第16話 運命の黄色い糸 一
「ちょ、ちょっと…。」
俺はその瞬間、由利加さんの台詞に呆気にとられていた。
「何!?もしかして私のこと、タイプじゃない?」
「いや、そ、そんなことは…。」
正直に言おう。俺は由利加さんのことを、ちょっとかわいいと思っている…しかし。
「じゃあ、私たち付き合っても良くない?」
「…で、でも、俺たちまだ初対面に近い、って言うか何て言うか…。」
「じゃあはっきり言うね。私、実は克也くんのこと、ちょっとタイプかな、って思ってるんだ。
だから、克也くんに他に好きな人がいないなら…、
私と付き合ってくれない?」
『この子、見かけによらず、って言ったら何だけど、かなり積極的だな…。』
俺は、そう感心せざるを得なかった。
「…で、でも、俺のどこがいいの?」
俺は次に言うべき台詞を自分の中で見つけることができず、そんなありきたりなことを由利加さんに問いかける。
「うーんまずは…身長?」
『えっ…。』
俺は、そんなに背は高くはない、が…。
「何か、私ってそんなに背が高くないじゃん?だから私、背の高い人と並ぶと、ちょっとアンバランスな気がするんだよね。
でも克也くんとなら、並んだ時ちょうどいいような気がするんだ!」
「…そ、それ、本気で言ってんの!?」
…だとしたら、この子はめちゃくちゃ軽い子だ…俺の中の恋愛レーダーは、そう反応した。
「あ、今私のこと、『軽い女』だ、って思ったでしょ?
もちろんさっきのは冗談。まあ、半分、いや4分の1は本気だけどね~!」
1つ分かったことがある。繰り返しになるかもしれないが、由利加さんはかなり鋭い。そして俺は、完全に由利加さんのペースに乗せられていた。
「じゃあ、本当はどこが…、」
「それは…、
付き合ってくれたら、教えてあげるね!」
そう言いながら由利加さんは、急に上目遣いになって俺を見上げ、その後とびきりの笑顔を見せる。その由利加さんの仕草に、俺は不覚にも、ドキッとしてしまった。
「あ、今克也くん、ドキッとしたでしょ!」
『さすがはスナイパーだ…。』
その時俺は、勝手に由利加さんを「スナイパー」と認定した。
「え、いや、まあ…、それは…。」
「で、どうするの?付き合ってくれるの?」
そして俺は、ここで気がかりなことがあった。
それは…、俺と由利加さんとの間の、「黄色い糸」の存在だ。
今まで俺は、告白をされたことはあったが、その際その彼女との間には、「運命の青い糸」が見え、またその別れる日付もしっかりと見えていた。そして、その告白を俺が受け入れても、その日付になると向こうから振られるか、相手が遠くへ行ってしまい自然消滅になるか、また俺からその日付に合わせて彼女を振るかしてきて、100%の確率で俺と当時の彼女は別れてきた。
しかし、今回告白してきた「彼女」との間には、「運命の青い糸」は見えない。…その代わりに、「(運命の?)黄色い糸」が見える。これは…、何のサインなのか?
繰り返しになるかもしれないが、もちろんここで「赤い糸」が見えていたら、俺はそれを「運命の赤い糸」だと思い、「由利加さんこそが、俺にとっての運命の人だ。」と思ったかもしれない。…しかし、俺が今見ているのは、「黄色い糸」だ。
この「糸」には、一体どんな意味があるというのか?
「ちょっと克也くん、聞いてる?」
…どうやら俺は、その件について考え、少しぼんやりしてしまっていたらしい。
「あ、ご、ごめん。」
「で、答え、聞かせてくれる?」
そして俺は、半ば反射的に、
「いいよ。」
と、答えてしまった。
「本当!?嬉しい!ありがとう!
ま、でも、私が告白したんだもんね!当然といえば当然か!」
『最後の一言は、余計な気が…。』
俺はそう思ったが、口には出さなかった。
「じゃあこれからよろしくね、克也!」
急な呼び捨てに俺は、
「おう。」
とだけ答え、また由利加さんの方も、
「あ、私は『由利加』って呼び捨てでいいからね、克也!」
とのことだ。
「じゃあ、今度の日曜日、どこかデートに行こっか!」
その後、俺たち急ごしらえのカップルは、デートプランについて話し合うことになった。
また、その間も2人の間、小指には、「黄色い糸」が見える。
『ま、糸が黄色いってことは、すぐには別れない、ってことでいいのか?』
俺は、2人でスマホを見ながらデートプランを練っている時、そんな風に思った。
こうして、俺と由利加、「運命の黄色い糸」で結ばれた2人は、付き合うこととなった。
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