第9話

結局、そのシーズンは5月いっぱいまで雪山に通った。仕事が忙しくなる時期も帰ったらすぐに寝て明け方に起き出す生活。シーズンが終わり夏になれば月に一度は屋内スキー場でキッカーをとんだりレールを擦ったり。さすがにロングターンは出来ないけれど、雪上に立てるのがただ嬉しかった。


夏休みにはみんなで乗鞍の雪渓を滑りに行った。キッカーを作るためのスコップとアイテムにする塩ビ管を担いでバスに乗る。工事現場へ行くみたいだと誰かの呟きに笑いが起こった。


「一本上がってくるわ」


そこそこ大きなキッカーが完成すると、板をザックに括りつけ僕は雪渓を登り始めた。標高が高いため少し登っただけで息が切れた。ゆっくりと休み休み歩いていく。30分かけて何とか雪渓の上部にとりついた。ザック下ろしてペットボトルを出す。一気に喉に流し込んだ。ボトルの中身はまだ冷たい。


「ぷっはぁ〜」


大きく息を吐いて顔を上げる。あたりを見渡すと空が近い。


胸ポケから携帯を取り出し写真を撮った。キッカーをとぶ仲間が小さく見える。涼しげな風が頬を撫でた。しばらく山の音を聞く。名残惜しいがいつまでもノンビリしてはいられない。息が整ったのを確かめると板を履いてドロップした。スタートは雪質を探りながらおりていく。柔らかな雪と硬い雪が不規則に出てくる難しいバーンに負けて思うように滑れない。キッカーまで降りるとタケ坊が笑いながら声をかけてきた。


「ハハッ。かなりやられてたなぁ。上は硬い?」


「凍ってるところは落とされまくり。エッジも噛まないし。山スキーは難しいや」


シュプールを目で追いながら上部を見上げる。ヘルメットを脱ぐと風が心地よかった。


「もう少しすれば緩むだろ。次また上がるなら付き合うよ」


ふたりで皆のエアを眺める。今回のメンバーはグループの中でも屈指の連中だ。空中でとにかく回す。躊躇いなく回す。飛びこそ命、火こそ吹いていないが端から見てればガメラだ。


「根津ちゃんもヨシも飛ばないの?」


ハイクしがてらこちらに来たしのさんが声をかける。塩ビ管で大コケして、ウェアのそこかしこにザラメ雪が付いている。


「うっし!」


気合いを入れたタケ坊が列へ向かい、僕もそれに続いた。そう、今日はフリーライド板をお供に飛んだり跳ねたり擦ったりする日なのだ。


カシュッ


下では塩ビをメイクしたメンバーがドヤ顔で振り返っていた。






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