囚われのシェリー

キリナ達が案内された個室。



個室はまるで新品のような白い壁に床にはモフモフのじゅうたんが敷かれ、大画面のテレビやゲームまで品々が充実していた。



冷蔵庫にはジュースやお菓子、アイスが入れられ外への眺めも中々のものだ。



待機するだけでこんな贅沢して良いのかと思うキリナ達。


暇つぶしに対戦ゲームをするキリナと狸助。


二人は「マリナレーシング」と言うレースゲームを楽しんでいる。


狸助は妖怪なので普段は物を触れないがキリナの精神集中で物体に触れる事も出来る。


「やったー私の一人勝ち!」


『くぅっもう一回勝負です!』


二人は時も忘れてゲームに熱中していた。


それから3時間余り経つとレインから連絡が入った。



「キリナ君、シェリーの改良が完成したぞ、しばらく部屋で休んでても構わないが…」



「今行きます!」



キリナと狸助はレイン達のいる開発室へ急いだ。



開発室ではシェリーが椅子に座った姿勢でキリナ達を迎えていた。


キリナ達を見たシェリーはすくっと立ち上がる。



『キリナさン!』



キリナ達に歩みよるシェリー。



『この間はすみませんでしタ、せっかく助けてもらったのにご迷惑をかけてしまっテ…』



シェリーは恥ずかしそうな仕草をする。



「考える事が出来るようになったの??」



驚くキリナ達。


「ああ、この子は君に色々無礼をしてしまった事を反省しているようだ」


レインはコーヒーを口に含みながら言う。



「シェリーちゃん、私の事は良いから頭をあげて!」



キリナはすまなそうにしているシェリーをなだめる。


『はイ、それはそうとキリナさン…』



話を変えようとするシェリー。



「え?」


『私を直そうとしてくれたとは言エ叩かれた時はとても痛かったでス、叩く時は手加減してくださイ』



シェリーは少し拗ねたように声を出した



「う…すみません…」



鋭く突っ込まれたキリナはシェリーに平謝りするしかなかった。


「冗談ですヨ♪キリナさン」



シェリーは半ばからかうようにキリナの肩を優しく叩きながら明るい声で諭す。



『ちょっと抜き差しならない子ですね…』


狸助はキリナよりお姉さんぽい性格のシェリーを見て呟く。



そんなシェリーに後ろからレインが話しかけてきた。



「シェリー君、すまない、生前の姿にしてやりたかったが部品が足りなくて…」



『いいエレインさン、自分の意思で考エ、動けるようになっただけでモ幸せでス!』


生前の姿?


「シェリーちゃん、生前の姿って…」



キリナはシェリーを見上げて口を開く。



『はイ、私ハ元は人間、元々ハ女子大学生でしタ』



シェリーは軽く元の自分を自己紹介した。

大学生と言えばキリナより少し上らしい。



元人間だったなんて…どうりでシェリーの感情が読めた訳だ。



「キリナ君、シェリー君はかわいそうな子なんだ、大事にしてあげるようにな!」



とレイン博士。

シェリーの過去が気になるキリナ達。


「シェリーさん、貴女は元人間だったなんて知りませんでした、叩いたりしてすいません」



引き続いて謝るキリナ。



『そんなにかしこまらないデ、私モ無理言ったリ迷惑かけテしまったんですもノ』



シェリーも謝り返す。



『私は確かニ貴女より少し上ですガ友達と思ってタメ語で話しかけてくださイ』


シェリーははっぱをかける。



『ところでシェリーさん、何故ロボットに?』

「はい、実ハ…」


狸助が聞き、シェリーは自分の過去を語り出した。


ーーーー2年前



シェリーはそこそこ金持ちの令嬢として生まれ、弟や両親と共に何不自由無い生活をしていた。

彼女は綺麗な顔立ちで友人も多く、器量の良い少女で大型犬のイザイラをたいそう可愛がっていた。

彼女は比較的童顔にも関わらず凹凸がはっきりしていてスラリとした容姿からモデルになると言う夢を持っていた。

そしてそのオーディションに合格し、家族で盛り上がり、お祝いパーティーを開きに実家に帰ろうという時、悲劇は起こった。

シェリーの乗るタクシーが時間内に航空に着くためにスピードを上げすぎ、衝突事故を起こしたのだ。

シェリーは全身が不自由となり瀕死の状態。

嘆き哀しむ両親。

その時怪しい医師を名乗る者が現れ私達ならその娘を元の美しい娘に戻せるとシェリーの親に交渉を持ちかけた。

可愛い一人娘を蘇らせる為ならと父は全財産を投げ打った。

しかしその医師は闇商人で若い女性を自分の意思を失わせて体を売らせる悪徳商人だった。

悪徳商人は警察の活躍で捕まるものの、シェリーは人から人へと売り渡され、結局見つかる事はなかった。

シェリーはボロボロになった為機械の体にされていて、自分の自我も脳の改ざん手術によって奪われ、こうした地獄の日々を過ごす事になった。

このまま一生この生活になるかと思われたが、そこでキリナ達によってこうした日々から解放されたのだ。


シェリーの過去を聞いたキリナと狸助は胸が締め付けられるような思いになる。



『ごめんなさい、余計な事を聞いたりして…』


狸助が謝る。


『いいエ、貴方は何も悪くありませン、おかげさまデすっきりいたしましタ♪』


シェリーは言葉を返す。


『キリナさん達のおかげで私ハ自我を取り戻し、自由になりましタ、ただ、心残りがあるとすれバ、家族を一目で良いから見てみたイ…』


シェリーはやや俯き、家族の無事を願うように胸を抑えていた。


「その家族はどこにいるの?」


キリナが聞く。


『今もあるとすれバ、[クッキータウン]と言う所にあるはずなのでス…』

「ちょっと遠いね、ま、大丈夫よ、とことん付き合ってあげる!」


キリナ達はクッキータウン行きの駅に向かい列車に乗った。


****



駅についたその時、黒いスーツを着た男二人と鉢合わせになるキリナ達。

シェリーはその男を見た途端そそくさと隠れようとする。


「どうしたのシェリーちゃん?」


キリナがシェリーに振り向く。



「あれは…!」


シェリーの姿を見た男達は途端にこちらに向かって来る。



「お嬢さん、そのロボットは貴女のものですか?」


男の一人がキリナに聞く。

それをよそ見にビクビクしているシェリーに狸助が心配して聞く。


『どうしたんですか、そんなに震えて…』

『彼等ハ私を追っていルマフィアの一人でス、見つかったらまた私ハ連れていかれル…』


キリナはシェリーのビクビクした様子を見てさとぅた。

シェリーをこの男達に連れて行かせてはいけない!


「貴方達にとっては大事なものかも知れませんがこの子は私の大事な友達です、貴方達に渡す事は出来ません!」



キリナはシェリーをかばうように男達に強く声をあげた。


「こうなったら武力行使と行くしかないな!」



男の一人は無理やりシェリーを捕らえようとする。



「させない!」


キリナは男のスーツを握り地面にねじ伏せた。

しかしもう一人の手がシェリーに伸びてくる。



『させませんよ!』



狸助が風を操り無数の葉っぱを男の顔に直撃させる。


「み、見えない」



目の前が葉っぱに覆われ見えなくなる男。



「成敗!」

「ぐおっ!」



キリナが木刀を振りかぶり男の頭上に振り下ろす。

それは男の頭に直撃し男は頭を抑えてもがいた。

ババッとキリナはシェリーの前に立ち、シェリーをかばう。



「帰りなさい!この子は貴方達のものじゃない!」

「くっ、このクソアマ…!」



男達は青筋を立てキリナ達を睨んだ。


「大人しくしていれば調子に乗りやがって…お前もこのロボットと同じように可愛がってやる!」


呪うように脅す男達。



「出来るものならやってみなさい悪党!」



キリナはキッと睨み木刀を構える。

そこで男達は拳銃を取り出す。


「女の子にこんな事したくないがロボットは大事な商品なんでね!」



男達はそう言って引き金を引こうとする。



『かまいたち!』



狸助はかまいたちを起こし、男達の持つ拳銃を弾き飛ばした。



「痛っ!何が起こりやがった!?」



狼狽える男達。



「残念だけど私には強力な助っ人がいるのよ!」



キリナは木刀で男達をなぎ払おうとする。

ガシッ!

男はキリナの木刀を掴んでしまう。



「そんなもの俺には通用しないよお嬢さん!」



そしてもう一人の男はキリナを羽交い締めにしてしまう。


騒ぎに駆けつけた駅員が男達に声をかける。



「お客様!ここで喧嘩はお止めください!」

「俺達が誰かわかってるのか?」


怯える様子もなくそう言うと男は手帳を駅員に見せる。


「し、失礼しました…」


手帳を見た駅員はそそくさとその場から離れてしまう。


「くっ、くそっ!」


強いと言っても乙女に過ぎないキリナ。

地面に押し倒されて身動きも出来ない。



「さあもう逃げられないぞ!お前も仲良くロボットになるんだ!」


キリナの後ろ手を組んでいる男はキリナに手錠をかけようとする。

シェリーは自分の無力さを呪い手を握る。



『私ハ無力ダ…仲間が私の為に一生懸命戦っているのニ何も…あレ?』



シェリーは何故か自分がいつもより力がみなぎっている事に気づく。



『そうカ…私ハレインさん達に改良されテ…』

『どうしたんですか?シェリーさん?』



自分の力のみなぎる手を見て狸助は話しかける。

シェリーは拳を力いっぱい握りキリナを捕らえている男に立ち向かう。


自分でも信じられない程のパワーとスピード。それが男達に信じられるはずは無い。


うねりを上げる程のシェリーの迫力に狸助やキリナも言葉を失う



「な、何だこのスピード…!お前は玩具用のはずじゃ…!?」



『私ハ今までの私じゃ無イ!!』





男の顔面にドムっとシェリーの拳がのめり込む。



「ぶはぁっ!」



男は鼻血を吹き仰向けに倒れた。



『キリナさン!大丈夫ですカ!?』



キリナにかけ寄り、起こすシェリー。



「シェリー…」


助けられたキリナは少しシェリーに驚くもいつもより逞しく、頼もしく見えてきた。



「うんっ、大丈夫よ!貴女がその気になってくれたら私達には怖いものなんて何もない!」



キリナはそう言ってもう一人の男を睨み、追い返そうとする。



「『さあ帰りなさい!帰らないとお仕置きしてやるわよ!』」



二人同時に声をあげて男達を追い返す。



「今日はその位にしといてやるぜ!今度会ったら覚えてろよ!」



男はもう一人伸びている男を起こし、その場で立ち去る。


『キリナさン、狸助さん…、またあの追っ手が追いかけて来るかも知れませン…これ以上私といたラ…』


シェリーはまた危険をこの二人に巻き込むことになるかも知れないとあえて言葉を出す。


『何言ってるんですか!奴らが何度来ても僕達で追い返して見せますよ!』



狸助は弱気に言うシェリーを力強く励ます。



「そうよ!私達はこれからもっと危険な事をしようとしている、こんなのチョチョイのチョイよ!!」



キリナも力こぶを見せる仕草で笑顔でウインクする。



『皆さン…こんな私の為二…』


シェリーは感極まり涙線は無いにも関わらず嗚咽を上げる。



「水臭いわよシェリー!何かの縁で出会ったんじゃない!これから一緒よ!」



『そうです!僕も頑張りますから!』



キリナと狸助は泣き続けるシェリーをそっと抱く。



肌と毛皮の温もりをシェリーは感じ、シェリーはもっと激しく泣いた。


ーーーークッキータウン



西欧風の建物が立ち並び陽気な人達がにこやかに会話を交わしている。



キリナ達は自分達のいた所と違う文化に触れ、目を輝かせた。



「素敵なところ、私達のいた和風の街とはまた違った魅力があるわ♪」


キリナは感動の声を出す。



『そんナ…私達ノ街なんテ大した事ないですヨ…』



シェリーは照れ臭そうにモジモジしながら言う。



『日本風の街モ、とても素敵ナ物を感じまス、出来たら私ハあそこに生まれたかったナ…』


とシェリー。


『僕達の街は騙し合いとかイジメとかとても多いし陰湿ですよ』



と狸助。


『それハ私達の街も同じでス…オマケにスリが多いですかラ…』



お互い自分の街をなじる二人。



「両方素敵なものも持ってるし逆のものも持ってる、一長一短よね」



キリナは呆れながら言う。


クッキータウンの街並みを歩いていくとやがて立派な庭と豪邸が現れる。



『ア、あれが私の家でス!』


シェリーがその豪邸に指差す。


「え?」



と二人。



やがて金髪の男性と女性、中学生位の少年、そして真っ白な体毛に覆われた大型犬のイザイラがその入り門から現れる。



彼らはとても楽しそうにしている。



「今日は家族旅行でパインタウンに行くぞ!」


「わあい♪」


「あら、この子ったら嬉しそうね♪」


「ワンワン♪」



仲睦まじく会話をするシェリーの家族。



「…」


キリナと狸助はシェリーがいなくなったというのに楽しそうにしている家族に対し歯痒い気持ちになった。



普通なら家族の一人、それも可愛い娘がいなくなったら辛くて食事も通らない程落ち込み、家族旅行なんて事考えも出来ない筈だ。





『良かっタ…家族達ちゃんとやっているんダ…』



一方でシェリーは楽しそうにしている家族を見て安心したように呟いた。


「え?」


シェリーを見るキリナ達。



「シェリーは悔しくないの?家族が楽しそうにしているのを見て…」


安心していたシェリーに対し納得の出来ないキリナはシェリーに疑問を抱く。



『いいエ、みんなが元気にやっていてくれたラ、私ハ思い残す事はありませン!』


シェリーの声は迷いの無い声だった。


シェリーは家族と逆方向を歩く。


『会わなくて良いんですか?』


後ろから狸助が聞く。



『こんな姿で会いに行ったら返って悲しませてしまいまス♪さあ行きましょウ』


シェリーは明るい口調でキリナ達を誘う。



キリナと狸助はシェリーはとても強い子だと感心し、自分の考えていた事が恥ずかしく思えた。


そして父親が写真を持ってるのをシェリーは見た。


写真にはブロンドの髪に青い瞳をし、荒れの無い美しい肌に整った顔立ちの美少女が映っていた。


その美少女の笑顔は、とても眩しく見えていた。

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