第8話

雪が良かったのもあり一日中滑り倒した。フォームやポジションをあれこれ気にしない楽しんだ者勝ちのスキーは、どこまでも自由だった。途中、ポコちゃんがコース脇に落っこちて腰下まで新雪に埋まり全員で救出するなんて事件もあったが、怪我なく終えたのは何よりだった。パークに入るメンバーは骨折、脱臼、打ち身と、軽いものから重いものまで怪我の話には事欠かない。時には途中で麓の病院へ送って行くこともある。そして、それらはしばらくすると怪我自慢の武勇伝に変わっていくのだ。


「ヨシはボードやらないの?」


帰りに寄った居酒屋で寺ちゃんがそんなことを言う。


「そうそう。早くボードに転向しなって」


すぐにしのさんが乗っかった。スキーもスノボもどちらもやる2人からそう推されると少し困る。


「機会があれば・・・」


苦しまぎれに返したのが分かったのだろう。寺ちゃんが苦笑する。


「そうだよ、ヨッシーもボードやって雪に埋もれなきゃ!」


救出のあと散々弄られたポコちゃんが不機嫌そうに八つ当たりしてくる。目の前に置かれたカシオレはこれで4杯目だ。


「ボードはスキーより埋まらねぇって!」


しのさんが蒸し返すと、ちょっと口を尖らせたポコちゃんが続ける。


「でもね!転んで動けなくなるまでは浮いてるみたいだった。もう凄いの!!雲に乗ってるみたい」


「マジか。俺も滑りたかったな」


「いや、無理でしょ。あの辺、ストック刺しても底つきしないし。しのさんがやらかしたら雪解けまで埋まって出られないよ」


「ンな事ねーよ、腕が違うって」


「腕じゃないよ、軽さの問題!」


得意気にポコちゃんが噛み付く。


「でもさ、ロープないのは危ないよね」


寺ちゃんが真面目な顔で言う。確かにそう思う。ただし、あそこに落ちるのも例外中の例外だ。回廊になっているところで曲がりきれず真っ直ぐ外に飛び出したのだ。降りても下にはエスケープルートはない。スピードを殺さずトラバースすればもう少し上の方に戻れたかもしれないけれど、今日は雪が降りすぎだった。


「無事だったんだからいいじゃん」


しのさんが軽く流す。実際にポコちゃんを救出するのに1時間近くかかっていた。途中スキーパトロールが声を掛けてくれたのを笑いながら大丈夫と答えたしのさんも悪い。今でこそ元気を取り戻したポコちゃんも、埋もれて動けない時にはもう帰る〜と声に出して凹みまくっていた。


「良くない〜」


抗議を無視してしのさんは写メを見せる。そこには雪まみれで半べソをかいたポコちゃんが写っていた。


「もー!!」


ポコちゃんは素早く携帯を奪うと画像を削除する。目の前のカシオレは既に空だ。


「あらら・・・」


間の抜けたイジメっ子の声に全員が笑った。










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