第10話

「いや〜、今日はとんだー」


湯船に浸かりながらタケ坊が言う。ペンションのお風呂は温泉だった。


「根津ちゃんのあんな気合い何年ぶりだっけ」


笑いながらしのさんが答える。


「やっぱり白いお湯は温泉って感じがするね〜」


全く話を聞いていないワタルの呟きにタケ坊が「をい!」とツッコミを入れる。残念ながらゆるゆるに溶けた顔のワタルには聞こえてなさそうだ。


「まさか360回してくるとは思わなかった」


「いつまでも篠原にだけ良いとこ取りはさせられないしな」


最後の一本で念願の技を決めたタケ坊の声は弾んでいた。惜しむらくは散々カメラを回しすぎてラストはバッテリー切れになっていたくらいか。参加したメンバー全員が見ていたから記録はともかく記憶には残った。メンバーの半分はまだ部屋でビデオを肴に盛り上がっている。


「あれ、いきなり開眼したの?」


しのさんとの違いは後先考えているかいないかだと思っていた僕はタケ坊の心境の変化が気になった。


「急に回せるイメージができたんだよな〜」


「案外、普通にできるだろ?次はパークで回そうぜ」


テンションだだ下がりだったタケ坊の復活にしのさんも嬉しそうだ。


「しかし、たっつぁん組はレベル高いよね~。塩ビをあんなふうに抜けていくのは見ていても楽しいよ」


「俺もたっつぁんには置いていかれたな。技の繋ぎが滑らかだわ。ヨシの大ゴケも驚いたけどな」


「塩ビ、難しいね。みんなスイスイいってるから」


「だろっ?甘くみちゃアカンて」


キッカーでちょいスプ(僕が唯一できるエアだ)した流れのまま板を横に振って塩ビに乗ったら斜面を転がっていた。


「飛ぶのは楽しいだろ?」


しのさんがニヤリと笑う。検定からじぶんの趣向が基礎っぽくなっているのをどうにも見透かされているので苦笑するしかない。正統派?トラディショナル?まじめ??無難?とにもかくにもオーソドックスなところが落ち着くというところか。タケ坊以上に守りに入っているということだろう。


「はぁ〜、染みるぅ〜」


まだひとり溶けていたワタルの声が風呂に響いていた。








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