3-3
それで何でデニーズの店内カメラに写っていたかというと、あの人はクリームソーダが大好きで、あのソーダにアイスクリームが浮いているやつだけど、それもどういうわけかデニーズでそれを飲みたがった。あの人の考えや、やることは全て謎だけど、それは俺にとっては違和感の極みだったよ。
だけど店内でクリームソーダを飲むなんて出来るわけがない。なぜならあの人は外出する時にもいつもあの犬を抱いていたから、外に出ると悪い意味で注目の的だった。すれ違う時に、とっくに死んだ犬を抱いているあの人を見て悲鳴を上げる女も何人かいるくらいだったからな。だけど一度だけうまくデニーズの店内に入ってテーブル席に座ったことがあったんだ。空いている時間帯で出入口に店員がいなくてノーチェックで入れたからだけど、しかし席に座るとすぐにマネージャーの男がやってきて、他の客の迷惑になるから出ていってくれという。内心は当然だと思ったけど、こういうところで簡単に引き下がってたら、ヤクザ稼業が務まるわけがない。
「何か文句あるんかい」
俺はそういってマネージャーを睨みつけてやった。
「出ていってもらわないと、警察を呼ぶことになりますが」
「何がだよ、何で警察なんだよ。俺らが何をしたっていうんだよ」
「いや、他のお客さまに迷惑になりますので」
俺は立ち上がり、マネージャーの男に顔を近付けて、ヤカマシイ、と大声で怒鳴ってやった。するとマネージャーはレジに置いてあった電話の子機みたいなものを取って、ピッピッピッってわざとらしく警察に電話をし始めたんだ。俺はその態度が頭がきたのと、警察を呼ばれたら面倒な事になるかもしれないと咄嗟に思って、その受話器を取り上げて店の外に出た。そしてその取り上げた受話器を、駐車場のアスファルトに叩きつけて壊してやったんだ。
受話器は壊れて駐車場のあちこちに破片が飛び散った。それで俺はちょっと満足して店の中に戻ろうとすると、マネージャーの男がすごい顔をして出入り口で俺を睨んでいたんだ。俺は構わずに店の中に残っていたあの人のところへ戻ろうと歩いていくと、後ろから腕を掴まれて、すごい力で地面に押し倒されたんだ。あっという間だったよ。俺は顔面を地面に強打しながら、駐車場のアスファルトの上で身動きができなくなってしまった。
まったく情けねー、っていう感じだったよ。マッポに路上で取り押さえられた事があったけど、こんなに簡単にはやられなかったのに、何でっていう気持ちだったよ。油断していたせいもあったけど、ソイツは何か慣れている感じで、間違いなく武闘派の人間だと思ったね。武闘派のファミレスのマネージャーだよ。こんな奴は初めてだった。
ソイツは俺を膝で地面に押し付け、俺の片腕を後ろでひねり上げた状態で、自分の携帯電話を片手で取り出そうとしていた。俺は首をひねって、放せ、このヤローとかわめいていたけど、ソイツは体重が俺よりずっとありそうで、身動きできない。また警察の厄介になるのかって諦めていた時に、あの人が出入り口のドアを開けて外に出てきたんだ。
「もう帰るので、その人も放してくれませんか」
ソイツは険しい顔であの人を見返したが、少し考えてから俺の体を放して立ち上がり、自分のズボンの汚れを手で払いながら、
「それでは、もうここには来ないでもらえますか」
と、あの人に言ったんだ。
「それは無理だが、だったら次は君が居ない時に来る事にしよう」
あの人がそういうと、ソイツは急に顔色を変えて、
「じゃあ、やはり警察に来てもらうしかないですね、電話機も壊されているし」
と、言ったんだ。
「わかったよ、とりあえず、今日は帰るからな」
俺はソイツにそういって、急いで立ち上がった。こんな事で警察に目をつけられたらどうしようもないだろう。それまで何体の死体を山の中に埋めてきたと思ってるんだい。この際、メンツも何も関係なかったんだ。
俺が下手に出て謝ったら、ソイツも少し落ち着いたようだった。駐車場に散乱した電話機の破片を拾って、店の中に戻っていったよ。
「じゃあ、帰ろうか」
あの人は何もなかったようにそう言って、先に歩き始める。俺は一緒に歩きながら、あの人に聞いたんだ。
「先生」
その時、あの人のことを俺はそう呼んでいた。親分とは違うし、アニキにしては歳が離れていたし、それが一番ピッタリくる感じだったからだよ。
「先生は、いつまであそこにいるつもりなんスカ?」
だいたいあの人の目的がサッパリわからなかったから、俺は恐る恐る聞いてみたんだ。午前中はずっと寝ているし、午後になってもたまに外をブラブラ歩き回るだけで、何をするというわけではない。不思議でしょうがなかったんだ。
「だからこないだ言っただろう。私は待っているだけだよ」
「何を待っているんですか」
「戦争だよ」
「やっぱり、戦争ですか。相手はやっぱりあの組ですね」
「そうじゃない。でも、間もなくだよ。そうすればすべてがわかる。イヤでもすぐにわかりますよ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます