新たな仲間

「アオイ君から聞いたのだが君はマヤ君の魂を救おうとしているのだろう?しかし今あそこに入るのは危険だ」



レインはキリナに釘を刺してきた。



「それは承知の上です、ですからレイン博士の力を借りたいと思い、ここに来たのです」



キリナはこう切り返した。

切り返されたレインは目を瞑り思わず表情をほころばせる。



「そうか、その頑固で揺るがないところも、マヤ君にソックリだ、まあ良いだろう、私がデータを取って置くから君はこの街を思う存分散策して来なさい」



レインはこう言いパソコンに目を向けてキーボードを打ち続けていた。



「宜しくお願いします」


キリナはレインにお辞儀をし、部屋を出た。


「良いんですか?引き止めなくて…」



横からレインと同じく白衣を羽織った若い女性がレインに話しかけてきた。



年齢は20代前半位でキリナと同じ位、いや少し上くらいか、眼鏡をかけた知的な感じの女性だった。


「アリスか。あの子は強く引き止めても聞かないだろう、それにあの子はあのマヤ君の妹で随分可愛がられていたからな…」



レインはアリスと言うその若い女性に言葉を返した。



「…ところでレイン博士、マシュラタウンを襲った大災禍の原因ですが…」



アリスはパソコンのデータをレインにみせた。

それを見たレインは顔色を変える。



「そんな…」



レインにとって想定外のデータがレインに現実を突きつけた。



ーーーー

外が晴れていて行楽日和と言うのもあり、キリナはクラスタウンの街を散策していた。



「都会だけあって楽しそうなアトラクションや美味しそうなレストランが沢山あるね…あっ!」



キリナはある方角を見て先ほどの笑顔が固まる。



『どうしたんですか?』


狸助はある所を見て顔の色を変えたキリナに聞く。

そのある所を見ると桃色の甲冑をまとった人物が強面の男達にいじめられていた。

桃色の甲冑をまとった人物はどうやら人間では無いらしい。

しかしキリナは彼女を放って置けなかった。

それは何故か?

彼女には人の心があり、苦しんでいたからだった。

それとは裏腹に彼女は『もっとしてくださイ』と口走っていたのだった。

よく出来た女性の声だが、発音は少々おかしい。

そこら辺ロボットだった。


「お○っ×かけていいですか?」

『言葉には気をつけてくださイ』

「殺していいですか?」

『お役に立とうと頑張っているのですガ…』


侮辱語でなじられるも優しく答えるそのロボット。

しかし心の中では痛くて寂しくて悔しい感情が彼女の中を渦巻いていて、巫女術を鍛え心を読む能力を身につけたキリナにはそれが嫌でも伝わってっていたのだった。


「貴方達!そこまでにしなさいっ!」

「何だあんた??」


キリナはその男達に向かい叱りつけ、先ほどロボットをいじめて楽しんでいた男達は助けに来た少女に疑問系で聞いてきた。



「この子すごく苦しんでるじゃない!離してやりなさい!」


キリナは真顔で叱る。



「へっ、あんた可愛いな♪ついでに俺達と遊んで行かない?」


男の一人がキリナの手首を掴んできた。



「ふんっ!」

「痛っ!」


そこでキリナはすかさず男の手首をひねり、地面にねじ伏せる。



「女の子だからって馬鹿にしないで!」



キリナは凛々しく言い放つ。


「いい度胸してるな、俺達は君みたいな子をこのロボットみたいにするのが大好きなんだ、嫌でも服従させてやるっ!」

「やれるものならやってみなさい!」


キリナは地面を蹴る。


男達を華麗に叩き伏せ、髪やら服やらを掴もうとする男達をはね退けるキリナ。



「くそっ、大人しそうな顔してなんてアマだ!」


男二人にして一人の少女に苦戦を強いられる。

一方、野次馬のように集まってきた客達は「良いぞー!」とキリナに歓声をあげる。

そんな中、助けられたロボットは少女の戦いをみてメットの顔を守る黒いゴーグルのような部分からハートマークを浮かび上がらせていた。


『よくわからないけどこのロボット、恋してるのでしょうか??』



狸助はロボットのこうした反応を見てこのロボットに僕の良いところを見せようと少し思った。



『!キリナさん!危ない!』


狸助はキリナの危機を感じ、危機を知らせた。

キリナにコテンパンにされ理性を失った男の一人が鉄パイプでキリナを叩きつけようとしたのだ。



「えっ?」



男達との戦いに夢中になっていたキリナだが目前に鉄パイプが飛んできている事には気付く由もない。



『鎌鼬(かまいたち)!』



狸助はかまいたちを発生させ、飛んでくる鉄パイプからキリナを守った。

その鉄パイプは殴ってきた男の顔面に直撃した。



「ぶっ!」

「何が起こったんだ!?」



狸助が見えず、彼のものとはわからない男達はただただ驚く。


「ふんっ私には守護霊様が付いているのよ!貴方達には見えないでしょうけどねっ!」



髪をなびかせ踊るように攻撃しながらキリナは言葉を放つ。



(可愛いし強いけどちょっと脳の弱い子みたいだ、とりあえずズラかろう…)



男達は目の前の少女に関わる気を無くし、その場で逃げていった。



「おととい来なさい!」

『キリナさん、貴方気違いだと思われてましたよ…』


清々したといった表情で見送るキリナに狸助が後ろからツッコミを入れる。

他の人達もキリナを見て同様に思っているようだった。



(はうっ!)



人々の心の槍がキリナを次々と突いてきた。



「ま、まあこの子は助かったんだし!別に良いじゃない!」


キリナは気持ちを切り替えてこう返した。


『巫女修行の賜物か、気の切り替えが上手くなってますね、そこは感心すべきですが…』



狸助は世渡りももっと上手くなれば良いのにとキリナに対し心の中で突っ込んだ。


『あノ…』



後ろから声がした。

振り向くキリナ達。

その声は助けられたロボットのものだった。

ロボットは胸に手を当てて優しく語った。



『私は貴方達の奴隷でス、何でもお申し付けくださイ』



ため息をつくキリナ。



『思っていない事を言ってますね』



「しょうがないな、えと、技術系の手伝いのバイトで教わった知識によると頭を小突けば良いと聞いた事があるわ」



キリナは巫女修行の一環で様々なバイトをこなしておりその一つの技術系のバイトでうる覚えで教わった内容を思い出した。



キリナはそのロボットに衝撃を与える。



『ありがとうございましタ、何とお礼言ったら良いカ』



今度は心からの感謝の声が聞けた。



「ううん、良いよ困った時はお互い様でしょ!」



キリナは笑顔で答え立ち去ろうとする。



『待ってくださイ!』



ロボットは後ろからキリナの服を引っ張った。



「なあに?」



やや戸惑った様子でキリナは聞く。



『私はシェリーと申しまス!何かお礼させてくださイ!』

「い、良いよお礼なんて…」


必死に役に立つと凄んでくるシェリー、なんだか怖い。


『私、家事も出来るし戦闘も出来まス!嫌な奴いたら殺人も出来ますヨ!』


最後物騒な事を言ってた気が。


「良いよ良いよ!ホントに良いから!」


キリナと狸助は手をブンブン振りシェリーの申し出を断った。


『こうしても役に立たせてくれないのですカ…!』


シェリーは体中のあちこちから砲が突き出たかと思うと、無数のスダチがキリナ達をBB弾のように襲ってきた。



「痛い痛い!仲間になってあげるからこれ以上撃たないで!!」


『本当ですカ!?』


声が明るくなるシェリー。

キリナ達はおののきながらコクコクと頷いた。



『やったア!!』



ショックを与えておかしくなってしまったのか?


テンションの高くなっているシェリーを仲間にせざるを得なくなったキリナ達。

そんな時、キリナの携帯に着信音が鳴り出した。



携帯を見るとレイン博士からの着信だ。



『キリナ君、データを取ってみた所大変な事がわかった、バカンス中に申し訳ないがすぐに研究所に戻ってくれないか?』



「わかりました!」


研究所へと戻るキリナ達。


『待ってくださいヨゥ!』



シェリーも後ろから付いてきた。



ーーーー研究所



「ん?このロボットはなんだ?」



レインがピンクの甲冑をした人形、シェリーに聞いてきた。


『それは面白い質問ですネ!』



妙な受け答えをするシェリー。



「この子シェリーと言うんですけど助けてあげたらついてくるようになって…」



『私には意味がわかりませン、webデ…』

「さっきからうるさい!」



キリナはシェリーにショックを与え、黙らせた。



「それよりキリナ、これを見てくれ!」



レインはリモコンを取りスイッチを押す。

すると壁にある画面が映った。



マシュラタウンを襲った大災禍の原因、それはワイヤーズブレイクがその地で起こり、ワイヤーズブレイクの電磁波が孤独と哀しみに苦しむマヤの魂に走り結界マヤは妖怪化し、呪いでマシュラタウンを破滅に追いやったと言う。



結果マシュラタウンの復興に携わった人、この地に残ろうとした人は全てマヤの妖怪に飲み込まれ、マヤ同様に妖怪となり、その妖怪の群れが外に出てこないように軍がバリアゲートを築き、その上霊媒師達が結界を張り、街中を塞いだと言う。



「キリナさん、やはりあそこには行かない方が…」



後ろからアリスと言う若い女性がキリナに話しかけてきた。



「…いいえ、だからこそ私がマヤお姉ちゃんを助けてあげなきゃ!その為に巫女になったんだもの!」



キリナは決意を固めていた。



「それにお師匠様も言ってました、必ずお姉ちゃんの魂を解放して来なさいと!」

「キリナ君、君の気持ちはわかった、しかし君では無理だ、軍を差し向けるから君は…」

「お姉ちゃんを助けられるのは私しかいないんです!」


キリナの意志は揺るがなかった。


「仕方ないな、好きにするが良い、その前にそのシェリーとかいうロボットを改良するから待っていなさい!」



レインはやはり何を言っても聞き入れはしないなと言った感じに溜息をつくもシェリーを預かり、キリナ達を個室に案内しそこで待機させた。



「良いんですか?あの子達を行かせて…」



アリスが狼狽してレインに声をあげる。



「案ずるな、策は打ってある」

「???」



レインはシェリーを改良しながらアリスをたしなめた。



「あの子可愛いのに健気じゃのう、ワシがもう少し若かったら…」



横から頭が禿げて変な髪型をした老人がレインの作業を手伝いながらそう語った。

痩せていて出っ歯、眼鏡はかけているが個性的などこか愛嬌のある顔立ちの老人だ。


「ビーフ、手を止めずに話してくれるか、こちとて楽じゃないんだ」


レインは部下でもあるビーフと言う老人に仏頂面に言った。


「ふう、これだからアラフォー独身は…」

「なんか言ったか?」

「な、なんでもありましぇん!」



レイン達は黙々とシェリー改良を急いだ。




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