強敵の兄妹
キリナの生まれ故郷マシュラタウンは魔物の巣窟となり、その魔物が外に飛び出さないように自衛隊によるバリゲードや僧や巫女による結界が魔物を飛び出すのを防いでいた。
それ程魔物達の力は強大でバリゲードだけでは足らず僧侶達の除霊の力無しでは簡単にぶち破ってしまうのだ。
そしてその魔物達を生み出しているのはなんと、ワイヤーズブレイクと言う電磁波がマヤの残留思念に直結し、具現化したマヤの魂である。
マヤはキリナの姉で、恋人ツトムとの結婚を控えていたが、結局は次女アザミがマヤの体を乗っ取り、マヤは魂のままこの地に留まったままとなっていた。
そして電磁波がそのマヤの魂に直撃した後、マヤは妖怪と化し破壊本能のままに街を大災禍に巻き込んだのだ。
復興に携わった者や留まろうとした者は瘴気により魔物となるか、魔物に食われるかなどして全員が犠牲となり、数年経った現在も立ち入り禁止区域に指定されたままだった。
バリゲードから周囲数百メートルは人がいなく、廃墟が立ち並ぶのみである。
それは魔物の群れと軍や僧侶による激しい戦いで魔物の活動範囲を縮めてきた結果である。
その街もマシュラタウンの一部だったが、今は瓦礫が立ち並ぶのみで瘴気の為か、草一本生えていない。
その唯一入り門になりそうな箇所には二人の人物が待ち構えていた。
一人は立派な紀章(きしょう)に彩られた黒い軍服に長い刀を持っているが、顔立ちは中性的で細身の青年。
もう一人は黒い和服のようなローブを羽織り烏の面を左頭部につけ、箒(ほうき)を両手に持ったうら若き女性。
青年は瞑想をし、女性は水晶玉を眺めていた。
「兄さん…」
「ああ、もうじきここに来るようだな…」
青年は目を開ける。
その意志の強さを象徴した目は一点をつく。
その方向にはやがて人影が見えてきた。
一人は長い黒髪に巫女装束姿の少女、もう一人は桃色の甲冑を纏った人型のロボット、もう一人は小さくてずんぐりとしたタヌキだった。
彼らこそキリナ、シェリー、狸助である。
キリナの姉のマヤの魂を救おうと今は廃都となっているマシュラタウンに入ろうとしているのだ。
「待たれよ、旅の方」
刀を片手に握った青年がキリナ達を呼び止める。
歩くのを止めるキリナ達。
「ここから先はヌシでは大変危険な場所…それでも行くつもりか?」
青年はキリナ達を鋭く睨み、言い放つ。
「はい、中は私のお姉ちゃんが救いを求めています。お姉ちゃんを助けられるのは私しかいない!」
キリナは答えた。
それを聞いた青年はふっと表情をほころばせた。
「姉妹愛…か、出会い方が違っていたら仲良くなれたかも知れないが…敵として出会ってしまったのが残念だ…」
青年は刀の鞘を抜き、構える。
「俺はリク、飯須戸炎斗(いいすとえんど)の刀罰隊(とうばつたい)隊長だ、俺の名刀冬風(ふゆかぜ)を前に生きて帰れた者はいない!」
そして側にいた女性が前に出る。
「私はノゾミ、同じく飯須戸炎斗の魔撃隊(まげきたい)隊長、私の魔法を前に無事だった者はいない!」
黒い軍服の美男に黒い和服の美女はキリナ達を睨みそれぞれの武器を持って構える。
「貴方達がその気なら…」
キリナは片手を宙に掲げる。
すると刀がそこに現れる。
それを握るキリナ。
「私はキリナ、そしてピンクの子がシェリーにタヌキの子が狸助よ、出来れば私もこのような出会い方はしたくなかった…でも貴方達がどうしてもここを通さないと言うなら…しょうがないですね」
「レイン博士のご命令だ、悪く思うな」
そして二組の戦いの火蓋が切って落とされた。
「きえええぇ!!」
「やあああぁ!!」
斬りかかろうと突っ込む両者。
互いに相手の攻撃を防ぎ隙を狙う命懸けのバトルが繰り広げられる。
ただリクの構えには隙が無く、放たれる一閃も速く受け止めるだけで苦戦するキリナ。
「くうっ!」
「この程度ではこの中を渡る事は出来ぬぞ!」
余裕な表情のリク。
「くぅっ、なめるな!!」
キリナは悔しさ紛れに剣を放つ。
『キリナさん!』
苦戦するキリナに狸助がサポートする。
狸助の放った木の葉乱舞やかまいたちがリクに飛ぶが全て消化してしまう。
『そんなっどうして!?』
狸助は狼狽する。
一方で動いていないノゾミを見やるとノゾミが詠唱しているのが見えた。
ノゾミは技無効の魔法を唱えていたのだ。
『くッ!』
シェリーがノゾミに殴りかかる。
しかしノゾミはその場から姿を消し、また別の場所に瞬間移動した。
『瞬間移動!?私ノデータを持ってしても彼女の居場所が読めなイ!』
ノゾミは詠唱を唱えているがシェリーが攻撃しても瞬間移動で消えてしまう。
更に脳を活性化させてノゾミのデータを見切ろうとするシェリー。
するとデータには物理による攻撃では通じず魔法の力で封じるしか無いと出てきた。
『わかったワ!ノゾミさんの魔法の技は同じ魔法の技デ封じるしかなイ!!』
リクとの戦いでは防戦一方で手足の出せないキリナ。
『キリナさン!』
シェリーがリクの一閃を腕で受け止める。
『ここは私二任せて!貴女はノゾミさんヲ!』
「わかった!」
キリナは攻撃対象をリクからノゾミに切り替える。
「相手を変えようと同じ事、私の魔法はどの魔法も随一を許さない、貴女の陰陽術とやら、お見せして貰おうかしら?」
ノゾミはほうきを構える。
キリナは陰陽術を発する構えをとる。
「喰らえ!陰陽波!!」
「ファイヤストーム!!」
炎がキリナの放った陰陽波をかき消し、熱気がキリナの肌を伝う。
「熱っ!」
「熱い?なら冷やしてあげるわ、アイスストーム!!」
ノゾミは冷酷な目で言い放った後、冷気の攻撃をキリナに浴びせる。
『キリナさん!!』
狸助が助けに出ようとした所、ノゾミは指先に青い光を発しそれを狸助の足に放った。
『うっ!』
ノゾミの足止めの魔法で狸助の手足が動かなくなった。
「タヌキは引っ込んでなさい」
ノゾミは先程の穏やかそうな表情から一変して冷酷な魔女のイメージがしっくりと来るような表情となり、漆黒のオーラが彼女の体を包み込んでいた。
「!!!」
ノゾミから放たれる威圧感におののくキリナと狸助。
「言ったでしょう?攻撃対象を変えても勝てるはずが無いと」
ノゾミは魔法を放つ構えを取った。
「サンダーバード!!」
「マグマクエイク!!」
ノゾミは自然を利用した魔法を次々とキリナに浴びせる。
「くっ!この人も相当強いっ、私の陰陽術じゃ手に負えないっ!」
キリナは結界の鎧を纏うがそれでも魔法によるダメージを一身に受ける。
そしてこちらには魔法を放つ余裕が無く、放ってもすぐにかき消される。
キリナはリクとの戦い同様防戦一方となっていた。
「キャアァ!」
キリナはノゾミの魔法の乱撃でドサリと倒れる。
その時、狸助はノゾミの放つ魔法を見てある事に気がついた。
『そう言えばこの人は炎や氷など自然を利用した魔法しか放っていない…、はっ!』
狸助は思い出した。
師匠のアオイから受けた授業内容の事を。
ノゾミは地面に倒れ込むキリナを虫を見るかのような目で見据える。
「わかったかしらお嬢さん?貴女のようなか弱い女の子は姉の魂を救うなんて馬鹿な真似はやめて花嫁修行でもしていなさい」
その時狸助がキリナにテレパシーによるアドバイスを入れてきた。
『キリナさん!自然学です、自然学を思い出してくださいっ』
「し…自然学…?」
キリナはピクリとする。
『キリナさん!この人の魔法を観察した所自然を利用した魔法しか使っていません!この人の魔法には自然による魔法で対抗するしかありません!』
「自然!?そうかっ!」
キリナは力を振り絞って立ち上がった。
「まだそんな力が残っていたのかしら?でもそこまでよ、所詮貴女の半端な力では私達のようなエリートに勝てるはずも無いわ!」
ノゾミは手の平から炎を発し、それをキリナに放った。
「炎が来た!えとっえと…」
キリナは咄嗟の魔法に一時テンパる。
『氷です!』
「氷!そうかっ、氷菓弾!」
キリナは何とか氷の術で炎の魔法をかき消した。
「くっ、これならどう!?エアロカッター」
ノゾミは風の刃でキリナを切り裂こうとした。
『キリナさん!金です!』
「金色閃!」
またもノゾミの魔法を防ぐキリナ。
「ブリザード!!」 『炎です!』
「クエイク!」 『光です!』
狸助はキリナに次々とアドバイスを入れ、キリナはそれに従い次々とノゾミの魔法を防いでいく。
「私の魔法を見切れるようになったなんて…やるわね…!」
「ふん、頭の作りが違うのよ!」
キリナはノゾミの問いにそう答える。
『僕のアドバイスなんですが…』
狸助はキリナの言葉に心の中で突っ込む。
キリナの答え方に少しプッツンした狸助は今度はアドバイス無しを決め込む。
「ファイアーエムブレム!」「熱い熱いっ!」
「アイスクライマー!」「ひゃああぁ!」
やはり狸助のアドバイス無しでは何も出来ずキリナはノゾミの魔法を受ける一方となる。
「んもぅっ、狸助!アドバイスしてよぉ!!」
キリナは痺れを切らし言葉を上げてしまう。
『あわわっ口でそれ言っちゃ駄目だって!!』
狸助も慌てて口で言葉を返してしまう。
「アドバイス?そうか、このタヌキが!」
ノゾミは今度は狸助に魔法攻撃を浴びせようとする。
『もうダメだっ』
狸助が必死に目を瞑り、覚悟を決めたその時、自分の身に何も反応が無い事に戸惑いを覚える。
おそるおそる目を開ける狸助。
「魔法が出ないっ、くそっ、水晶玉が!」
ノゾミの水晶玉が黒ずんでいた為、魔法が放てなくなっていたのだ。
ノゾミは気を水晶玉に送り込み、水晶玉を修復する。
その為に隙が出来ている。
…のにも関わらず尻もちをつきながら呆然と見ているだけのキリナ。
『何やってるんですかキリナさんっ!今の内に攻撃してくださいっ!』
アドバイスしないでおこうと思っていた狸助だったがノゾミの対象が今は狸助に向かっている為今度は自分の身が危ないと感じ、必死にキリナにアドバイスを吹っかけた。
「っ!そうかっ、陰陽波!!」
キリナは水晶玉を修復して隙だらけのノゾミに今の内に攻撃を浴びせる。
「っ!きゃあぁ!!」
ノゾミはキリナの陰陽波をくらい、地面に倒れた。
一方でシェリーとリクの肉弾戦は引き続き行われている。
『この人、技モスピードも並の人間ノそのものを超えていル…!流石飯須戸炎斗の隊長だけあって強すぎル…!』
シェリーは体の所々にリクによる剣撃を受けている。
しかしリクとてシェリーは楽な相手とは言えず、互角な戦いに逆にやり甲斐を感じていた。
「見事なり!我とここまで互角に渡り合える相手は貴様がはじめてだ!」
リクはシェリーを心から感心し言葉を上げた。
『貴方モとても強いワ…もし敵じゃなかったら一緒ニディナーをご馳走していた所だったかモ♪』
シェリーは皮肉に近い褒め言葉でリクに返した。
「俺の名刀もあと一振りで折れてしまいそうだな…だが貴様とて体は既にズタボロ…次の瞬間がやるかやられるかの瀬戸際だっ!」
リクは地面を蹴り自分の後一回の剣撃に全てを賭ける。
そんな時、キリナが助太刀に入った。
『残念ネ、真剣勝負と行きたい所だけど私モこの子達と目的を果たしたいノ、ご希望には添えられないワ♪』
途中で助太刀に入ったキリナとシェリー、そして狸助は同時にリクに攻撃を浴びせた。
ドドドド!!
「見事だ戦士達よ…また決闘を申し込もうぞ…」
リクはそう言うと悔いのない安らかな表情でその場に倒れ伏した。
『皆さン、ご無事でしたカ』
安心するように声を出すシェリー。
『僕のフォローが無かったら…』
狸助は言おうとしたがキリナがそれを遮り、
「んもぅ狸助ったら私がいなかったら何にも出来なくてさー!」
とありのしない事を言い始めた。
『僕この人のサポーターやめようかな…』
狸助は如何にも自分だけでノゾミを倒したと言わんばかりのキリナに少し愛想を尽かすのだった。
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