廃都へ
マシュラタウンーーー
ワイヤーズブレイクにより地縛状態となっていたマヤの魂が暴走し、その街を大災禍に巻き込んだ。
その後、復興作業をする者や留まろうとする者を次々と巻き込み、街を妖怪の巣窟にしてしまう。
軍や僧侶達は街から妖怪が飛び出さないように街をバリゲードや結界で囲い込んだ。
数年経った現在も立ち入りが禁止されており、マヤの魂が妖怪と化して街全体の魔物を従えている。
そんな街の中、今キリナ達が入ってきたところだ。
『グオオ…ヒィィ…』
妖怪と思しき奇怪な鳴き声が街全体に響く。
『想像以上に不気味な所ですネ…』
シェリーが呟く。
「うん、とても寒いし、なんかここにいるだけで気が重苦しくなるね…」
キリナが返す。
そんな中狸助は無言のままキリナ達について来ていた。
『狸助さんここずっと元気無イですけどどうしたんでしょうカ?』
無口な狸助を見てシェリーが口を開く。
「気持ちわかるよ、怖いもんね、ここ…ねえ狸助?」
『…どうしたんですか…?』
半ば愛想ない返事をし、狸助が振り向くとキリナが手を差し伸べているのが目に見えた。
「怖いよねここ?ずっと私が抱っこしてあげる♪」
キリナは穏やかな口調で言う。
狸助はそんなキリナの手を乱暴に払いのける。
『やめてくださいよ!子供じゃ無いんだから!』
狸助の突然の怒鳴りようにキリナは驚いた様子を見せる。
『…すいません、僕とした事が…ちょっと手洗いに行ってきます…』
そう言うと狸助はキリナから離れて行った。
「あんまり遠くに行ったら危ないよ!」
キリナは後を追おうとするが『ついて来ないでください!』と強い口調で狸助は言い放ち、その場を離れた。
ーーーー
狸助はキリナのサポーターで良いのだろうかと思い始めてきた。
何故ならリクやノゾミとの戦いでキリナの言動に愛想を尽かした事のほか、キリナを助け続ける意味はあるんだろうかと悩む事が多々あったからだ。
キリナは純粋ゆえ空気を読めずに思った事を言ってしまう事が多い。
狸助はその辺案外ナイーブだ。
狸助はキリナの何気ない言葉を我慢して聞き流していたが、あの一連で完全にキリナに失望した。
嫌いになったという事だ。
狸助はこのまま考え事をしていた。
ふとそんな時、怪しげな影が狸助を狙うかのように歩み寄ってきた。
ーーー一方狸助が戻ってくるのを待つキリナとシェリー。
「狸助ももう年頃なのかな?まあなんだかんだ言って男の子だからね♪」
『そうだと良いのですけド…』
キリナは狸助の深い心理をその時は読めず好きに言葉を走らせていた。
ーーーー
狸助の元にローブを纏った人物が現れる。
「わっ、なんですかあなたは!?」
これまで考え事していた狸助は突然現れた人物に驚く
『少年、何か困り事があるみたいだな?』
顔は見えない。
狸助は思った。
ひょっとしたらキリナなんじゃないかと。
『どうせキリナさんでしょ?からかわないでくださいよ!』
『その小娘の事で悩んでいるのだろう?』
『!!!』
狸助が振り向くと、ローブの人物はシワがれた手を突き出し紐で吊るされたコインをくるくると回していた。
コインが嫌でも目に入り、狸助の意識が徐々に遠のく。
狸助は催眠にかかったのだった。
ーーーー
その時、ずっと帰って来ないキリナ達。
狸助が行った場所を見てみるもののそこにもおらず、狸助の身に良からぬ出来事があったのではないかとキリナ達は恐れる。
「狸助~!いたら返事して!!」
『狸助さ~ン!!』
ずっと帰って来ない狸助にキリナ達はおののき、大声で狸助の名を呼ぶ。
「どうしよう…私が目を離したばっかりに…」
『自分を責めないでくださイ!まだ食べられたと決まった訳じゃないでス!!』
身を震わせ泣き出しそうになるキリナをシェリーは励ます。
「狸助~!狸助~!!」
キリナ達は懸命に狸助の居場所を探した。
「グルルル…」
そんな時、大きなあるものが、キリナ達の元に近づいて来た。
そのものの隣にはローブの人物がいた。
『グフフ…そこにいる小娘共を亡き者にせよ!お主はもうワシの操り人形…逃れは出来ぬ!』
ローブはコインをクルクルと回しながら大きな獣を操る。
「『!!』」
強烈な獣の匂いを感じ取るキリナとシェリー。
「この臭い…そう言えばお師匠も言ったことあるわ…このような臭いのある箇所には行っちゃ駄目だって…」
『危険な動物の匂いですが妖怪では無いようでス…しかし、何故こんな所ニ?』
ガラッ、
「!!!」
瓦礫の一部が崩れる音にビクンとその場に振り向くキリナとシェリー。
するとそこには大きな熊のような生き物がヨダレを垂らしながら立っていた。
茶色の毛皮に目の部分は黒いその熊のような巨獣。
キリナは驚きその場で固まっていた。
訓練はそれなりに受けたのにいざその場に現れると冷静さを保てない。
その巨獣は咆哮をあげながら腕を振り上げ、キリナを叩き潰そうとした。
『危なイ!!』
瞬時にシェリーが止めに入る。
ガッ!!
熊の巨大なバットのような腕を受け止めるシェリー。
シェリーはピンク色の甲冑を来た人形のような姿だが、レインに改良化され、戦闘能力も防御力もいざという時の為に強化されている。
そして脳の性能もかなりアップしているのだ。
そんなシェリーはその熊の腕から見覚えのある人物の生体反応を感じ取った。
『えっ、その熊は狸助さン!?』
シェリーはその熊が実は変身した狸助のものと知る。
「くらえっ!陰陽…」
『キリナさン!!』
攻撃しようとしたキリナにシェリーは止めに入る。
『キリナさンっ!信じられないかもだけドその熊は狸助さんでス!!』
「狸助!?嘘でしょ??」
目の前にいる大きな獣が狸助なはずが無い。
その狸助らしき獣は殺気を立ててキシャ~ッと唸っている。
顔から浮き出るシワが怒りを象徴しているのは明らかだ。
「狸助…なんでこんな姿に…」
殺気を奮い立たせ襲いかかる狸助。
『狸助さン!!』
シェリーは必死に狸助の攻撃を防いでいる。
「狸助!キリナよっ、返事をして!!」
キリナは訴えるが狸助には耳にも入らない。
「!!!狸助…私があの時あんな事を言ったから…!」
キリナは思い出した。
悔しさのあまり心にも無いことを言ってしまい、狸助を傷つけてしまう事があった事を。
「シェリー!私、狸助に謝らないといけない気がするの!私の精神を送りこむからこのまま狸助と戦って!」
『わかりましタ!』
キリナはシェリーに自分の精神を送り込む。
今の狸助には言葉は通じない。その事に気付きキリナは相手に自分の精神波を送る事によって相手を目覚まそうとしていたのだ。
「狸助、いつも私を気遣い、助けてくれたよねっ、でも私、いつも強がって無神経な事言って狸助を困らせてた、でも、狸助は真面目だし優しいから、いつも笑って我慢してた…。」
キリナは狸助に必死に謝罪の言葉をかける。
「私、悔しくて仕方なかったの!シェリーも強くて、狸助も賢いから、逆に私は鈍臭くていつも助けられてばかりの立場で…、でもホントは凄く感謝してる、だから狸助!お願いだから目を覚まして!!」
その時キリナと狸助が共鳴しあったのか、彼らの体から光が放たれる。
『!!何が起こったと言うのだ!?』
その時奥から狸助とシェリーの戦いを見守っていたローブは狼狽えを見せる。
『キリナさん…』
狸助はキリナを見て言葉を出した。
『謝らないといけないのは僕もです、僕は、いつも見返りを求めてた、ありがとうと言って欲しかった、それが無いことに腹を立てて…、大人気(おとなげ)ないですよね…』
狸助の瞳から涙が滝のように流れる。
すると狸助の体が小さくなり、元の大きさに戻る。
『僕は醜い狸(にんげん)だっ!助ける事で優越感を得たりして…!』
「狸助!」
キリナはしゃがみ、狸助の体をギュっと抱きしめる。
「狸助は醜くないよっ!いつも私を助けてくれる、カッコいい男の子だよっ!」
「キリナさんっ!」
二人は同時に泣いた。
『…!魔物ノ反応っ!』
シェリーは奥で見守っている者の反応を感じ、足を踏み込んでその者めがけて走り込んだ。
「!!!」
見守っていたローブは突然こちらに向かってくる甲冑を着込んだロボットに驚く。
「あわわっ!」
しかしローブは他人を操る事しか出来ず、その場から逃げ出す事しか選択肢は無い。
シェリーはそんなローブに手加減なく拳を突き出した。
「どおおおおっ!!」
ローブの体が数メートル離れた建物に直撃する。
「!!」
キリナと狸助はその音に気付き、歩くシェリーの後を追う。
そのローブは、一つ目に木で出来たデク人形のような姿をしていた。
『この者ガ狸助さんを操っていた者の正体のようですネ…』
『やっぱりここには凄い瘴気を感じます…慎重に行動した方が良さそうですね…』
「うん、でも私はマヤお姉ちゃんを助けなきゃいけないもの、ここまで来たら後には引けない!」
3人は瘴気漂う廃墟の街を慎重に進んだ。
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