しっちゃかめっちゃかにも程がある 2
貰ったステッカーを真上に掲げた。
快晴の青空に浮かぶ太陽に照らされ半透明の部分から日差しが漏れ出し、顔に降り注いだ。
真ん中の赤みがかった半透明の不思議な形をしたシールをまじまじと見つめるが、どう頑張っても何か特別な力が眠っているようにも見えなく、ただのシール以外の何物にも見えなかった。
「どっからどう見たって普通のシールにしか見えない件について」
頭の中をはてなマークで半分ほど埋め尽くしながらぺりぺりっとシールをはがしていく。
「アルギドがくれたってことはただのシールではないんだろうけどなー、使い方は体に張ればわかるって言ってたけど……とりあえず手にでも貼っとくか」
このいかにも厨二病感満載なシールがなんだというのか。
若干の疑問を持ちながら右手の甲にゆっくりとシールを倒していく。
途中、何度か粘着部分が当たる部分の皮膚が妙にひりひりしたがお構いなしに貼り付けていった。
そして最後まで貼り付け終わった瞬間――
バリッ!
「うわ!?」
突如鋭い痛みとともに軽い稲妻が俺を中心に広がり、周りの大気を一瞬のうちに温め、地面の雑草の一部を黒く焦がした。
木々の葉は灰になるか衝撃でほとんど落ち、俺に近かった木の中には真っ二つに折れているものもある。
それでも尚、雷撃自体は数秒にわたって発生し続けた。
そして稲妻が収まるとともに、突如俺のステータスが自動的に展開された。
「いった! え、なにすごい痛かった!」
右手の甲をさすりながら周りの被害状況を確認し「えぇ、もしかしてこれ俺のせいになるん?」と言いながら、今度は唐突に開いた自分のステータスに目を移す。
よく見るとスキルの項目がいつの間にか増えていた。
ライジングイモータルレジェネーション
自らの体に稲妻を宿らせ、望むがままに操ることができる。
「……え何このスキル、さっきまでなかったのに今急に増えたってことは……こいつが原因か? いやこいつが原因だよな」
右手の甲のシールに触れる。
しかし指先に触れたのは先程までついていたシールの表面ではなく、自分の何時もどうりの手の甲の皮膚、そして硬い中手骨だった。
ただ一つ違うといえば、シールと同じ模様がまるで刺青のように貼った所に映し出されていること。
左手で模様の端をひっかくが、決してシールのようにはがれることはなかった。
「あるぅえーどうなってんだこれ。離れないぞー?」
グイングイン首を回すという少々やばいやつじみた動きと共に新しく増えたスキルの項目を読む。
そうだよ
誰もいないから寂しさ紛らわすためにちょっとはしゃいでみたんだよそんな目でこっちを見るんじゃねえ。
≪ライジングイモータルレジェネーション≫
もう名前からして雷な感じがするそのスキルは効果もTHE☆雷と言った内容。
だがシールの色は赤。
色は関係あるんだろうか。
まあないんだろうけどな、うん。
「よし、うだうだ考えてても無駄だ。情報も少なすぎるし、ここは大人しくアルギドの言っていた街を探そう。そしてついでに新しく増えたこのスキルの練習をしようそうしよう」
取り敢えず、俺はアルギドが言っていた街を目指すことにした。
本来これはゲームだったら新スキル獲得というそこそこ重要なイベントのはずなのだが、適当オブザベストの俺の前にはただ単純に森壊しちゃったテヘぺロイベントまでになり下がるのであった。
現実は非情である。
――――――――――――――――――――――――――――――
「うおぉりゃぁぁ!」
激しい雄たけびを上げながら大量の魔物の一匹に腹パンをくらわす。
そのまま真っすぐ殴り飛ばされた魔物は、その背後にいた別の魔物に直撃しながら転がり飛んだ。
そのすきに背後にいた魔物が飛び掛かるが、すぐさま後ろを見ることなくマテバを頭に発射し受け、四散させる。
「多すぎぃ! そして鬱陶しぃ!」
ジャイ・アント LV78
巨大なアリのような外見をした魔物。頑丈な外骨格で身を守り、強靭な顎とその巨体で攻撃を仕掛けてくる危険な生物。
そこそこレベルも高いうえに集団で行動する習性があるため、よほどの実力がない限り出会っても一人で挑んでは絶対にいけないと言われる。
こうなった原因は今から数十分ほど前にある。
謎のシール(と言うかそれ以外原因が思いつかん)によって増えたのであろう新しいスキル≪ライジングイモータルレジェネーション»を使いこなせるようになるために俺は移動途中に出会った魔物相手に特訓をしていた。
まあ流石にこまけえ使い方まではわかんなかったし、色々な方法を試してたら、脳内で電流そのものを強く想像することで空間に具現化させ、操れることを発見した。
それが分かってから魔物を数引きほど相手にした後、なんとか自在に雷を操れるまでになった。
しかしそれだけではただの超強力なスタンガンのような役割しかせず、相手のレベルによってはスタンを与える程度にしか効果がなかった。
勿論、そんなもので満足する様な俺ではない。
(ここから無駄に細かい説明が続くのでスルーしてもらっても大大丈夫です(笑))
雷の電気を極限まで圧縮することで精製出来る雷圧結晶(勝手に名前つけた)を、これまた雷と魔力をなんかコネコネして出来た電磁力で空中に浮かせる。
ソコに新たに電撃をぶつけることで雷圧結晶破壊。
極限まで圧縮された電力はとてつもないスピードで一気に膨張する。
それを上手く調節し、レーザー状にすることで見事無添加100%電力の高威力熱線の完成。
という現代科学もびっくりの無駄に器用なことを思い付いてしまった。
「思い立ったが吉日」と早速実験を始めてみた。
そして数分後、見事その技は完成してしまった。
此処までは良かった。
作りすぎた雷圧結晶を処理するために、近辺の一本の木に適当に投げつけたんだが。
木にぶつかって粉砕し、開放された雷撃は木を貫き、岩を貫き、とてつもない距離まで被害を出した。
つまりこれは手榴弾としても使えると言うことがわかった。
お陰で戦闘の幅が広がるぜいぇーいとか思っていたんだが。
運悪くそこはジャイ·アントが巣を作っている真っ只中だった。
勿論岩をいとも簡単に貫いてしまう熱線の元となる圧縮された雷撃に耐えられるはずがなく。
作りかけの巣は粉砕……と言うよりは蒸発してしまった。
無論ジャイ・アントがそれを許すはずがなく、結果、今に至る。
攻撃を避けながら電圧結晶を作り出し、即座に一方向に発射する。
精製にかけた時間が短かった分、威力は減少したが、前方にいたジャイ・アントは大方それで片付いた。しかし尚別の魔物が迫り続ける。
強靭な牙による攻撃が繰り出されるが、それを体制を低くすることでよけそのままバックステップで相手の懐に潜りこみ、腹部に相当するであろう部位にオートリボルバーを連射する。
ダァンダァンダァンダァァン
「ギイィィェァァ!」
ジャイ・アントは不快な断末魔を残し、消滅する。
倒す度に聞く羽目になるその不協和音に思わず顔をしかめるが、残る分を倒そうと向かいなおした瞬間。
前頭部に強力な打撃が炸裂した。
仲間が大量に倒されたことに激情したジャイ・アントの渾身の一撃。
瞬間的に腕で防御を取ったおかげで大したダメージはなかったもの、その後の衝撃までは防ぎきれずそのまま転がり飛ぶように岩に直撃した。
むしろ岩でぶつけた所の方が痛い。
ってかわりかし痛い。
「いってえなこの!」
再度ジャイ・アントたちに立ち向かいその内二体に上段回し蹴りを食らわせ、衝撃で倒れ込もうとするその頭をつかみ先ほど自分が叩きつけられた岩に叩きつけかえした。
そしてちょうど後方から迫る一体に高く跳躍し、勢い良く体重をかけながら踵を叩き込んだ。予定ではこのままもう一度今蹴り落としたジャイアントを踏み台にしてその場から飛び退くつもりだったのだが……
なんと力の加減を忘れていたせいで足場予定のジャイ・アントが、死んでしまった。
つまり踏み台がなくなり、このままでは下で待ち構えているジャイアントたちにつっこんでいく羽目となる。
「あ、やべぇ」
瞬時に防御の姿勢を取り、覚悟を決める。
そのまま群れに落下……のはずだったのだが――
「はぁ!」
謎の掛け声とともに強風をうけ、その場から5mほど離れた地点に着地していた。
「………ん?」
そしてその直後、一人の女性が駆け寄ってきた。
「あんた大丈夫……!?」
「ああ、特になんともないが……どちら様ですかw?」
「無駄に余裕ね……自己紹介は後。ここは私が引き留めておくから、あんたはさっさと逃げて!」
ジャイ・アントの群れに走り出す。
見ると右手に木製の杖のようなものを持っている。
あの格好はまさか………
「風斬!」
その少女がそう叫ぶと、空中に一定の間隔で円を描くように現れた魔方陣から連続して謎の斬撃が生み出され、ジャイ・アントを襲った。
「魔法だああああああああぁぁぁ!」
魔法があった。
まあ俺が使えるからあるのは分かってたけど、いざ実物を見た時の感動は半端ねーな!
と、思ったのもつかの間。
斬撃は硬い外骨格にあたると微かな傷を付け分散して消滅する。
効果が無いと分かると顔をしかめすぐさまその場を飛びのこうとしたが、それよりも早くジャイ・アントの前足が女性を襲った。
「――!? 避けろ!」
「きゃあ!」
杖で防御をしたつもりだったのだろうがほとんど意味はなく、さっきの俺のように転がりながら飛ばされた。
そこに再度ジャイ・アントは攻撃を仕掛けようと滲みより、腹部の先端を向ける。
その動作には、見覚えがあった。
あの格好をとったジャイ・アントの腹部は直ぐに謎の伸縮をした後、めっちゃ強い
瞬時に走り出し、女性のもとにたどり着く。
通りざまに女性と杖を抱え、そのまま少し離れたところまで飛び退いた。
そして、それとほぼ同時にジャイ・アントの腹部から発射された酸は空を切り、地面を溶かした。
あんなものに当たれば、それこそお母さんの作った愛情たっぷりカレーの如くトロトロにされてしまう。
「大丈夫か……?」
「……何で逃げてないの!?」
「え、だってあれ相手に負けることはまずないし、あとあんたが危なかったから助けた。理由は以上」
「前半言ってる意味が分からないんだけど……」
女性は困惑と苦笑いを同時にうかべる。いや、今落ち着いて見直してみると、女性というよりは少女であった。
「あのバカみたいに硬い化け物に一人で負けることはないとか何の虚言よ」
「……信じてないのは分かったが………そろそろ手を放して貰っても良いかな?軽いから疲れはしないけど。この状態で攻撃喰らったらまずいぞ」
「――!?」
先ほどまでの恐怖のせいでいつの間にか俺にしがみ付いていたことに気づき、耳まで顔を赤らめながら大急ぎで降りた。
「とっ、とりあえず、さすがにあれを一人で倒すのは無理がある!ここは私も一緒に戦うわ」
「いや、一人で大丈夫だしw」
「まだいってる!」
今も尚攻撃を仕掛けようとこちらの様子を窺うジャイ・アントに向かい、屈んで足に力を込める。
「まあ見とけって」
「ちょっと待ちな――――キャァ!」
飛び出した俺の背後には、大きな粉塵が上がっていた。ごめん多分当たってるよねそれ。
まあそんなこと気にしてる暇は無いけどな
「おっらあ!」
一番近い個体を、思いっきり殴りあげた。
「ギゲアァアアアアアァァァア」
直後ジャイ・アントは悲痛な叫び声とともに、四散した。
「……………は?」
少女は口をぽかんと開けて、その場に立ちっぱなしになっていた。
そしてその間にも、ジャイ・アントは俺の拳によって葬り去られる。
一撃
二激
三激
力を込めた一撃を、繰り出し続ける。
しばらくして、ジャイ・アントはその場においての絶滅危惧種となった。
「これで最後っと!」
やがて残り少ないジャイ・アントも俺の
首に手を当てながらコキコキと音を鳴らし、少女の方へと戻る。
「そら見ろ、ひとりでいけるっていっただろ?」
「……………………………」
対する少女は少し前から顎を開いたまま動かない。何とか意識を取り戻した後も、しばらくは混乱していた。
「え、いや、あんた……マジで何者……?」
「……知らん」
「えぇ……………( ´・ω・`)」
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