。確か秘密を守る関係上確かに近くにいられるとありがたい。
「俺は別に構わないけど……」
横目で華崎を見る。すると彼女は、もうどうでもよくなったのかわかりやすく舌打ちした。
「別にいいいんじゃないですかー、変態様がそうおっしゃるんなら」
だそうで、こうして三人でシナリオ制作を進めることになった。
「で、どうするつもりなの?」
三人で机を合わせ、作戦会議をする。相変わらず、神郷と華崎はギスギスしているが、そこは触れずに行こう。
「俺は共通ルートで主人公たちが作った部活を利用しようと思っている」
乗り出すように神郷が聞いてくる。
「へぇ、どんな部活なの?」
「「人間関係部」って部活だな、活動内容としては学園内の他の部活動内の問題を解決する活動をしている」
「へぇ、なんか案外あったら、必要とされそうな部だな」
神郷の言う通り、あったら確かに面白そうな部活だと思う。運動部なんかは、人間関係に問題抱えてたりすることが多いし、案外求められたりするんじゃないか。
「で、その部活をどう利用するわけ?」
不機嫌そうに華崎が尋ねてきた。
「他のヒロインとの距離感、みたいなのを部内でうまく表現するんだ。あの娘が主人公のことを好きなのは知ってる、でもあの娘には悪いから……。自分の気持ちに素直になれないにが、アリスのミソだな」
「なるほど……」
この手の問題が果たして華崎または、神郷に理解できるかわからないが、一応意見は聞こうと思う。
「で、どう思う?」
「私はその気持ちなんだかわかるような気がする、好きだけど好きだからこそ、突き放しちゃうみたいな?」
おぉ、神郷はどうやらわかっているようだ。基本この娘はツンデレ、説明してないのに性格を理解できたのは凄い。
「で、華崎は?」
「そうね……、だったら部活を作った方が早いんじゃないの?」
……へ? 話聞いてました?
「うん、人間関係部だっけ作りましょ。私が何とかするから」
「おいおいおい、話がどっか飛んでるぞ俺は、アリスの気持ちを――」
「そのアリスの気持ちを理解するために部活を作るんじゃない、感謝しなさいよ」
そういうと彼女はスマホを取り出し、どこかに電話をかけ始めた。その間不思議そうに、神郷と顔を合わせていると。
「おばあさまの許可はもらったわ、さ部室に行くわよ」
「ぶ、部室? ていうか部活は認められたのかよ」
「うん、大丈夫だって。ほら早く」
そう言われ、部室があるらしい特別棟まで来る。ここは多くの文化部の部室があり、今も活動している時間だ。
「――ここよ」
入って一番手前の部屋。マンションで言ったら、エレベーターに一番近い部屋みたいなところに部室はあった。上のネームプレートには奇術部と書かれている。
中に入ると、机と椅子そして奥にホワイトボードだけが置かれている。しかしまぁ、よく整理されている。まるでほんのさっきまで使っていたような。
「なんかこの椅子あったかいんだけど」
神郷がいつのまにか椅子に座っていた。にしてもあったかい? 確かめるように飛翔も向かいの椅子に座る。
「何かわからんがぬくもりを感じるな……。まるでさっきまで人が座っていたような……」
「だってさっきまでここ人いたもの」
「へ?」
「だから、さっきまでここは奇術部が使ってたの、まぁ五分前にマジック部と統合したんだけどね」
「まさかお前……」
「そのまさかよ」
得意げに胸を張る華崎。いや、ほめてねーから、むしろ、奇術部かわいそするぎるでしょ。
「まぁ、奇術部も人がちょうど3人くらいしかいなかったみたいだし、ちょうどよかったんじゃない?」
「私たちも三人だけど」
「そ、それは……」
あっ、こいつ絶対考えてなかったな。確か部活動になる要件は、最低でも五人そして顧問が必要だ。今のこの場にそれはどう見ても揃っていない。
「どうするんだよ、他の部活から何か言われたら出ていくしかないぞ」
「そしたら、その部活を廃部にして私たちの部室に……」
おいおい、流石にそれは権力乱用だろ。今度は保護者から目をつけられるぞ。
「ともかく、部活にするのはあと二人、そして顧問を見つければいいんだな?」
「当てはあるの?」
「まぁ、顧問と部員一人なら何とかなる」
「じゃ、じゃあよろしく頼むわ」
すると神郷が困った様に袖を引っ張る。
「それって、その……大丈夫な人間か」
「心配すんな、一人は京田辺桃、そして顧問は大上つくよだ」
「京田辺桃ってあの三年の?」
「おう、大丈夫だろ?」
「まぁ、確かに彼女なら……。ってどういう関係なんだ?」
「幼馴染だけど」
「ふーん、藤沢の周りって面白い人間が多いんだな。類は友を呼ぶってやつか」
そしてら自動的に、あなたも変人の一人になるんですがそれでもいいんですか。
まぁ、その教室で見たことのない笑顔を見る限りいいってことか。
「よし、じゃあ残りの一人明日から本気で探すわよ!」
張り切っているところ悪いんですが、部活を作るんじゃなくてシナリオを書くんですよ?
「でもまぁ……」
なんだかんだで二人とも打ち解けあった? 少なくとも本音は見せるようになったようで、ケンカしながらも会話をつないでいる。
そんな光景を見て、なんだか青春ぽいだなんて柄にもなく思ってしまった。
こうしてシナリオ制作兼、「人間関係部」が始まるのだった。
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