マヤの魂

『ニンゲンダ…』



『コイツ…生キテルゾ…』



不気味な魔物達が涎(よだれ)を垂らしながらキリナ達を取り囲む。



殆ど原型を留めていないような恐ろしい姿をしていたが巫女修行や妖怪退治の手伝いで鍛えられたキリナ達は臆する事なくその魔物達と対峙する。



「かわいそうに、今あなた達も成仏させてあげるからね!」



キリナは妖刀どうたぬきを握り、魔物の群れに立ち向かう。



そしてシェリーと狸助も。



グチャアアァ!!



粘液でキリナの動きを封じようとする妖怪。



『変わり身の術!!』



粘液は変わり身の木の切り株に付着する。


狸助は妖怪に幻覚を見せ、忍術で木の切り株とキリナと入れ換えてたのだ。


「たあっ!」


キリナの一閃が魔物に激闘、魔物は断末魔を上げて消滅した。



シェリーも負けていない。



シェリーは腕からガトリング砲を突出させ、妖怪達を一網打尽にする。



『ギョエエエエェ!!!』



魔物はシェリーの砲で次々と蜂の巣になり、地面に倒れ伏した。



「瘴気が強くなって来てるせいか魔物も強力になってるわ!」



『えぇ、この地下により強力な生態反応を感じまス!恐らくマヤさんの魂はこの地下に…』



『気を引き締めて行きましょう!』



キリナ達は昔は地下鉄として利用されていただろう地下へと通じる階段を降りる。



そのずっと奥ではどの魔物より大きな瘴気を放った魔物が紫色の息を吐きながら此方に進む一人の少女を待ち構えていた。



『キリ…ナ…』



キリナの波長を感じたその魔物は真っ白な髪や全身と裏腹に漆黒のオーラを更に噴出させ、眼光は赤く光っていた。


ゾワッ!


キリナの全身から悪寒が走る。



『キリナさン?』


『どうしたんですか?』



キリナの脳裏がこの先に行ってはいけないと伝えてくる。


その為か、足元は小刻みに震え、顔色は悪い。



「な、なんでも…っくっ」



強がろうとするが、本能がそれを許さず、キリナは恐怖心に襲われ、地面に膝をついてしまう。



『大丈夫ですか?やっぱり休んだ方が…』


狸助は瘴気に覆われた街での慣れない生活や戦いで体調を崩しているのかと思っていた。


寒さから身を守るように自分の体をギュっと抱いているキリナ。


この先には行けない、行きたくない!体は小刻みに震え、キリナは迫り来る悪寒から身を守っている。



「知らないけど…凄く怖くなって…動けないの…もうダメ…お姉ちゃんを助けるって息巻いてたのに…ゴメンねお姉ちゃん…こんな情けない妹で…」



身震いして恐怖で動けなくなる自分を腹立たしく思い、ひたすらに自分を責めだすキリナ。



『キリナさン…』



シェリーはそんなキリナの手を握る。

シェリーの握った手もまた、震えているようだった。



『キリナさン…私も…正直言うと怖いでス…でも、…私はキリナさんに助けられてから誓ったんでス!私はキリナさんと運命を共にするッテ!』



「シェリー…」



キリナは涙ぐんだ目でシェリーを見つめる。



『僕も一緒ですよキリナさん!』



狸助も熱い目でキリナを励ます。


その熱い目は、どこか恐怖心と戦っているようにも見える。



『色々あったけど、僕らはやっと師匠様からも認められ、お姉さんを救う資格を得られたんです。その中で僕も思ったんです、やっぱり僕もキリナさんがいないと駄目だなって…』



「狸助…」


キリナは狸助も同時に見つめる。

すると先程の恐怖心は二人の温かい眼差しで和らいだ。


キリナは熱い目で前を見据える。



「ありがとうみんな、私、どうかしてた、私、お姉ちゃんを救ってみせる!そして大好きだったこの街を元に戻してみせる!」



『その域です!』


『さあ、ここからが本番の戦いでス!気合を入れましょウ!』



キリナ達は暗い廊下に光を灯して突き進む。



途中で魔物とも出会い、それらを蹴散らして進むキリナ達。



そしてある所に辿り着くとまた一風変わった風景、そして敵に出会うのだ。



どうやら彼らがマヤのボスの一味らしい。



しかし、彼らはこれまでのオドロオドロしい怪物とは裏腹の容姿をしていた。


そのある所では、二人の子供のような、はたまた妖精のような魔物が対峙していた。



一人は茶色の肌に短い黒髪からは角を生やし、コウモリの羽のようなものを背に付けている。


もう一人は白い肌に長い銀髪からは触覚を生やし、天使の羽のようなものを背に付けている。



しかし、彼らは並ならぬ強さを持っているとシェリーは判断した。


「ようこそ諸君なのー!僕はデイビー、マスターの所へは行かせないのー!」


「ボクはセラフィですぅ!あなた達をやっつけるですぅ!」




『気をつけてくださイ、この子達は可愛い姿と裏腹ニ凄く強いですヨ!』


注意をかけるシェリー。



「この子達と戦うのは気が引けるけど、戦うしか無いようね…」


『そうですね、しかし奴らを倒さない事には通れませんからね!』


二人のフェアリーは同時にジャンプし、目にも止まらぬ速さで突撃して来た。



「キャアッ!」


『キリナさんっ!』



『ボスだけあって流石に手強いですね!』


ブンブン飛び回り、キリナ達を翻弄する。



しかしシェリーは二人に体温がある事に気がついた。



『どうやらこの子達はマヤが生み出した魔物では無いようです、どうりで可愛らしいと思いましタ♪』


シェリーは呑気な声で言う。



『何悠長な事言ってるんですかっ!』


苦戦している狸助はそんなシェリーを怒鳴る。



「もう、服がボロボロじゃないっ!」


フェアリー達の攻撃で巫女服をボロボロにされたキリナは悲鳴をあげる。


『生命体とわかればコッチのものですネ♪』



シェリーは怪しげに微笑んだ。


ビクッと背筋が凍るフェアリー達。


シェリーは口から蜘蛛の糸のようなものを勢いよく吐き出す。



「な、なんなのー!?」「なんですぅ!?」



二人は糸に絡み取られる。



身動きが取れず、ジタバタと暴れるフェアリー達。



「う、動けないのー!」



「あ、あわわっ!?」



セラフィがある者が近づくのに怯える。



「どうしたのー!?」


なんとシェリーがセラフィの前で足を止め、怪しげに笑っていた。



『ふふフ、可愛い、可愛いわァ、今からお姉さんがあなたに大人の勉強を教えてア・ゲ・ル…♪』



シェリーはそう言うと、セラフィに大人の教育を熱心に教えた。



「やめてぇですぅ!」


『わわっシェリーさん何して…てキリナさんも!?』


手で隠すような仕草はするも男心なのか、視線はじっとそちらを見ている。



それを見たキリナは二へへと笑いだしデイビーの元に歩きだした。


「な、何するつもりなのー!?」



デイビーは妖しく笑いながらこちらに向かうキリナにおののき問う。


「大丈夫よボク♪お姉さんも散々シェリーから鍛えられたから♪」


「やめるのー!!」


キリナもシェリーから教わったスキルでデイビーに熱心に大人の教育を施す。



「デュッコデュッコ♪」


「ひいいぃ!!」


「バシュバシュ♪」



それからと言うもの、フェアリー達は熱心に大人の勉強に励むのだった。


「スッキリした♪」『さぁ行きましょうカ♪』



熱心に勉強しているフェアリー達を見て狸助は思った。



『女って怖いな…』


瘴気と敵の強さが尋常のものでは無くなっていく。



「はぁ、はぁ、みんな…無事?」



『何とカ…しかしいつまで保(も)つのカ…』


そんな時、魔物の渾身の一撃がキリナに降り注いで来る。



『キリナさん!危ないっ!!』



「え?」


狸助は叫ぶが疲れがピークに達しているキリナにはその反応はワンテンポ遅れていた。




『くっ!』



狸助は庇いに出ようとしたがその前に、ある者が狸助より前に駆け出す。




「バシュッ!!」



弧を描かれる一閃。



キリナめがけて降り注がれた「それ」はその一閃によって弾かれた。



それはキリナのものではない。



キリナは腰を抜かして動けなくなっているからだ。



「あ…あなたは…?」


キリナはキリナの前にいる人物に尋ねる。


『あの人ハ…?』



キリナを助けに来たと思われる人物にシェリーも疑問に思うしかなかった。



メカとは言え戦いの連続で人間同様にパワーが落ちて来ているのだ。


狸助もシェリーも、今キリナを危機から救ったと思われる人物の事はわからない。



しかしその人物はキリナはハッキリと覚えていた。



大災禍が起こる前に一緒に過ごしていた人物。




次女アザミだった。



「アザミお姉ちゃん…?」



キリナはその人物に尋ねる。



アザミは二本の刀を手に持っていた。



武者の鎧をまとい、本格的な武装をしていた。

ところがアザミはキリナの問いにこう答えた。



「我の名は新免武蔵(しんめんたけぞう)!アザミでは御座らぬ!」



アザミ、いや武蔵は言い放った。



「え…?」



不可思議な言葉を放つ人物にキリナは目が点になる。




「我は幾多の戦いを経て最愛の恋人お通の元に戻る予定であった、しかし眩い光に思わず目を覆ってしまうと、視界が戻った時には此処にいた…」



武蔵はこう言ってきた。



「それより貴様、なぜこんな所にいる?此処はお前達のようなか弱き者がいる所では無い!早々に立ち去られよ!」



アザミはキリナ達にここから出るように促す。



「アザミお姉ちゃん、いや武蔵さん!私達はマヤお姉ちゃんを助けに来たの!」



キリナはこう言いだした。



すると武蔵は目の色を変えだした。



「むん?貴様マスターの妹君(いもうとぎみ)か?」


「え?」



キョトンとしたまま見上げるキリナ。



武蔵は二本の刀を構え、赤い殺気を沸き立たせ、キリナ達に言い放つ。



「貴様らに恨みは無いがこの新免武蔵!お命頂戴する!」

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