第7話

時刻は5時50分。いつもの畑わきに車を止める。まだ誰も来ていない。板を降ろしていると白のワゴンがやってきた。


「悪い。遅くなった」


しのさんが車から降りてくる。


「おはよ。時間どおりでしょ。今日は降りそうだね」


話しながら荷物をワゴンに放り込んでいく。あとの2人とはお寺の駐車場待ち合わせだ。


「板・靴・ストック・ウェア・ゴーグル」


指折りしながら忘れ物チェックの呪文を唱える。ヘルメットにゴーグルはつけっぱなし。その様子を見てしのさんが運転席に乗る。タケ坊は飲み会のため欠席だという。僕が助手席に滑り込むとすぐに車は出発した。お寺までの距離はそう離れていない。カーステからはお約束のエミネムが流れていた。少しすると前方にふたりが見えてくる。1人は手を振りながら飛び跳ねていた。


「遅〜い」


開口一番叫んだのはポコちゃんだった。


「嘘つけ。ちゃんと集合時間前だって」


「遅〜い!」


ポコちゃんはもう一度同じ口調で繰り返す。


「しのさん、何時集合にしてたん?」


「いや、いつも通り」


しのさんがそう答えると寺ちゃんが話を引きとった。どうやらテンションのあがり過ぎたポコちゃんは5時頃にはここに到着していたらしい。


つまりポコちゃんのフライング。住職、寺ちゃんのお父さんが見つけて寝ている寺ちゃんに声を掛けたのが5時半。慌てた寺ちゃんが準備し出てきたのが20分後。そして今は6時25分・・・まだ約束の時間よりほんの少し早い。


「しのさんの奢りでアイスー」


「バッカ。朝からアイス食ってるやついないだろ。あと、奢らせるならヨシに言え」


「ヨッシーが遅かったの?」


アイス、アイスと連呼するポコちゃんがこちらに矛先を向けてくる。


「いや・・・」


反射的に首を振る。


「ほらー、しのさんジャン」


御機嫌斜めのポコちゃんを車に押し込んでいる間に寺ちゃんが荷物をワゴンに乗せてくれた。騒がしい後をスルーして出発する。しばらくすると車は高速に乗った。


「ん?」


急に後ろが静かになったので振り返るとポコちゃんは寺ちゃんに寄りかかって熟睡していた。寺ちゃんが人差し指を立ててお静かにと伝えてくる。


それに合わせてカーステの音量を絞るしのさん。


「だから起きるの早すぎだって」


小声で呟くと車内に抑えた笑いが広がった。


「赤城高原SAまで一気に行くけど、途中寄りたくなったら教えて」


暫くすると後部座席からは2つの寝息が聞こえてきた。


「ヨシも寝てていいよ、朝早かったろ」


「いや、大丈夫。いつも通りだし」


「確かに」


ふたりして自虐的に笑う。平日より週末の方が遥かに早起きな生活。普段朝が弱いはずが、週末だけは目覚ましが鳴る前に起きられるのは何故だろう。


追越車線を飛ばしていく車があっという間に消えていく。渋滞の心配はなさそうだった。混んだら午後券なんて日もあったけど、今日は一日券でいけそうだ。


「ほれ、途中休憩」


SAに到着するとしのさんが後ろに声をかけた。


「あ〜お腹すいたぁ!アイスアイス!」


元気も機嫌も回復のポコちゃんはパワー全開だ。


「アイスじゃお腹いっぱいにならないだろ!」


珈琲を買って机を確保する。しのさんが間違えてアイスコーヒーを買ったと言い、笑いが広がる。今日行くスキー場を決めるための緊急会議。スキーもボードもやる寺ちゃんだが、今日はボードを持ってきていた。玉原高原かなと何となく思ったが、ポコちゃんは天神平に行きたいと言った。


谷川岳天神平スキー場、ここは少し雰囲気が違う。スキー場というよりリフトのある山。パウダー狙いの人も多い。ウェアに着替え道具を確認するとロープウェイに乗り込んだ。上った先がスキー場だ。ゲレンデに出ると雪がチラチラ舞っていた。


「やっぱり上は寒いね」


そう呟くと背中にホッカイロを貼ってきたと寺ちゃんが勝利宣言をした。ニッコリ笑ってVサイン。いいなぁと声が上がる前にそれは配られた。この子にプロポーズした先輩は見る目がある。しのさんがふたりに向かって無駄に感動を伝える。ホッカイロ1つで寺ちゃん株はストップ高だ。きっと全米も泣いたに違いない。しのさんのおふざけにちょっとポコちゃんはムッとしたのがわかったが、ホッカイロは有り難かった。










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