第一章〙 

第一話 しっちゃかめっちゃかにも程がある 1

 地面に手をつき、体を起こす。

 辺りを見回すと、まず目に入るのは木

 そして次に木

 さらに木

 たまに地面、そして――――


「いやほぼ木じゃねーか!」


 頭を抱え、まずは状況判断。


(自転車で、電車に轢かれて……森の中)


 しかし、あまりにも意味不明な現状に、俺の冷静な思考回路は消し飛んでいた。

 その証拠に訳の分からない俳句まで作り始める始末だ。しかも字余り。


「だめだ、五七五にしても訳が分からないぞ。何がどう転んでもここは天国には見えない。俺は地獄に行くようなことはあんまりしてないし、やったことと言えば校長室の椅子に接着剤を塗ったブーブークッション置いといたことぐらいだ!!」


 と、森で絶叫したところで、以外とやべーことやってるなとあまり嬉しくない自覚をするだけで意味は無かった。


 体についた土とごみを叩き落とし、グッと立ち上がったその瞬間。


 ヴン


 何の前触れもなく、目の前に青いウィンドウが現れた。


「うお! びっくりしたぁ」


 余りの唐突さに思わず仰け反る。

 立った瞬間急に目の前によく分からんのが現れたら誰でもびっくりする。


 ウィンドウは半透明で、後ろが透けて見える。そしてその表面には白い文字。

 ウィンドウ自体はちょうど此方を向いていた。


 少し後ずさりするが、ウィンドウはついてこなかった。普通こういうのってついてくるよな。

 試しに、自分についてくるウィンドウを想像する。

 次の瞬間ウィンドウは想像した情景と同じようにグググっとこちらへにじり寄ってきた。動かそうと思えば動かせるようだ。

 

 書かれた文字を見つめる。


    泉 竜斗 17

 ? Lv1


 ? スキル

   エキゾチックディスタンス

人の理を超えた遠距離の特性を得る。


   覇者の神髄

真の強者は己の肉体すらも凶器と化す。


   魂の創造

己が魂を消費し、望んだ武器を生成する。消費HP量は武器の性能に依存。



「これ……は、よくゲームとかで見る……ステータス表か?」


 さり気なく廃人ゲーマーである俺には、見慣れたものだった。しかしそれはあくまで画面の向こう。手の届くはずの無い場所での話。

 しかし目の前のそれは、手で触ることもできれば、動かすことも出来る。


 と、目の前の不思議な存在に興奮を覚える中、あることに気が付いた。


 よく見ると項目の横に?マークがついているのだ。


「もしかして……」


 一番上の、LV1と表記されている場所の横の【?】をぐっと押してみる。

 すると次の瞬間、先程までのウィンドウがパッと切り替わった。


   LV

そのもの成長度を表す値。格上の存在と戦い勝利した時にもらえる経験値が一定量たまると上昇する。Lvが上昇するとステータスが大幅に強化される。


 


   スキル

神から与えられる特別な力。その力は千差万別で、望むままに手に入れることは出来ない。Lv100アップ毎にランダムで獲得。



「…ちゃんと説明がついてる。見た感じまんまRPGみたいになってるな、というより…………ここまであれだとな、もうあれしかないよな」


 自分のステータス表を見つめる。一度開いたせいか、すでに【?】マークはなくなっていた。


 俺は、目をつぶって空を仰いだ。


    異世界転生――――


 どこぞのアニメや小説だけの存在だと考えていたが、それは違うらしい……


「なるほど、つまり俺は死んだあとそのまま成仏することなく異世界に転生したってわけだな。しかもlv1で」


 少々現実離れした今の状況は、いとも簡単に俺に空を仰ぎ見させた。

 イイテンキダナァ………


「ご名答、だけど思ったより気づくの遅かったな」

「――――っ!?」


 突然の背後からの声に即座にその場から飛び退き、声の主を確認する。


 一体いつからいやがったこいつ。


 そこにいたのは


 一人の男。


「初めまして。泉君」


「……誰?」


「神です」


「…………さーて行くかー、取り敢えずこんな所にとどまっててもどうしようもない。何処か人が居る所に――――」


「ちょっ!? おい何処に行く、まて! 話を聞くんだ! ここに戻れ!」


 対応に困った末、俺はとりあえず無視して人が居る所を目指そうと歩き始めたが半ば強引に男に引き留められた。


「何でお前は俺が話そうとした瞬間にどこかに行こうとするんだ!」


「いや……だって突然現れて私は神だとか言ってる奴に関わりたくないし、怪しすぎて逃げるしかないでしょ。お前俺が急に『俺は神だ! 崇め敬え奉れぇぇええ!』とか言ってたら逃げるか殴るかするだろ? むしろ殴ろうとしなかった事に感謝しろ。ここが異世界だったらお前速攻で警備隊とかに連行して頂いてるからな?」


「いやうん! たしかにそうだがなぁ?!」


 男ははぁ、とため息をつき、こちらに向かいなおした。


「取り合えず、話を聞け」


「仕方がないなー」


「まず、俺は≪創造神アルギド≫。この世界の生みの親だ。此処は天国でもなければ地獄でもない。先ほど言った様に君から見たら異世界だ」


「ホントに神なのか?」


「………スルーするぞ。そしてなんでお前がここにいるかと言うと、遡ること数十分前、その時俺はほかの神の友達と遊んでいたんだが途中で飽きてしまった。何かいい暇つぶしはないかと友達に尋ねたら、『じゃあ別の世界の人間の魂をまた別の世界に転生させるってのはどうだ、そんなことできるのお前くらいだし暇つぶしにはなるだろ』って言われてね、それで適当に誰か転生させようと思って抽選したらお前が当たった。」


 自分の耳を疑う。頭の上にいくつか?マークが浮かんでいた。


「いやージャストタイミングで死んだ大勢の人間の中から唯一選ばれたんだからすごいよな、何京分の一の確立だぜ」


 男は笑いながら俺の肩をバンバンと叩いた。


「あんたが本物の神なのかは置いておくとしよう。しかしなぁ…じゃあなんだ、俺はあんたの暇つぶしのためにとりあえず異世界に送られた、そういうことか?」


「大正解!!」


「ひでぇ( ^ω^)……」


 人生17年生きていればそれなりに理不尽なことは幾度かあった。だが、ここまで身勝手な理由で、よりによって人生を決定されたのは初めてだ。


「ていうか……あんたはなんで来たんだここに」


「それはだな、お前に俺が現状説明兼チュートリアルをしてやろううと思ったんだ。」


「チュートリアル?」


 『そうだ』と言いながらアルギドは一冊の本を取り出し、パラパラとページをめくった。


「この世界には魔物っていう人を見たら見境なく襲ってくるやつがいる。で、もちろんそれと遠からず戦わないといけないんだが……」


 「あったあった」とページをめくる手を止め、そこにしおりを挟み、持ち直す。


「つまるところ今からお試しで魔物と戦ってもらう」


「え?」


 今こいつはなんと言った?


「武器も何もねーぞ俺」


「確かスキルで素手での戦闘力爆上げしてあげたと思うんだが、それに一応武器生成のスキルも持たせたはず」


 泉のステータスウィンドウに手をかざし、ステータス一覧を開いた。


「あったあった、これこれ」


   魂の創造

己が魂を消費し、望んだ武器を生成する。消費HP量は武器の性能に依存。


「これは自分のHPを消費して武器を作り出せるスキルだ、今から自分が欲しい武器を頭の中で具体的に思い浮かべてくれ」


 言われたとうりに自分の欲しい武器を想像する。それを見るや否か、アルギドは≪魂の創造≫の文字を押した。


 その瞬間、とてつもない脱力感が襲った。全身から力が抜けるのが簡単に感じ取れるほどに。


「うお!」


 ガクッと片膝を地面につき、ひざまずいてしまう。


「な、なんだこれ……」


 体から光の粒子があふれ出し、それと同時に俺のHPがものすごい勢いで減っていった。


 やがてHPの減少はほぼ零間近で収まった。俺から出た光の粒子は周りを舞うと、目の前で小さな竜巻のように収束し、形を作っていた。

 現れたのは、一つの銃


 マテバ モデロ6 ウニカ


 リボルバーのわりに独特なシルエットと、渋さを感じさせない未来的デザインを持つオートリボルバー銃。有名どころを言うと攻〇機動隊シリーズのト〇サの利用する架空銃M-2008の元である。


「オウフ、HPヤバイヨ…………」


「そんなことより出来たぞ、お前の創造した武器第一号だ、なかなかにかっこいいじゃないか」


 地面に落ちたマテバ オートリボルバーを拾い上げ、俺に手渡してきた。


「すげぇほんとに出来てやがる……」


「じゃあ武器も手に入ったし、早速戦闘だ!!」


 先ほどしおりを挟んだページを開き、構える。


「え、ちょいきなりすぎ、HPも回復してな――」


「問答無用、逝ってこい!! 極魔獣オルギドラ!!」


「いってこいの漢字が違うだろ!」


 俺とアルキドとの間に、白い魔方陣が現れ、その上に一体の魔物が現れた。


 あまりの巨体と筋肉に思わず唖然とする。

見るとアルギドが先程開いていたページをこちらに向けていた。どうやら目の前にいる魔物の情報らしい。


   極魔獣オルギドラ Lv189

 牛の頭部と後ろ脚を持ち、胴体は筋肉質の毛の生えた人間体である。その筋肉から放たれる一撃は鋼をも容易く砕く。


「いやいやいやいやまてまてまて、Lv189ぅ!? 普通Lv1からだろ!どう考えても一番最初のモンスターじゃねーだろ!! せめて序盤はゴブリンだ!」


「倒したらレベルが上がるから頑張れ」


「無理無理無理無理!」


 いや待て落ち着け俺

 こいつが俺に対して敵対するかどうかは別の話だ。いくら化け物だからって無差別虐殺なんてことはしないはず。


 しかし、全長3mはあろうかという巨体は、此方を見るといきなりとてつもないスピードで拳を突き出してきた。


「殺す気満々じゃねえか!」


 間一髪のところで何とかよける。

 が、俺がいたところは拳によって有り得ない深さまでえぐれてた。


「あっぶねぇ、死ぬぅ、ガチで死ねるぅ!」


「へぇ、初見でそれを避けるとは、すごいじゃないか」


「見てねーで助けろよ!」


「ちなみにそいつのパンチ鋼の盾十枚重ねても防ぎきれねーくらい強いから」


「聞きたくなかったァァァ」


 連続で、とてつもないスピードで両拳が交互に放たれる。

 それを上下左右に素早く避けることで凌ぐ。


 しかし、これを延々と続けても意味は無い。俺がスタミナ切れするのは火を見るよりも明らかだった。


「あーもうくそ! だったらこうだ!」

 

 少し後ろに飛び退き、再度魔物へととびかかる。推進力を利用して力任せに腹部を殴りつけた。


「グモォァ!」


 魔物は少しよろめき、一瞬だけ止まった。


「お、効いたっぽいな………!」


 その隙をついて、左手のオートリボルバーを頭に向けて発射する。


  ダァン


 弾が直撃した頭部は大きく後ろに振れ、大量の血が流れる。

 銃弾の衝撃をもろにくらったのだ。当たりまえっちゃ当たり前。


 ――――しかし、がオルギドラは直ぐに立ち直り、なおふらふらとこちらに向かって走り出した。


「頭部直撃で死なないとかマジモンの化け物じゃねえか……………だが、これならどうだ!」


 瞬時に回し蹴りを頭に決める。

 ちょうどこめかみに、真っ直ぐに入った。


「がァァァぁァァァ」


 もろに攻撃を食らったオルギドラは悲痛な叫びを上げながら3、4mほど吹き飛ばされ、太めの木に当たった時点で地面へと崩れ落ちた。


 そして活動を停止し、パアッと四散するように肉体が消滅した。


「……っだはぁ! た、たおした」


 全身から力を抜き、緊張から解放された反動で膝に手をついた。


「すごいな予想以上だったよ。まさかほんとにLV1で倒すとは思わなかった、その分だとレベルも結構上がったんじゃないか?」


「……お前まじで許さねぇ」


 自分のステータスを見る。

 そこには


    泉 竜斗 17

   lv1→98


 と記されていた


「……すっげえ上がってる」


「ハハハハハ言っただろう?倒したらレベルが上がるって、これである程度は戦える。ちなみにここからあっち方向にずっと行くと町がある、あと……ステータスはむやみに人に見せるのはやめたほうがいい。反感を買うこともある」

 

 俺の向いている方向とは逆のほうを指差し、アルギドは言った。


「あとこれをやろう、どっか適当に体に貼っとけば使える。使い方は…張ればわかる」


 と、アルギドはズビシッと親指を立て、一枚のシールを渡してきた。


「ああ、わかった」


「じゃあな、健闘を祈る」


 そういうとアルギドは人差し指と中指をつけ、軽い敬礼をした後ふっと消え、森には俺だけが残された。


「良い奴……だったかな?てか思ったより俺強いんだな……」


 少々変だったが良い奴なんだろう。うんきっとそうだ。


 手をぐっと握りこみ、自分の手に入る力を感じる


 さて、これからどうしようか…………

 

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