第24話 運命の黄色い糸 九
着いたカラオケの部屋は、少し大きめのサイズで、ミラーボールを模したものが天井にあり、さながら小さなディスコの雰囲気だ…と、俺は勝手に思った。(まあ今時ディスコって古いし、そもそもそんな所には行ったことがない、のだが…。でも、最近は80年代リバイバルブームが来ているので、よしとしよう。)
「私、カラオケ大好きなんですよ~!
1曲目、歌っていいですか?」
由利加は自分からそう言い、みんなの了解を得て歌い始めた。
その曲は、最近のアイドルの可愛らしい曲で、普段のボーイッシュな由利加の雰囲気からは想像できない、甘い曲であった。
そして…、肝心の歌声の方であるが…、はっきり言おう。由利加は上手だ。
由利加の声量は、本家本元のその曲を歌っているアイドルよりもあるのではないかと思った。あと、実際のCDにはない、ビブラートも嫌味にならないようにつけている。
『こいつ、今はアイドルソング歌ってるけど、ミュージカルに出て来るようなバラード歌わせたら、もっと上手いだろうな…。』
実際、この後彼女はそんな曲も歌ったのであった。
そして由利加が歌い終わった後、もう1組のカップルの方が、
「由利加さん、すげえなあ~!」
「ホント、尊敬しちゃいます!」
と、由利加を褒めたたえる。
「いえいえ、そんなことないですよ…。
でも、ありがとうございます!」
そして由利加は、そんな風に100点満点の優等生の返事を返す。
その様子には、俺と2人でいる時のような腹黒さは見えない。
『こいつの猫かぶりは、本物だな…。』
俺は、それについて半分感心し、また半分恐ろしくなった。
「じゃあ次、歌いますね!」
そう言って友香さんが歌いだしたのは…、由利加が歌った曲と同じアイドルグループの、別の曲だ。
しかし、その歌声は…、はっきり言って音痴であった。
「すみません。由利加さんの後に、聴かせられるようなものじゃなかったですね…。」
歌い終えた後、友香さんがそう言うと、
「そうですか?でも友香さん、かわいかったですよ!」
と、「優等生」由利加がフォローを入れる。
「ありがとうございます!由利加さんって、優しいですね!」
『まあ、今はそう見えなくもないな…。』
俺はその時、心の中でそう思った。
そして、圭太が(自称)自慢の歌声を披露した後、ついに俺の番が回ってきた。
俺は、大好きなロックバンドの歌を歌ったのであるが…。
まあそれはそれは、ひどい歌声であった。
音程は外すし、高い声はそもそも出ないし、声量も今ひとつで…俺のカラオケに、何らいい所はなかった。
「な、何かごめんなさい。」
俺は誰にともなく謝ったが、その時友香さんは、
「そんな~謝る必要ないじゃないですか。
って、私も謝っちゃいましたけど…。
とにかく、楽しかったらそれでよし!」
そうフォローをしてくれた。
『友香さんって、本当にいい人だな。
でも、友香さんと圭太って、何で別れちゃうんだろう…。』
俺は、ふとそんなことを思った。ちなみに、「運命の青い糸」には、日付は書いてあるが別れる理由までは書いていない。
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