3-5
エイリアンが店の中に入って来たのはそんな時だよ。正直いってその時の事はよく覚えていない。カメラの映像を見て、ああそうだったんだって思ってくらいだよ。その時はただパニックで、どうやってその場から逃げ出そうかと必死だったんだ。入り口から入ってきたエイリアンの姿はもうただ異様で、ヤバそうで、チャカを持ったヤクザが20人くらい集合したくらいの迫力で、俺はほとんど正気を失っていたと思う。
俺は台所でいきなり照明を点けられて慌てているゴキブリみたいに逃げ惑っていて、その時はあの人の事はほとんど忘れていたんだ。イヤ、忘れていたというのはちょっと違うと思うが、テンパってて周りが見えなくなっていたからその時にあの人がどうしていたかなんて、全く目に入らなかったんだ。エイリアンが武器を構えたけど発射する前に倒れたっていうけど、実はそれもカメラの映像を見るまでよくわかっていなかったくらいだから、確かに俺はあの日あの時あの現場にいたけど、具体的に何が起こっていたかなんていう事は何も説明できないんだ。俺は走って店から出てからは、とにかく無我夢中でそこから離れて事務所まで戻った。あの人もすぐに事務所に戻ってくるだろと思っていた。でもあの人は事務所戻ってくる事はなく、代わりにどういう訳か警察がやって来て、俺は身柄を拘束されたんだ。
だけどこれだけは言えるよ。もし不自然にそのエイリアンが倒れたというなら、絶対にあの人の力が働いたんだと思う。それは間違いない。しばらく一緒にいた俺がいうんだから間違いないよ。
俺が話せるのはこれぐらいだよ。アンタ達が期待しているような事は話せていないかもしれないが。どうだい、何か役に立ったかい?
話を聴き終わった佐治は自分の頰を手の平で擦り、それから雨宮の方を見て困惑の表情を浮かべた。カタギではないこの若者の言葉をどれだけ信用できるか、あまりにも話の内容が突飛でとても信じられないが、しかし今はその真偽をいちいち問いただしているヒマはない。
「その後は一度もその人に会っていないんだね」
「それはそうだよ。俺は警察に捕まって、ずっと自由に行動できなかったんだから。どんな理由で捕まったと思う? 不法侵入の罪だっていうんだよ。この状況で不法侵入って、警察だってもっとやることがあるだろうって思っていたら、あの人のことを知りたがっているっていうことがわかって、ようやく納得できたよ」
「店に入った時に君たちは何も武器は持っていなかったんだね」
「武器? あの人が誰かを傷つけるために武器を使うところなんて見たことはないよ。だけどあの人に危害を加えようとする者が現れると、何の前触れもなく突然そいつは倒れてしまうんだ。言っただろう、エイリアンがやってきた時もあの人は水を飲んでいただけだった。イヤ、水の入ったコップを眺めていただけだったって」
「エイリアンを倒したのが本当にその人なら、何でその人はそんなことができるんだい?」
「人? アンタ俺の話しを聞いていたのかい。あの人は人間なんかじゃないよ。人間にそんな力があるわけがないだろう」
「人間じゃないとしたら、何なんだい。その人もエイリアンだったっていうことか」
「いや‥‥‥」
ケンはそう言って首を横に振り、天井を見上げた。
「俺が思うに、あの人はすごく、冷静で容赦のない凶暴な神だよ」
「神⁉︎」
佐治が声を大きくして聞き返すと、横で雨宮が小さくニヤリと笑った。
「他に考えられるかい? あの人は何でも知っていたし何でもできた。そして、そして、簡単に人の生き死にを決めてしまうことができる者、他に考えられるかい」
「神様は空の上にいるものだと思っていたよ」
佐治がそう言うと、雨宮は我慢できなくて声を出して笑った。
「だから話したくなかったんだ。あの人にも自分の事は口外するなって言われていたからね。でも警察で何も言わなかったから俺はここに連れて来られた。そしていま全てを話したけど、俺は何事もなく無事でいる。それはきっとあの人がそれ望んでいたからだよ。だから俺はまだ生きている」
「いいか、アンタ。はっきり言うけど、アンタが無事でいるのは地下深い防衛省のこの部屋にいるからだよ。でもエイリアンがやって来たらここもどうなるかわからないよ。これから好きなところへ送って行くから、一緒に来てくれないか」
雨宮は苦笑しながらそう言った。
「俺をどこに連れて行くんだ」
「だから、君が行きたい所へ送って行くよ。ただ故郷の青森は無理だよ。投下された爆弾で放射能汚染がひどいからね」
「俺は自由なのか」
「そうだよ」
「今さら自由になってもな」
「民間人をここに置いておけないんだ。さあ、出掛けるよ」
雨宮はやっぱり時間のムダだったな、っていう感じでため息をついて、脱いでいた上着を羽織った。佐治も椅子から立ち上がり、デジタルレコーダーのスイッチを切った。
「行く先を決めておいてくれよ。エイリアンがもう地上に降りて来ているんだ。そんな時にあっちへ行ったりこっちへ行ったりウロウロするのはごめんだからな」
ケンはシャツの袖で額の汗を拭いながらちょっと沈黙していたが、決心したように一人で何度も頷いた。
「行く場所は決めたよ。またあの人に会ってみるよ。あの人と一緒だと、どこにいても不安を感じる事がないんだ。ここから一番近くのデニーズへ連れて行ってくれないか。きっとあの人はそこにいるはずだよ」
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