第5話
トントンちゃららんトンちゃららん
携帯の着信音が鳴る。電話はしのさんからだった。
「もしもし」
「よっ、いまどこ?今日の検定どうだった?」
「ちょうど高速のSA。何とか受かったみたいよ?」
「お〜!やるじゃん。帰り寄りなよ。お祝いしよ、お祝い」
突然お祝いと言われるとなんともこそばゆかったが、自分のことのように喜んでくれていることが嬉しかった。何度か行ったことがある居酒屋を集合場所に決めて電話を切った。
パチパチパチパチパチパチ
合格発表で名前を呼ばれたのに一番驚いたのは僕だった。貼り出された採点表には赤く合の文字。予想通りロングターンは1点足りず落としていたけど、フリーで2点の加点が出てトータル+1。出来過ぎの結果だ。
最終種目、前走が滑ったところで手伝いとして帯同していたコーチに受検者のひとりがアドバイスをねだっていた。
「ふふんっ。総滑は・・・気合いだ!」
ニヤリと笑うとゴールエリアまで凄いスピードで滑り降りていく。受検者の中からスゲーという声があがる。確かにコーチの檄が効いたのか1級班の滑りも他の種目の時より一段スピードが上がっているように見えた。派手に転倒する人が出ても受検者全体の熱量が下がることはなかった。
僕の番になった。2級受検者はスタート位置を下げて良いと説明があったが、位置は変えずにそのまま漕ぎ出した。芝居掛かったコーチのひと言と1級班の滑りに引っ張られ、限界までスピードを上げる。最後は元気に滑って終えるだけだ。2日間押さえていた腕を振り込む癖も遠慮なく出ていたと思う。スピードが一番乗ったところでリズムを変えた。身体がピンポン球のように左右に弾け飛ぶ。雪はだいぶ緩んできていたが、勢いを殺すことなくゴールエリアに飛び込んだ。
今回の合格者は他にいなかった。それでも笑って拍手を送ってくれる、誰もが気の良い人たちだ。
「次はライバルね〜」
飲み会を盛り上げたマダムさんが声を掛けてくれた。しかし、1級なんてどう考えてもとても届かない世界だろう。
「また修行して来ます」
そう答えるとマダムさんは悪戯っぽい目で笑った。
「それじゃ、次は来週ね!」
こうして僕の初検定は終了した。
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