しっちゃかめっちゃかにも程がある 6

「まぁ自分転生してきましたとかアホなこと面と向かって言われたら俺でも困る。ただいい反応だよ」


「ふぅむ………転生……………か」


 目をつぶり、思案中なのを表すようにルーカスは、ウゥムとうなった。


「………………暫し待て」


 そしてルーカスはそれだけ言うとさっと立ち上がり部屋を静かに出ていった。


 しばらくすると普通に部屋に戻ってきた。片手には一冊の大きな本を持っている。その厚さたるや元前世のジー○アス英和和英辞典もびっくりな代物で相当年期が入っているのかカバーは薄汚れている。しかし背表紙や表紙の文字は所々剥がれ落ちてはいるものの、金箔細工が施されているためただの古書ではないことが見てわかった。


「遅くなってすまない」


「いや、お構い無く」


 目の前のテーブルにその分厚い本は置かれた。


「………これは?」


 不思議そうに眺める俺に見せるようにしてオートルは丁寧に表紙を開き、パラパラと本のぺージをめくる。ざっと流し読みしてみた所、内容は幾つかの項目別に分けられていた。


《イーエリアス戦争の英雄》


《万物を知り、世の理を理解した賢者》


《王都の守護神》


 etc....


 いわゆる偉人伝のようなものであろうか。


「見てわかる通り………いや、この世界の人間ではないのなら分からんかもしれんな。これはこの王都フルストリムに関係するかつての偉人たちの功績をつづったものだ」


 そういうとルーカスはグッと本に近づき、ひとつの項目を開いた。


《異界の大賢者》


 うわ、項目名からしてもう大分怪しいわw


「この項目を読んでみろ」


 それ以上何も言わずにルーカスは椅子に再び深く腰かけた。


 言われるままに目を通す。



 都歴208年の4月2日、早朝から大雨の続く日であった。

 時は正午、王都の東門前前方に何の予兆もなく異常なほどの大きさの爆音と共に一人の男が現れた。男は右手には謎の物質で出来た黒い板を持ち、それを凝視したまま自然と門に向かって歩き続ける。すぐさま警備隊に囲まれ、槍を向けられていた。

 その男は「え、あきはばらにこんなちゅうせよーろっぱ再現イベントなんかあったのか!? スゲー再現度だな」と理解不能な言葉を連続して発している。

以下略



待て待て待て待て待て(;-ω-)ノ


 え、うぇ? 

 あっるえぇ?

 俺の目がおかしいのかなぁ。

 なんかあきはばらってあるぞぉ?

 んんんん?

 あきはばら=秋葉原 だよなこれは。


 ぜってーこいつも転生者だろ同類だろ俺と。しかもバリバリ現代人だろこいつ。


「残念ながらここに出ている男の言うことは俺には理解できん。それに俺から数えて三代も前の話だ…………この男はとうに死んでいるため直接聞くこともできん。確か、名前はあらきこうじ だったかな?」


 本から目を離し、泉を見つめる。


「もしかしたら泉、お前ならこのあらきという男の事が少しでも分かるのではと思ってね。さっきも俺が理解できなかったことをいっていたからな」


「はい同類でございますありがとうございましたー」


「なぜ口調が変わった?」


 どう考えても同じ転生者であった。


 俺以外にもいたんだな……転生者。


「やはりこやつもお前と同類だったか、いやありがとう。お陰で170年の間の謎が溶けた。こやつの正体は先先先代からの深い謎だったからな。何でもまさに天才としかいいようのない最強の魔術師だったそうな、一度あってみたかった。よもや転生者とはな」


「はぁ…どういたしまして」


 それを聞くとルーカスは胸ポケットからひとつの鈴のようなものを取り出し、チリンチリンとならした。するとどこで聞いていたのか一人の執事のような服装の男が扉を開けて入って来た後、本を持って出ていった。


 最初っからそいつに持ってこさせろよ。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「さて、話は変わるが泉、お前もしかして………ステータスディコードをしてないんじゃないか?」


「ステータスディコード?」


「その反応はまだだな。とりあえず簡単に言うとステータスディコードは成長値。そして適正値をはかる。成長値はレベルアップ時のステータス上昇量を1から10の十段階で表したもの。数が多ければ多いほど上昇数は上がる。適正値ってのは言わば戦闘において自分が最も得意とする立ち回りを表すもの。数値がでかい物ほど自分に合った戦い方だ。遠中近距離と攻撃魔術、防御魔術、回復魔術それぞれ六個に別れている」


「ほうほう。で、どこでそれ受けられるんだ?」


「本来は生後三年以内に役所で受けるものなんだが、転生者だから受けてないだろう。左肩を出してみろ」


 ルーカスはそう言いながら自分の左肩を服の上から叩いて見せた。

 袖から服を手繰りあげる。特に変わった事はない。


「やはりな、ステータスディコードを受けると左肩に成長値が映し出されるんだ」


 ルーカスは再度鈴を鳴らした。そしてやって来た男に耳打ちをし、手に収まるサイズの謎の立方体を持ってこさせた。


「あーまたなんかよく分からない物が登場したよー。話の流れ的にはステータスディコード関連だろうけど」


「ああ、俺も物心ついてはじめてこれを見たときは訳もわからず積み木のひとつだと思っていたからな」


 っはっはっは、と豪快に笑いながらルーカスはその立方体を俺に握らせた。とその瞬間、立方体はヴゥンと謎の音を発し、同時に俺のステータス画面が強制展開された。


「うお、勝手に開いた!」


「気にするな、仕様だ」


 そして暫くすると、新たにステータス画面の上に青いウィンドウが表示された。


「結果が出たな。なんと書いてある?」


「ちょいまち」


 えーと何々?


 《成長値》

  0


 《適正値》

  近距離 0

  中距離 0

  遠距離 300(+22000)

  攻撃魔術0

  防御魔術0

  回復魔術0


 《EX適正》

  素手  470035(+36000)





 …………………………………?





 静寂が、世界を包んだ。


 暫くして隣で覗いていたルーカスが満面の笑みで俺の肩にぽんっと手を置いた。


「………泉よ。二、三箇所突っ込ませてもらってもいいか?」


「それは俺の台詞だ」キリッ 


 いつの間にか国王に直で会ったことに対する困惑で固まっていたエリナが復活していた

 しかし話は聞いていたのか、泉の隣からウィンドウを覗きこんで、再度固まる。


「まず一つ目。泉よ………適正値が0と言うことは今まででも少ないが事例はある。だが、だがな? あの…その……成長値が…0、とは………どういうことだ?」


「転生初日の俺に聞かないでほしい」


「そうだな。二つ目だ。スキルによる適正値強化はこの様にカッコで表される。見るとお前は狙撃に片寄っているようだ…………。これはなんの問題もない、援護中心となるか。と思いながら見ると《EX適正》。……もしや転生者特有の適正なるものがあるのかと期待した、期待したんだ。いかに特殊なものかと」


「…はい」


「だが……………………素手? 素手とはどういうことだ?」


「恐らく、そのまんまの意味で。武器を持たずに殴れってことかと」


 ルーカスの眉が内側に寄り、額にギャザーがついた。


「これで最後だ。素手が適正と言うだけなら、恐ろしく特殊だなとむしろまだ笑える………しかし問題は値だ。470035………470035って、なんだこのでたらめな数字は。本来適正値の最高値は999だ。何倍だ? これは何倍だ? どれだけ突き抜ければ気がすむんだ? 世界の理はどこいった」


「おっしゃる通りで」


 ハァ、と何度目かの深いため息がルーカスの口からもれる。




「ここまで意味不明だと俺本人が笑えてきたw」


「泉もか」



「クックッ」


「フッフッフッ」


「フッフフフフ」


「アッハッハッ」


「ハッハッハッハ」


「ハッハッハッハッハッハッハッハ! お前の適正値意味不明すぎるだろwwww!」


「マジそれ! どうなってんだこれ! ッへッハッハッハッハ!」


 二人は顔を会わせると急に笑いだし、笑い混じりに声を発する。

 残されたエリナは国王と別世界からの転生者が二人して大笑いすると言う意味不明な状況に「えぇ………」と若干引きぎみになっていた


「いやぁなかなかに面白い。取り敢えずこのステータスの件は正に意味不明の塊、少々わからないことが多すぎるため保留とする。ここにお前を呼んだ当初の目的を果たそう。これを受け取ってくれ」


 そう言うとルーカスは両手に収まるくらいのサイズの巾着袋を取り出し、テーブルの上に置いた。


「ドラゴン討伐お疲れ様。何はどうあれ犠牲者一人すら出なかった、本当に感謝する」


 紐をほどいて中を確認する。入っていたのは直径五百円玉一枚半くらいの白い光沢を放つ貨幣約二十枚。


 銀……とは違うな。プラチナか? あれ、これ結構ヤバイ値段になるんじゃ………、でも普通プラチナて工業用………。


「俺ここに来て浅いからお金の価値いまいちわからないけど…………これ相当な値段になるでしょ。ドラゴン一匹でこんなにもらってもいいんですか?」


「なに、大丈夫だ。ちなみにそれだけで大人一人が60年以上暮らせる」


「予想以上に多い!? 大体数億円くらいか!?」


 億、億はヤバイな。これほんとにもらっていいのか。


「すうおくえん? ああ、もとの世界とはやはりお金が違うのか?」


「それどころか国ごとに違ったお」


「なに!? それでは貿易ができないだろ」


「種類ごとに価値が変動的ではあったがだいたい決まってたんだよ。たくさんあるけど俺が思い付くのでウォン、ドル、ユーロ、俺がいた国日本では円だった」


「そして貨幣単位ごとに価値が決まっていると」


「そ、例えば百円が一ドルとか」


「ほう」


 ルーカスは感心したような顔をし、更にこの世界と元の世界の違いについて質問してきた。

 結局俺たち二人(三人)の話が終わったのは外が暗くなってからだった。

 俺がルーカスに近場の宿屋(最初ホテルと言って混乱してた)を聞いたところ、有り難いことに早急に宿を予約してもらえ、更に送ってもらってしまった。



「そろそろ着くぞ」


 暫く馬車に揺られていると、落ち着いた雰囲気の無駄な装飾のない建物が見えてきた。




「それじゃあ、俺はここまでだ。じゃあな」


「ああ、本当に色々ありがとう」


「ありがとうございました」




 宿屋のオーナーと少し話した後、ルーカスはそう言って帰っていった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 ルーカスが帰った後、俺たちは一人の従業員の女性に連れられ、部屋へと向かっていた。


 そして国王と直談判という状況に緊張して全く話さなくなっていたエリナはやっと解放されたと言わんばかりに「ふうっ」と息をついていた。



「それにしてもルーカス様が人を招待するなんて珍しいですねぇ」


「え、そうなんですか? 私達すぐに教えてもらえましたけど」


 部屋までの移動中、女性を含め、世間話に花を咲かせていた。特にエリナは緊張の反動か口数が多かった。


「ええ、ルーカス様は普段祭り事に招待はしてもこの宿だけは自発的には絶対教えませんでしたから。きっと相当気に入られたんですよ」


「それは光栄だな」


「じゃあ特別招待かー」


 と、そうこうしているうち内に指定の部屋の前まで来ていた。


「こちらの十二号室がお二人の部屋です」


「あ、おりがとうございます。って、え? 今二人のって」


「はい、泉様御一行十二号室同一部屋。ゆっくり体を休ませていってくださいね♪」


 そう言うと女性はタッタッタッタと足早に立ち去っていった。


「え、一緒の部屋!?」


 何の手違いか、二人は一緒の部屋になっていた。が、俺はそんなことは気にせずさっさと部屋に入っていく。


「え、ちょ、泉!?」


「先に風呂使っていいぞ、俺はあとから入るから」


「イヤそうじゃなくて」


「……………別にお前を襲ったりしねーよ、まあ嫌なら俺が頼んでもう一個部屋貸してもらおうか?」


「………………………分かった、わざわざ宿とって貰ったのに部屋のことで文句言うのも悪いし、じゃあ先にお風呂入るね」


「ほーい」


「…………」


 エリナは風呂場に入る途中で足を止め、こちらに振り返った。


「どうした?」


「…………覗かないでね、覗いたら殺すわよ」


「覗かねーよ……」



 なんやかんやで二人とも無事に風呂に入れたのであった。が、ここでも新たな壁が二人を阻んだ。



「シングル……ベッド……………」



 そう


 ベットがひとつしかないのである。


「え、これ俺が床で寝たらすむ話だろ?」


「え? でも」


「大丈夫だ、俺は床でも十分寝れる、それじゃあお休み。今日は色々あったし、からだしっかり休めろよ」


「えっちょっま――」


 俺はそのまま床に寝転がり、すでに目を閉じていた。



(泉、あんなにずっと戦って疲れてないわけないのに…………私にベッド譲って自分は床に寝るなんて。そんなの疲れがとれるわけないでしょ。王都まで行くのも私をずっとかかえて走り続けて…………)




 …………




「あーもう! 泉!」


「ん、んん……どうした?」


「―――っベッドで寝なさい!」


「え、でもそれだとエリナが……」


「半分ずれてあげるから、ちょっと狭いけど我慢しなさい」


「え、」


 俺に背を向けてエリナはベッドを半分空けた。


「…………それじゃあお言葉に甘えて」


 泉俺はゆっくりと立ち上がり、ベッドの端にギシィと音をたてなが足をのせた。それと同時にエリナがビクッとしたが、俺はその事に気付かずそのまま空いたスペースに寝転ぶ。


 ちなみにエリナはと言うと――


(ヤバい、これ予想のなん十倍も恥ずかしい!)



 想像を遥かに超える羞恥心で既に瀕死だった。


――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「ねえ泉、起きてる?」


「……ああ」


 エリナの方に首を向けると、エリナはいつの間にかからだ全体を泉に向けていた。


「…………今日……ありがとう」


「何が?」


「実は泉さ、あの魔物の大群に囲われて………………私が後半疲れて防御魔法が使えてなかったときさ、敵の攻撃で私に当たりそうな攻撃………優先して防いで……………自分に対する攻撃ほとんど避けてなかったでしょ。お陰で私はノーダメージ」


「…………気づいてたか」


 泉は少し苦笑いすると。エリナとは反対の方向に寝返りを打った。




「ありがとう、守ってくれて」


 俺はまた苦笑いすると、誤魔化すように寝息をたて始めた。


 エリナはそんな俺の姿を見て「ふふっ」と笑い、同じように寝息をたて始めたのであった。












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