第二話 異世界初日が終わったがこれからどうする 1

ドタ… ドタ…

  ドタ…  ドタ…

    ドタ

 ドタ    ドタ

    ドタ


 ドバ―――――――――――――――ン!


「起きてるかー二人とも―――!」


「「――――っ?!」」


 複数の足音と共に扉が勢いよく開かれ、豪快なモーニングコールが寝起き真っ只中の俺達の鼓膜を貫いた。


「ぐっふぉおあ」


 そして声の主はエリナが反射的に放った魔力の塊が顔にクリーンヒットし、そのまま二メートルほど廊下に飛ばされていった。

 すぐさまベッドから跳ね起き、そろりそろりと近寄いて相手の顔を確認する。そこには昨日会ったばかりのごっついおっさんの顔があった。


「………………エリナ、悲報だ。お前の魔力弾が直撃した相手は王都フルストリム現国王、ルーカス=ジ=フルストリムだ。顔面にいいストレートが入ってるぜ」キリッ


「……………え!?」


 「ほら」とそこに倒れる男、ルーカスの体を無理矢理起こしエリナの方に向けた。その瞬間、エリナの顔は驚愕に歪んだ。


「え、ちょっ! 生きてる!? 」


「息はある」


「息は!?」


 エリナは慌ててかけより、ルーカスに回復魔術と思わしき物をかけ初めた。



「ハッハッハッハッ、相変わらず面白いなーこの二人は」


 二人の茶番の最中、声色的に男性と思われる声が聞こえる。それはエリナにとっては初めて聞く声だが、俺にとっては二度目の声だった。


「………何でいるんだ?」


 俺が言うと同時にフワッと部屋の中を風が吹き抜け、入り口に一人の男が風に包まれるように現れた。


「よう、元気だったか?」


 それは事故死した俺をこの異世界に転生させた張本人。《創造神アルギド》だった。

 アルギドは風で舞ったホコリをぱっぱっと祓うとこちらへと歩み寄った。


「出たな《暇潰しで一般人異世界に転生させちゃう》星人め。俺が満を持して成敗してくれるわ! で何であんたがここに居るんだ」


「なんだそら。まあ色々あったんだ、それはさておき……聞いたぞ、成長値0だったんだってな?」


「いや誰から聞いた?」


「ルーカスから」


「どういう事だ?」



「アル、ちょっとは俺の心配してくれ」


 その時、先程まで床に突っ伏していたルーカスがふらふらと立ち上がり、「いやーいい一発だった」と笑って近づいてきた。


「ん? そういえば何で一緒にいんの? てかアルって…………もしかしてルーカス、アルギドと知り合い?」


「ああ 知り合いもなにも俺が五歳のときからの親友だ。昨日の夜な、あの騒ぎのあと色々後処理しててな、終わったのは夜で早速ベッドにダイビング就寝しようと思ったら急に現れてな。久しぶりに会ったこいつが急に泉どうなった?って聞いてくるからお前のステータスが色々とヤヴァイ事になっているのを伝えたらすごい嬉しそうな顔して『明日の朝二人のいる宿に集合!』とか言って帰っていった」


「予想を遥かに越える知り合いだった………五歳から創造神と親友ですとかどんな経歴だよ何があったんだ。で、結局この成長値ゼロが一体どうしたってんだ?」


「え……え? どういう状況? この人神様なの?」とエリナが肩を叩きながら泉に訊いた。


「うむ、実にこいつは――」

「泉、成長値0のゼロ。このゼロが何を意味するか分かるか?」


 アルギドについて説明しようとしたルーカスの台詞を遮って、アルギドが突然話し出した。


「レベル上がってもステータスが上がらないってこと?」


「いや……違う。本来成長値にゼロなんてものは存在しない、しない筈なんだ。成長値は、ただ単純にステータス上昇率を表すだけの値ではないのだから」


「………………ステータスの上昇率以外にもなにか関係しているのか」


 アルギドがこくっと頷いた。


 話を遮られたルーカスは「お取り込み中のようだしあっちで説明しよう」とエリナと部屋の端っこのソファーに座った。


「じゃあ、泉。お前はあのドラゴンを素手で殴り飛ばしていたが…………。この世界に来たばっかり、つまりレベル1だったときのお前であんな芸当ができたと思うか?」


 それを聞くとはっとし、初期とドラゴンと戦ったときの自分の動きを比べる。明らかにレベル1だったころとは違う力の入りように思考を巡らせ、もしかしてと自分のステータスを展開する。


 そこには大量の魔物と戦った結果であろうLV219の文字。


「………………ステータスが……上がってる。ゼロじゃないのか……?」


 そして大幅に上がったHPやMP、その他幾つかの数値が映し出されていた。


「そう、上がってるんだ。ゼロにも関わらずな。つまりこのゼロは…………成長値を表すどころか何の数値でもないんだ」


「何の数値でもない………いや、でも、そんなことあるのか? 何で俺はそんなことになってるんだ?」


「本来ある一から十の成長値…………………そしてそのどれにも入らないゼロ……………。これは実際あり得ない数値……………だと言うのにまるで反抗するかのように上がるステータス……………考えられる可能性……………は」


 アルギドは俺の言った言葉を訊いていたかいないのか、右手を口に当ててぶつぶつと独り言を言った。


「レベルアップで……………………ステータスが上がっている訳ではない」


「よし待て勝手に話を進めんな」


 対する俺はアルギドの中で勝手に進められているであろう現状に思わずツッコミをいれた。


「で、何を思い付いたんだ? アホみたいに三点リーダー使いやがって、もしそれで下らないこと言ったらバナナぶっさすぞ」


「ば、バナナ? いや、あくまで仮定だが……これなら説明がつくんだ」


 アルギドは思い付いた仮定を語り初めた。


「つまり――――」

「やっぱりストップ!」


 いや、語ろうとした。

 直後突拍子のない俺の謎のストップ宣言によって強制的に止められたのだ。アルギドはそれに対してまるで不可解と言った顔をし、「なんだ泉」とこちらを睨んだ。


「いいかアルギド、現時点では分からないことが多すぎる。多分これは相当めんどくさいことだ…………………俺には分かる。確かに考えて解き明かすと言うことは大事だ、人類もそうやって発展してきた。だけど、人はそれだけで生きているのではなく日々の出来事や刺激によっても………………進化していくんだと俺は思う。例えば今の時間帯正常な家庭ならとっているであろう朝食。これは1日の始まりのエネルギーを与える上にその日の感情、そして活動意欲すらも味で操ってしまう。つまりより良い日を迎えたいと言うのならより良い朝食をとるべきだと俺は思うんだ」


「二十字以内で要約すると?」


「腹……減った、昨日から食ってない」


「………ああ、そういえばお前、昨日から食ってなかったな。大広間で朝食が用意されてるぞ」


 アルギドは納得したように頷くと、ビシッと親指で大広間の方向を指した。

 どうやら二人の会話を若干聞いていたらしく、俺が行こうとするとパッとエリナとルーカスが立ち上がり、「俺(私)も食べてなかった」とスタスタと続いて部屋を出ていった。


「……本でも読むか……」


 残されたのはアルギドだけだった。



――――――――――――――――――――――――――――――――



「おー、うまそう」


 俺達が大広間に着くと同時に、幾つかあるテーブルの一つに同じ料理が三つずつ運ばれてきた。どうやらそこが俺達の席らしい。

 三人でその席に着いたのを見ると、支配人は「それでは、ごゆっくり」と言って恭しく引き下がった。


「あれ、アルギドの分なくね。ってかあいつどこ行った」


「あ、ほんとだアルギドさんいない。食べないのかな? 美味しそうなのに」


 エリナと交互に顔を見合わせてテーブルに用意された三人分の料理を見た。


「あいつは………………曲がりなりにも神だからな、食事が必要ないんだ。だから三人分しか頼んでなかったんだが…………まあ確かに旨そうだからな、今からでも遅くはあるまい。呼んでこよう」


 そう言うとルーカスはすっと立ち上がり、近くの支配人にもう一人分追加を頼むと部屋へと歩いていった。


「……アルギド来るまで待つか」


「そうだね」



――――――――――――――――――――――――――――――――



「アル」


 部屋に戻ると、アルギドは椅子に座って本を読んでいた。しかしルーカスの存在に気付くとパタンっと本を閉じ、ルーカスの方を見た。


「なんだ…………ルーカスか」


「朝飯、旨そうだぞ。せっかくだから食べに来い」


「そんなことか、俺は食事を必要としないと――――」


 アルギドは食事の誘いを断ろうとしたが「うるせえこのやろう」と強制的にルーカスに椅子から立たされた。


「まったく、相変わらず強引だな……………」


 アルギドは仕方なく、大広間へとルーカスに連れられて行った。しかし、ルーカスが何かを思い付いたのかその場で歩みを止めた。


「おいアル」


「ん、なんだ?」


「………うまい芝居だったな」


 アルギドの眉間がピクッと動いた。しかしすぐにいつもの余裕の顔に戻り、


「さあ、何の事かな?」


 と済ます。


「とぼけるな。俺には、俺にだけは本当の事を言うと約束したろ?」


 そう言われたアルギドははぁ、とため息をついた。


「…………幼少期の約束をよく覚えてるな。だが、それもそうだな………お前には本当の事を言っておこう」


 そして観念したように話を始めた。


「泉の成長値ゼロ……………あれは成長しない、と言うことではなく、恐らく人としての……おおよそ人類としての枠に当てはまらない、つまり限界がないことを表しているんだろう。しかし俺がそんなやつを想定していなかったせいで自動的にゼロと言う値が作られたんだろうな」


「なるほどな………だから……あいつはステータス、いやレベルが上がったのか」


「そう、本来の絶対ルール。成長値×百が成長限界と言う理を越えているのだろう」


「だろうな」


 ルーカスはそれだけ言うと、納得したようにウンウンっと頷いた。しかしすぐに顔を引き締め、アルギドを見つめ直した。


「あともう一つ。お前…………本当に暇つぶしでアイツを転生させたのか?」


「…………………」


 アルギはその言葉に一瞬だけ押し黙った。しかし――――


「さあ、どうかな……?」


 と、それだけ言うと不敵な笑みを浮かべ、一人で大広間まで歩き出した。


「……………相変わらずなのはお前の方だ……アル」


 それを追ってルーカスもまた、大広間に向かって歩いていった。 

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