思いは時空さえ超えて

武蔵の持つ二本の刀がキリナ達を斬らんとばかりに光る。



どうたぬきを握り攻撃に備えるキリナ。



シェリーと狸助も強敵に違い無い目の前の敵に向かい構えをとる。



「アザミ…いや武蔵さん…戦う前に一度聞かせて…貴方は魔物じゃないですよね?」



武蔵は瞬きをする。



キリナは小さい頃、アザミの身体がその場で消えて連絡が取れなくなった事、アザミの魂がマヤの本体に入り、ツトムと結ばれたが、肝心のアザミの本体が何処に行ったのか気がかりになっていて、今そこにいるのがアザミの本体と信じて疑わなかった。



「武蔵さん、貴方の身体は私のアザミお姉ちゃんのもの、でも魂は昔のお侍さん、ここに瞬間移動させられた後の事が気になるの」



キリナは武蔵に聞きただした。


「そこまで知りたいのなら教えてしんぜよう…拙者は修行の旅を終え最愛の妻の元へ帰る途中で此処に瞬間移動させられた」



武蔵はこれまで自分の身に何があったのかをキリナ達に聞かせる。


ーーーマヤとアザミの魂入れ替わり後…。


武蔵は見たことの無いような部屋の中にいた。

床には何故か魔法陣が描かれ怪しげな本が床が本を読んでいるような感じに投げられている。



ベッドがあり、ぬいぐるみが飾られ、輝くタンス、机、カーテンなどは武蔵からすればファンタジーな空間だった。


部屋に飾られている四角いテレビも、武蔵からすれば見た事が無いような珍しい形をしていた。



(これは夢の中なのか?)



武蔵は思ったが、その後救急車の音が鳴り響く。



「敵か?やばい!!」



救急車の音が敵襲の笛のようにも感じたので武蔵は急いでその場から姿を消した。



その後各地を放浪するが、いずれも見たことも無い世界だった。



車が走り、コンクリートで固められた立派な建築物、人々の一風変わった服装。



(どうなっているんだ?)



武蔵は思ったがその時、刀剣屋という刀剣が置いてある店をそこで見かけた。



刀剣を持っていないと落ち着かない武蔵は中に入り刀剣を購入しようとするが「円」と言う見たことも無い値段の文字が書いており、またその数値が桁外れに高い。


「お客さん、こいつが気になるんですか?コイツは妖刀ムラマサと申してですね~」



店員がゴマをするようにやって来て聞いてもいない商品の事を喋り出す。



武蔵は手持ちの金が無いのとごちゃごちゃ喋る店員が鬱陶しいのもあり、その店員の首筋に手刀を加え、眠らせた。



その後武蔵は刀剣を二丁手に取り、逃げるように店を出た。



出た後、周りの人々の物珍しく見る視線が気になるが、構わず歩き続けると、ある女性の声が武蔵の脳に語りかけるように言ってきた。



『私はツトムと結婚して幸せに結ばれるはずだった…なのに今は一人ぼっち…お願い、私を助けて』



「誰だ?拙者に語りかけるのは…姿をみせよ!」



武蔵はキョロキョロと見渡す。



すると目の前が紫と黒に彩られた渦のように蠢めく。



『私はここよ!!』



その後、マシュラタウンは大災禍に襲われる。



ーーーー



「くそっ、またか…」



武蔵、アザミはまたも気を失い倒れていた。



目が覚めるとそこは廃墟の山。



先程の賑やかな情景とは裏腹の、禍々しい瘴気が漂う暗黒の世界。



ふとそんな時、恐ろしい形相をした魔物の群れがアザミが崩壊した街を見渡している隙にアザミの腸(はらわた)を食らいつかんと襲いかかってきた。



「!!!」



瞬時に気配を感じ取り、刀の鞘を抜くアザミ。


アザミは襲いくる魔物を回転しながら避け、二丁の剣の弧を描き、着地した。



その瞬間、魔物は真っ二つに裂かれ、地面に倒れ伏す。常に命を狙われていたので自然の勘が備わっていた武蔵には如何なる不意打ちも通用しない。



しかし、またも魔物の群れがアザミに襲いかかってきた。



アザミは二本の刀を構え、赤い闘気を沸き立たつ。



「そんなに血に飢えておるのか?良かろう、この新免武蔵が御相手いたそう!!」



二刀流の技は使えるようになるには至難の業だが。一度極めれば攻守のバランスに優れた武器となる。



大勢の敵を相手するのに適しており、常に大勢の敵を相手に渡りあってきた武蔵は二本の刀を器用に操り魔物達を次々と斬り払ってきた。



魔物の血しぶきが舞い、武蔵は返り血を浴びる。


「はぁ、はぁ…」



その付近の魔物は一掃され、辺りは静まり返るが、魔物達の呻き声は不気味に響き、廃墟と化した都市はそこにいる者の孤独感を一層深める。



「誰か!誰かおらぬのか!!」



やがて孤独感に耐えられなくなったアザミは大声で自分の他に人がいないか叫ぶ。



しかしその声に反応するのは異形の怪物ばかり。



アザミは刀で襲いかかる魔獣を蹴散らしながらも人の無事を叫ぶ。


『ワタシハココヨ…』



すると女性の声が地下鉄の跡らしい暗闇の中から聞こえてきた。



「む?地下に女子(おなご)が?」



アザミは灯を灯し、「今行くからな!」とその者に言葉を返し、安心したように地下の階段を降りる。


地下を歩いていくが不気味な呻き声が聞こえるばかりで肝心の女性は見つからない。



「もう食べられたのであろうか?」



何処まで歩いても女性が見つからない事に苛立ちを感じるアザミ。



それでも一縷の望みは捨てきれず、何処かに無事でいるに違いない、無事で無くてもせめて供養してその女性を天に見送りたいと、アザミはサムライの意志を持ち、長く続く地下の道を歩き続けた。



進むにつれ瘴気と魔物が強くなっていく。



さすがのアザミも体力が切れかけたと言うところに扉が現れた。



そこからは瘴気で出来た黒い煙が湧き立っていた。


『ワタシハココヨ…』


「!!!」



なんと再び女性の声がアザミの耳に入った。




「待っていろ!今助けるからな!」と中にいる女性に声をかけ、アザミは二本の刀を閉まい、その扉を両手に持つ。



くっ、なんて重いんだ、しかしアザミは全体力を振り絞りその重い扉を開ける。


ギギギ…



アザミはその重い扉を開け切った。



「!!!」



アザミの目の前には奇怪な姿の魔物がいた。



確かに女性の姿ではあるが長い髪は白くなっており、肌は青白い。



長い銀髪の奥底の瞳は赤く不気味に光っている。


下半身は大蛇のようにウネウネした触手に覆われており彼女の体からは凄まじい量の瘴気が放たれていた。



ゴオオオオォ!!



瘴気の風でアザミは思わず顔を手で覆う。



『アザミ…会いたかったわ…ハヤク、コッチにいらっしゃい…』



「アザミ!?拙者は新免武蔵!アザミでは御座らぬ!」


アザミは答えた。



しかしその魔物は触手を飛ばし、それでアザミの体を弾き飛ばした。



「ぐあっ!!」


凄まじい衝撃でずんぐりしたアザミの体でも支えきれず、アザミはドサリと倒れる。


『貴女がアザミでもアザミで無くても貴女はもはや私の憎き存在…私を呪った罪で、私が貴女を呪い返してやる!!』



妖怪マヤから沢山の触手が放たれ、アザミはその触手に絡め取られる。



そしてアザミはマヤの下僕と化した。



だが魂は昔の侍のものであるのか、完全に洗脳することは叶わず、少なくとも危機に晒されたキリナを妖怪から助ける程の理性は辛うじて保っていた。



ーーーー



アザミの話はここで終わる。



「話はこれで終わりだ、キリナとやら、そなたに恨みは無いがマスターの命令でそのお命頂戴する!」



アザミは二本の刀を構え、赤い闘気を立たす。



キリナはアザミの話を聞きながら自分の傷を術で治していた。



そして狸助やシェリーも体力は回復した所で戦いの体勢を取った。


「やあああぁ!!!」



「どおおおぉ!!!」



アザミは二本の刀で舞うようにキリナ達に斬りかかってきた。



ずんぐりした体型にも関わらず、動きは身軽でスピードも速い。


ガシィィィン!!!



そして加えられる一撃も威力は相当のものだった。



片方にはキリナのどうたぬき、片方にはシェリーの豪腕を二丁の刀で競り合っていたが武蔵は彼女らを押し退けてしまう。



「くっ、陰陽波!!」



キリナは巫女術をアザミに放つがアザミは刀でそれを弾く。



『風魔手裏剣!!』



狸助が別方向から手裏剣をアザミめがけて放つがアザミは空中にジャンプしそれを避ける。



『!!!』



アザミはキリナのすぐ頭上にいて、キリナを今にも斬りかからんとしていた。



『!!』



『キリナさン!!!』



キリナに危機を知らせるシェリーと狸助。



「!!!」



シェリーと狸助の声に反応し、キリナはどうたぬきを両手に持ち、頭上に上げる。



ガキキキィン!!



アザミの刀剣はキリナのどうたぬきで防ぐことが出来た。



ギリギリ、キリナは腕に痺れる程の衝撃を覚える。



「やるな、キリナとやら、だが某(それがし)は一本しか刀剣を持っておらぬ」



アザミはもう一本の刀でキリナのはらわたを抉ろうとしていた。



「もう駄目だ…!」



キリナはもう流石に助からないと思い、覚悟を決めた。



「悪いが死んでもらう!」



アザミの刀剣が槍のようにキリナに突き刺さってきた。


ふとそんな時、アザミの脳裏に声が聞こえて来た。



『この子を殺さないで!!』


「!!!」



アザミはその声で思わず剣を止めてしまう。



(何故だ…敵とあらば女子供にも容赦しなかったこの拙者が…!)



武蔵は相手が敵であれば子供にも情けはかけなかった。



しかし、体はアザミのものになっているのか、アザミの魂が武蔵に訴えかけているのかは不明だが、生まれて初めてキリナを斬りつけるのに躊躇している。


剣先はキリナのすぐ寸止めと言った所で止まっていた。



そしてキリナのどうたぬきとギリギリと刃競り合いを繰り広げている武蔵の刀剣の力が緩む。



「!!」



キリナはその隙に武蔵のその刀剣を振り上げ、全体重をかけてどうたぬきの剣先をアザミの腹わたに突き刺した。





キリナのどうたぬきがアザミの腹わたに突き刺さる。



そしてキリナはアザミの声を聞いた。



「キリナ…大きくなったね…」



アザミはそう言い残すと地面にそのまま崩れ落ちた。



キリナは放心状態のまま、瞳からは涙がただボロボロと流れていた。



『キリナさんっ!』



シェリーと狸助が駆け寄る。



赤く染まったどうたぬきをただ見つめるキリナ。



『キリナさんっ!』 「あ…」



放心状態のままとなっていたキリナをシェリーと狸助は再度呼びかける。



ふと気がつくキリナ。



アザミお姉ちゃん…マヤお姉ちゃんを絶対成仏させてあげるから、アザミお姉ちゃん、ゆっくり休んでてね!



キリナはアザミを天にとむらい、最後の戦いへと身を投じるのだった。

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