しっちゃかめっちゃかにも程がある 4

「おーい、そろそろ時間だぞー。ただでさえ今日クッソ熱いんだから早く交代してくれよー。俺こんなところで干からびたくねーぞー」


 硬い白石(はくせき)で出来た城壁の門の前で、一人の男が内側に向かって叫ぶ。

 しかし、相手から返事は来ず、結局男はチッと舌打ちをしてまた外側に向き返した。

 

「まったく……あいつら何してんだ。時間は交代制においては絶対厳守だろーが」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああ」


「ちょっ!頼むから今はさわぐなぁ!」


「「「グィェァアアアアアアアア!!」」」


 真後ろを勢いよく魔物がとびぬける。


 それで終わらず、さらに多くの魔物たちが二人に攻撃をしかける。

 今の所は避けるか弾くかやられる前に殺るかで無理やりなんとかしている。


 現在

 魔物の群れを突っ切る選択をし、エリナを抱きかかえて猛スピードで数多の魔物を蹴り、撃ち抜きながら絶賛進撃中である。


 そんな中――抱きかかえられているエリナは涙目になりながらも一生懸命に魔法を駆使してサポートに徹していた。


 内心エリナのサポートがなければ若干ダメージは受けていただろうと安堵する。



 実にここまでノーダメージである。



「エリナ、王都まであとどれくらいだ!」


 自分の腕に抱かれるエリナをチラ見する。両手に火球のようなものを作り出している真っ最中。


「ちょっとま………って!」


 言うと同時にエリナは火球を前方から迫る魔物に飛ばし、燃やしつつ大きくノックバックを発生させる。


「もうすぐ着く、けど……このままこの数の魔物の大群を引き連れていったら………大惨事になる!てかそもそも無事に王都まで行けるのこれ!?」


「あ、そこらへんはご心配なく」


「いや心配するわ!」



 なんだかんだ、王都まで着実に進んでいた。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




 カァー、カァー、カァー、カァー、カァー、


  カカカカカ


   クワー、クワー、クワー、クワー、クワー


    けぁーけぁーけぁーけぁーけぁー

    

     カカカカカ


「いやうるせぇな烏!」


 数分前からずっとこうだ。カァカァ(×2)うるせえよ。


「変ですねぇ、いつもはこんなには鳴かないのに………………」


 空で盛大に鳴く烏に向かって叫んだ直後、石製の硬い階段を下りる音と共に小柄な一人の青年が突如話しかけて来たのに俺は思わずびっくりして、後ろを勢いよく振り向いた。


「うお!お前いつの間に俺の後ろに」


 が、それに対し青年は目の前の俺の反応などどうでもよさそうに落ち着いた声で話を続ける。


「烏は鳥類の中でもトップクラスに頭がいいんですよ。そんな烏がこんなにも騒ぐなんて………、ちょっと異常です」


「んなこったぁどうでもいいけどな。俺たちにとって大事なのは烏よりもこの後すぐの昼飯だ」


「それはあなただけでしょう」


 青年はハァ、とため息をついてもう一度烏たちを見た―――



「お前たち、何を男同士で乳繰り合ってんだ」


 と、さらにもう一人、まさに熟練の戦士と言った風格を身にまとった鎧姿の大男が姿を現した。


「あ、マルコーさん。どうも」


「何か用事ですか?確かまだ交代の時間ではないでしょうに……」



「いや、妙な胸騒ぎがしてな………、いやな予感がするんだ、それに風が――どうもおかしい」


 大男の名は≪マルコー=グレーゴリウス≫


 かつて国一番の大会の一つである剣豪対決にて優勝したという実績を買われ、現在王都の主要門である南門の警備にあたる警備隊の隊長を努めている――――らしい。

 詳しい私情はあまりしられていない。


「ほら僕の言ったとうりです。何か起こってるんですよ、マルコー隊長も感じてるんだから」


「いや、あくまで単なる胸騒ぎだ。そんな大事ではないだろう」


 勝ち誇ったように話す青年に対してなだめる様にそう付け加えると、青年はえぇ……と露骨に不満をあらわにした。


「だが、いつもどうりじゃないのは確かだな。普段以上に……警戒を高めてくれ」


 マルコー隊長は落ち着いて、尚且つ威厳の篭もった声でそう簡単に指示を出した。


「「分かりました!」」


 俺達が返事をしたのを確認すると、マルコーはウンウンと頷きながら階段を登っていった。


「ってか、俺もう交代の時間なんですけど!」


 ゆっくりと階段を上っていく大きな背中に叫んだが、マルコーは気づいていないのか、そのまま行ってしまった。

 次の時間帯の勤務のやつがなかなか来ないことを伝えそびれた。


「ドンマイですアーデルさん」


「うるせぇ」


 俺、≪アーデル=フレーデルガン≫は深いため息をつき、マルコーを追って階段を上って行った。




―――――――――――――――――――――――――――――――――――――




「っおらぁ!」


 鈍い打激音と共に、魔物を数匹蹴り飛ばす。だんだんと魔物の数も減ってきたが、こちら側も疲れが出だしていた。


「うへぇ、今更だけどほんとに多いな魔物、いや、モンスターかどっちかって言うと」


「名称なんかどうでもいいけど早く何とかしないと! このままじゃ消耗負けするよ!」


「分かってる」


 数は減りつつあっても、依然と魔物は攻撃を続けてくる。

 今更ながら割と馬鹿な決断をしたものだ。誰だよ魔物の間突っ切るとか言ったやつ。

 ………はいそうです俺ですゴメンナサイ。


 あまりの数にはぁとひとつため息をついて、再度魔物達と対峙した。


 しかし、ふとしたタイミングからちらほらと、何かにおびえるようにこの激戦の中から逃げ出す物もいた。


「さっきからどっか行く奴がいるけどなんだあいつら?」


「分かんないけどこっちからしてみれば好都合。数が減るんだから!」


「でもなぁ」


 少し眉をひそめて辺りを見回す。

 まあ視界にはこちらを敵視してとびかかる魔物、そしてこの場から逃げ出す魔物しか見えないが。



「なーんか嫌な予感がする」



 直後、大きな地響きと共にこれまた大きな獣のような鳴き声が辺り一面に響いた。



「ギゲァァアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!」



「え、なになに!?」


「やーっぱりこの雑魚共だけじゃなかったか」


「え、どゆこと?」


 エリナを下ろし、ポリポリと頭をかいた。



「つまり…………この雑魚共の親玉がいるってわけだ」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「な、なんだ今のは!?」


「マルコーさん!」


 背後から先程会った二人の内の一人の男、アーデルが走ってくる。この二人はたったさっきまで城門の警備に当たっていたはずだが。俺を追ってきたのだろうか。


「アーデル、状況は!」


「分かりません!一応城門前にフィリップがいます!」


 フィリップ。アーデルと共にいた青年だ。彼も何か良くない雰囲気を感じ取っていたが。


「急いで城門まで戻るぞ!フィリップのことが心配だ!」


 大急ぎで走り出した。


 くそ、やはりさっきの胸騒ぎは気のせいではなかったか!


 しばらく重い甲冑をつけたまま全力疾走し、フィリップの元にたどり着くいた。


「フィリップ!一体どうした!」


 青年フィリップはゆっくりと、こちらに振り返った。その顔は、恐怖と混乱に満ち溢れていた――

 しかし俺たちの姿を見て安心したのか、少し顔から恐怖が薄れ、逆に混乱の色が濃くなった。城壁の上までの長い石階段を下り、フィリップのもとへ走り寄る。


「今の咆哮はなんだ!」


 フィリップは恐る恐るゆっくりと口を開く。今自分が考えていることを伝えるために。


「鳴き声の種類からして………龍種、それも出現確率が非常に低い希少種かと思われます…………」


「龍種!?ドラゴンか……!」


 まさかとフィリップを見つめるが、フィリップも依然と信じられないと言うような様子であった。自分の言っていることが自分で信じられないのだ。


「よりによって王都付近に出現とは………神も意地が悪い」


「そんなこと言ってる場合じゃ無いですよ!ドラゴンが出たとなれば、町中大混乱に………………って、あああああああああああああああああああああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼‼」


「ど、どうした!ってうおぉぉあ!」


「うわぁ………………」


 三人の目に映ったのは王都南門の前方100メートル先に広がる広大な≪魔の森≫にそびえたつオブジェクト………ではなく、全身に黄緑色をした半透明の鱗をまとい、ばさっばさっ、と羽ばたく大きな翼をもつ全長10メートル近いドラゴンであった………。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



 直後、周囲の魔物たちはびくっと体を震わせ、全速力でその場から消え去った。そして次の瞬間、バキバキバキという気の折れる音と共に黄緑色の大きな何かが前方に姿を現した。


「…………………………へ?」


 それを見たエリナはしばらく固まったのち、口をあんぐりと開けこれが漫画だったら目が飛び出ているであろうと思うほどに目を見開いてさらに口を大きく開け、叫んだ。


「きゃぁ―――――――――――――――――――!」


 だが、俺は。




「でっかwww」


 としか反応はしなかった。



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「第一種戦闘配置準備!南門付近の住民の避難を急げ!それと付近の冒険者たちにも応援を頼め!さすがに希少種のドラゴンは危険すぎる!」


 すぐさま周りの者に指示を出し、落ち着いて行動するように促す。その声で咆哮に驚いた者たちは我に返り、指示どうりに住民の避難を開始し付近の冒険者の収集をはじめた。先の咆哮ですでに非常事態と理解していたおかげか、冒険者たちは1分とかからず南城門に集まりだした。

 城壁上の者たちは持っていた槍、弓、剣をそれぞれ強く握り直し、わずか500メートル先に立つ一匹のドラゴンを睨みつけた。

 


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「すげー、めっちゃドラゴンじゃん」


「泉、早く逃げるよ!よりによってクリスタルドラゴンだなんて……!」


「ちょい待ち」


 腰に挿していたマテバを取り出ししっかりと構える。


 狙いはドラゴンの左目。元世界での経験則(二次元)上、ドラゴンの急所は8割方眼。

 このドラゴンの急所も、眼であるという確信があった。


 一秒と待たずして銃身から弾丸が発射され、

ドラゴンの左目を貫いた。


「ゑ゛ゑ゛ゑ゛!?」


「ギゲェァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア‼‼‼」

 

 間を置かず、ドラゴンから悲痛の雄叫びが響く。

 謎の攻撃を受け、混乱しながらも残った右目で攻撃をした誰か、つまり俺を牙の生えた大きな口でかみ砕こうと勢いよく顔を突き出した。



 ――――が


「うるせえよ」


 咄嗟の反撃も空しく、全長10メートルを超えるドラゴンの巨体は俺の右ストレートによって綺麗に宙を舞うこととなった…………


「うええぇぇぇぇええええええええええええええええええ!?」



―――――――――――――――――――――――――――――――――――――



「「「はぁぁああああああああああああああああぁぁぁぁあああああ!!!???」」」

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