第11話
「夏になると人脈がすべて枯れるんだよ」
タケ坊がジョッキを片手に熱く語る。
「いつも女子同伴で雪山行ってたイメージあるけど」
「んなことネーよ」
とりあえず酔っ払い相手にはてきとーに相槌しておく。今日は出張で近くに来るからと昼休みに携帯が鳴り急遽二人で飲むことになった。
「そう言えばあの子どうしてる?」
「あの子?」
「ほら、サロモンの板履いてた」
「あ〜・・・ってか、名前くらい覚えておけよ」
履いてた板は覚えているのに名前は知らない。雪山あるあるとはいえ、また古い話を持ち出してきたもんだ。
「いつだっけ、一緒に行ったの?」
「2月にはなってなかったよ」
タケ坊が例の飲み会で滑りに誘ったグループのうち家が少し遠かった子のピックアップを頼まれたことがある。
「何だよ、連絡とってないのかよー」
つまらなそうにタケ坊が言う。逆に、送迎しただけで面白い話があったら驚きだ。
「ちょっと携帯貸してみ。今から電話するから」
ちょうどテーブルのすみに置いていた携帯をとって画面を開く。この面白ければ何でもアリな感じ。タケ坊、結構酔ってるなと気づく。
「あれっ、携帯変えた?」
「玉原・・・タケ坊いなかったか。コブで大ゴケして落としたんだよ。帰りの駐車場で気がついたけど、今は番号ほとんど入ってない」
「そう言えば篠原が落とした携帯探して大変だったとか言ってたことあったなぁ」
そうなのだ。少し早めに降りたはずが駐車場で大騒ぎ。他のメンバーには先に行ってもらい、しのさんと2人で携帯を探しにもう一本あがったのだ。飛ばされたあたりをかなり掘り返すも結局見つけられなかった。
「携帯お馬鹿になって、出るまで相手もわからないのってキツくね?」
「とりあえず職場と、タケ坊としのさんの番号は覚えてるよ。それより連絡するならタケ坊の携帯にあの子の友達の番号があるんじゃないの?」
「いや、履歴から電話してたみたいで登録してないんだわ。あと、俺の番号くらい登録しとけ」
冬シーズン、飲み会幹事を頑張ったタケ坊は今ひとつマメさが足りなかったらしい。本人に確かめたわけではないけどタケ坊は密かに寺ちゃんが気になっていたのではないかと思う。もっとも寺ちゃんは会社の先輩を追いかけているのを早々にカミングアウトしていたので最初から上がり目はなかったが。
「篠原がさぁ、彼女できたんだと」
「マヂ?」
「まじ」
先週、買い物に出てバッタリ幸せカップルと出くわしたらしい。
「あいつもシーズン近いのに彼女作ることはないよなぁ」
いつもよりタケ坊の声が弱々しい。しのさんに先を越されたのが微妙に堪えているのかもしれない。
「一緒に行けば良いじゃん。あと、彼女の友達も山に連れて来てもらえば良いよ」
名案のように促すもタケ坊は残念そうに首を振る。
「彼女、寒いところ苦手だってさ」
フォローの言葉が思いつかなかったので泡の消えたビールを飲んでスルーした。
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