キリナ、新たな舞台へ


新たにキリナのサポーターとなったその化けタヌキ。

彼の名前は狸助(りすけ)と言う。

狸助は大変悪戯好きでキリナを困らせていたがキリナはその狸助を改心させようと悪戦苦闘し、同時に巫女修行にも励んだ。


「このおっ!もう許さないんだから!」


キリナは悪戯で散々キリナを困らせる狸助に痺れをきらし、これまで教わった巫女術を駆使し、狸助と戦った。



「やるなっ!木の葉乱舞!」



沢山の木の葉でキリナを翻弄してその隙に攻撃を繰り出す狸助。


「なんのっ!カツガ流、天照あまてらす!」


キリナはアオイから叩き込まれた天照と言う特殊な剣技を操る。

その剣技は剣先に霊力を溜めて光を発し対象を撹乱させる簡単に言ってしまえば目潰しの剣技だ。


「うっ眩しい!」


狸助は輝く剣の先に目に光が差し思わず目を覆ってしまい、隙を作ってしまう。



「成敗!」


キリナは狸助を見破り、狸助の術を完全に破った。


「参りましたっ!もう悪戯は致しません!」



キリナに負かされた狸助はキリナにこれまでの無礼と悪戯を詫びた。



「解れば良し!」


キリナと狸助はこれでようやく良きパートナーとなった。

それを陰ながら見ていたアオイ。


(もうあの娘は成長した…もう私の教える事もほぼ無くなったも同然ね、しかしマヤの魂の事は…)


アオイはキリナの成長を喜ぶと同時にマヤの魂を解放させると言うキリナの行く末を案じてもいた。

狸助と修行に励み、一緒に過ごしていく内にキリナは狸助の事を理解し始めていた。



狸助に対してキリナは何故これまで悪戯ばかりして人を困らせてきたのかを聞いてみる事にした。



「一緒に過ごしていく内にわかったことなんだけど、狸助君は本来そんなに悪い奴じゃないとわかったの、でも、何故前まで悪戯して人を困らせてきたのか聞かせて貰えないかな?」



パジャマ姿のキリナは隣でビスケットを頬張っている狸助に聞いてみた。



「はい、僕はこの山里に生まれました。僕はみんなと仲良くしたいと思ってましたがこの通り不器用な性格でして…」



狸助は中々周りと馴染めず、浮いた存在だった。

狸助にとってこの孤独を紛らせる方法は悪戯しかなかった。

やがて悪戯の楽しさを知った狸助は悪戯が止められなくなり、狸の妖怪になってからも悪戯で人を困らせては喜んでいた。



「そっか、結構苦労してきたんだね、君も…」



狸助の過去を知ったキリナは少なからず狸助に同情の目を向けた。


ーーー

夜が明けて朝が来た。

チュンチュンと言う雀の鳴き声、鶏の鳴き声が朝が来た事を伝える。

揚々と晴れて心地よく照らす太陽。

神社で掃き掃除をするキリナの元にアオイが現れた。


「あ、おはようございます!お師匠さん!」



元気よく挨拶するキリナ。

ついでに狸助も現れて『おはようございます』と挨拶を交わす。

狸助はあくまで霊なので宙を浮いた形でキリナの側でふわふわと浮いている。



「おはよう♪早朝に申し訳無いのですが貴女にお話があります、私は奥の部屋にお待ちしておりますので後から来てください」



アオイは改まった表情でそう言い、奥へと消えていった。



「何かしら…」

『さあ…?』



キリナと狸助はキョトンとした目で奥へと歩いていくアオイを目で追った。



****



キリナとアオイが机を囲んで対峙している。



「キリナ、貴女は精神的にも鍛えられ、悪戯妖怪の狸助も改心させ式神に迎え入れ、ほぼ全ての術をもマスターしました。もう貴女に教える事は何もありません」



アオイは悟ったような目でキリナを見つめていた。



「では…!」



「しかしキリナ、マシュラタウンに行くのはお止めした方が宜しいと思うのです」



「何故ですか!?」



キリナはやや声を荒げる。



「あそこは未だ立ち入りが許されておらず、修行僧や巫女はあそこ付近にいるだけでおぞましい瘴気(しょうき)に気分が悪くなると訴えております、あそこは今や悪霊の巣窟、行ったところで無駄な犠牲が増えるだけです」



「しかし師匠様!彼処には私のお姉ちゃんが今もずっと私に救いを求めているのです!私はアザミお姉ちゃんやツトム養父(おじ)さんと約束を交わしました!巫女になってマヤお姉ちゃんの魂を救うと!」



キリナはどうしてもマヤの魂を救い出す、彼女の魂を救えるのは自分しかいないと聞かなかった。


アオイはキリナの真っ直ぐな決意を秘めた顔を見て何かを懐かしむように顔をほころばせて見せた。


「キリナ、いつの間にかマヤさんに顔が似てきましたね、本当にあの子にそっくりです」


そう言うとアオイは携帯に撮ってあるマヤの写真をキリナに見せた。


「マヤお姉ちゃん…」


キリナはマヤの笑顔が映ったその携帯画面を見て呟いた。

そして今の自分とマヤの写真を見比べても同一人物にしか見えなかった。


(いつの間にか私も、マヤお姉ちゃんに歳が近くなって来たんだな…)


キリナはそう思った。


「コホッコホッ!」


アオイは咳込んだ。


「大丈夫ですか?」


キリナはアオイの背中をさすり、体調を気遣う。

アオイは体調をここ最近崩しがちになっていたのだった。


「やっぱり私、ずっとここにいます!」



キリナがそう言った途端アオイのサポーター、ゲンジャが怒鳴ってきた。



『小娘!ここはヌシのテリトリーでは無いわ!ヌシはヌシの姉御を助ける事を考えよ!』

「その通りです、私にはこの子(ゲンジャ)がいます、キリナさん、貴女は貴女のすべき事をやりなさい」



意志の揺らぐキリナに二人は釘を刺す。

キリナは歯がゆい気持ちを抑えられず、それが表情に出る。



「キリナさん、マシュラタウンに向かう前にクラスタウンのラボエリア研究所にいるレイン博士に会いに行きなさい、彼女ならマシュラタウンに行ける唯一の手がかりを掴めるかも知れません」



「レイン博士!?」



レイン博士とは住みにくくなったリアルの世界からこの世界、「クラスター」を作り上げた人物。

そしてこの世界が揺れ始めている原因を今調査していると言う。

そう、ここはリアルから別世界にある「クラスター」世界だった。


「キリナさん、私は貴女を実の娘のように思っています、さあ、お行きなさい!」



アオイはそう言い、キリナを見送った。



「はいっ!今までありがとうございました!」



こうしてキリナは巫女としての修行の日々を卒業し、サポーターの狸助と共に姉マヤの魂を救う為に旅立った。


ーーーー


キリナは駅に向かい、マシュラタウンに向かう列車に乗る。



その時のキリナはどことなく不安な気持ちに襲われていた。

目的の為に神社を出たは良いが神社から離れていくたびに帰りたいと言う気持ちが強くなっていく。



「やっぱり私、帰ろうかな…」


『キリナさんっ、貴女にはマヤさんの魂を救う目的があるはずです!僕もついています!』


「うんっ、そうよね、私頑張らなきゃっ」



キリナはサポーターの狸助に励まされながら新しい地へと向かう列車の外を眺め続けた。

キリナ達はアオイの言う通りいきなりマシュラタウンに行くことは危険という事で、レイン博士がいるというクラスタウンへ列車を走らせた。



ーーークラスタウン、ラボエリア



高層ビルの群が連なり、何より華やかな感じの街並にキリナ達は思わず圧巻を覚える。

キリナ達のいる所とは違い、かなり都会である事は一目でわかった。

キリナ達のいた所はこうした高層ビルは存在せず、緑に囲まれた美しい街並みではあるもののラボエリアのスケールからすれば見栄えのしない田舎に感じられた。



かの所もキリナは気に入っていたのだが、今いる高層ビル群はこんなに何階も建ててどれ位必要あるんだ?と感想を抱いていた。


ークラスター研究所ーーー


「ようこそ、いかにも私がクラスター研究所のレイン博士だ」


長い桃色の髪に白衣をまとった女性がキリナの前に現れる。

意志の強そうな目に整った顔立ち、年齢は30~40程だが色気は失われていない。

キリナははやる緊張を抑えてレインと対面している。


「君の事はアオイ君から聞いている、新海凛 キリナ君だね?」


キリナが名乗る前にレインが先にキリナに切り出した。


「私の事を知ってたんですか?」


キリナはやや目を見開き、レインに聞いた。


「ああ、アオイから写メが来てね、君の写真が届いた」


(きゃ~)



キリナは赤面して冷静さを保てなくなった。


『キリナさん、落ち着いて!』

「わかってるわよ!」



狸助がフォローするのをキリナは狸助に強く返す。


「むっ?君は守護霊と交信しているのだね?」


レインはキリナにそう言ってきた。


「わかるんですか?はい、式神とも言うんですけど彼を迎えるのには一苦労しました、何せいたずら好きなもので」


キリナはそう言った。


「ふうん、ちょっとその姿を私に見せてくれないか?」


「良いですよ?」


そう言うとキリナは自身の精神を高める。



「レインさん、私の肩に触れてみてください」

「こうか?」


レインがそっとキリナの肩に手を置いた。



(きゃ~、レイン博士が私の肩に手を触れてる!)


キリナは恥ずかしくなる。



「何も見えないのだが?」


精神を高めたキリナだったがレインが肩を触れた途端集中力が途切れてパニクってしまうキリナがいた。


『キリナさん、落ち着いて!』


狸助は冷静さを失うキリナを落ち着かせるようはっぱをかけた。


今度こそ精神を高めるキリナ。



『はじめまして、僕が新海凛キリナのサポーターをしている狸助と申します』



タヌキの狸助がレインに挨拶をした。



「タヌキか、喋るタヌキも可愛いものだな、レイン博士だ、クラスター研究所の研究員をしている」


レインは狸助に挨拶を返した。


「しかしキリナ君の成長したその姿を見ているとマヤ君を見ているようだよ」



「お姉ちゃん??」



キリナが言葉を返す。



「その時君は小さ過ぎて覚えてないだろうが私はマヤの高校時代の友人だ」



レインは懐かしむように言った。



(こんな有名な人と一緒にいただなんて…)


マヤは偏差値の高い有名な高校に通っていたのだがまさかレイン博士の友人だとは夢にも思わなかった。

でもレイン博士、本当にかっこいい!

若いし、クールだし!

キリナから見ればレイン博士憧れの存在として見えてしまうのだった。


「私もレイン博士みたいになりたい!」

「私に憧れてくれるのは有難いがあまりお勧めは出来ないぞ?」

「またまた謙遜を!」


レインは自分のようにはなってはいけないとキリナをたしなめる。

キリナはレインをからかって見せるがレインは本気のようだった。


「私のような女があまり出世し過ぎると嫁の貰い手がいなくなる、君はまだ若いし可愛いのだからもっと自分を大事にしてあげた方が良いぞ!」


「でもレイン博士…私が男だったら速攻でプロポーズするんだけどな?」


…とは言っても男と女とでは感性が違うのは生き物のさがだ。


『安心してください、どう転んでもキリナさんはレイン博士のようにはなれませんから』


澄まし顔で言う狸助。


「言ったわね狸助ー!」

「ははは!」


レイン博士はキリナと狸助が追いかけあうのを見て笑う。

そう言えばこうして笑ったのって久しぶりだ。

キリナ君には魂を救うなんて大業を成すより幸せになって欲しいものだ。

しかしマヤ君も頑固な所はあったからキリナ君に限って言って聞くとも思えない…。


何か策を講じなければな…とレインは思った。

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