第17話

「あぶなかったね~」


ニット帽をとり、座席に座りなおしたワタルが言う。普段より早く撤収したはずが気がつけばいつもとそう変わらない時間になっていた。ゲレンデから駐車場に戻った時には車は完全に雪で埋もれ、しのさんとポコちゃんが早朝から頑張った努力は跡形もなく消えていた。車から雪を落とし、その雪を邪魔にならないところへ撒く。ある程度捨てるところを決めないと、単に雪の中でもがくだけになりそうだった。


「みんな、お疲れ!」


車を出しながら少し息を切らしたしのさんが声をかける。全開になったエアコンの音と高速で動かしているワイパーがその場をざわつかせていた。


「高速、大丈夫かな~」


寺ちゃんが全員の心情を代弁する。雪はまた強くなってきたようだ。


「わっかんね。できればオールした道は避けたいけど・・・」


高速道路までは周囲に気を配りながらノロノロ運転で進んだ。これは通行止めかもと半分覚悟していたが、速度規制で済んだのは助かった。相変わらず視界は悪いが、高速に乗れたことで車内の雰囲気も軽くなったようだ。いつの間にか常夏状態になった車内に眠気が広がった。僕は左手で首筋をほぐしつつ右手を伸ばしてパネルを操作する。風量がおちるに合わせて少しだけ静けさが戻った。


「次のSAで運転かわるよ。大丈夫?」


「よろしく。実はちょっと眠気がきてる」


朝からフル稼働だったしのさんはさすがにきつそうだ。気を抜くと睡魔に負けそうだと目力強く前方を見て運転していた。無理やり大きく見開いた目をみてポコちゃんが笑う。「ネタじゃねーよ」と毒づくしのさんに買い置きの缶コーヒーを渡すと、冷たすぎて味がわからないと笑う。雪山話を続けていると何とかSAに到着した。夕飯をとるなら(雪下ろしに手間どり誰も昼食をとっていない)ここかもしれない。しのさんが後ろに声をかけるとみんな多少元気になった声で反応する。雪あかりはあるも、外は大分暗くなってきた。開けたドアから入る冷気に一気に目が覚める。


「ここで夕飯にしよっか?」


「や~、もう今日はご飯食べられないかと思ったよ」


「昼、食べたっけ??」


寺ちゃんの突っ込みにワタルが答え、隣でポコちゃんがたべてなーい!と確定した。みんな1時間前はそんな余裕もなく、雪まみれで車を掘り起こしていた。今日は帰れないかもと泣き言も出た。遅ればせながらご飯の話ができるようになったのは気持ちの上でも無事に脱出できたということだろう。


「じゃ、行くか」


ドアを閉めたしのさんが促す。「おー!」とポコちゃんが元気に歩き出す。雪はしんしんと駐車場を白く埋めていく。休憩をとったら出発前にまた雪下ろしをした方がよさそうだ。








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