第8話いのちの代償

ラグナロクが数千年に一度起こる星核の地震運動による自然災害だと知った俺たちは吉永から差し出された次の本を読み始めた。



〜小泉家及びAPRB (オウビア物理研究局) におけるものさしの研究結果〜


この研究はヤマト帝国皇族小泉家とオウビア連邦物理研究局による合同研究によるものである。


ヤマト帝国の皇帝は手にした者の願いを叶えると言う伝説の70cmものさしを来たるラグナロクから救うために欲しているとのこと。


このものさしは1800年前の絵巻物「叶願物語絵巻」に登場しており、現在のヤマト帝国の位置する場所にあった小国が隣国からの侵略を防ぐためにものさし使用したとされている。


また、手にした者の願いを叶えるという特殊効果については金属化ドミニウムに原因があると考えられる。


金属化ドミニウムは人が何かを強く願った時に体から発する特殊な超音波と共鳴し、特殊音波を発生させ、磁場と地殻のエネルギーを操り手にした者の願った事を具現化させる。


だがこの金属化ドミニウムは星核中にごく少数存在する物質であるため、人間が採掘する事は不可能であり、数千年前に起こったラグナロクの際に星核から飛び出した金属化ドミニウムの破片がヤマト帝国のどこかにあるのだろう。




「つまりはものさしが手にした者の願い叶えるっていうのは本当なのか」


さらに事実を知り興奮する俺達に吉永はそっと話しかけた。


「さて、君たちにはラグナロクとものさしの真実を知ってもらったが君たちが本当に苦しいのはここからなんだ」


「どういう事ですか?吉永さん?」


「仮にものさしを手にし世界を救うよう願っても願った者の体は特殊音波によって次第に機能停止していくんだ…」


「それって死ぬって事ですか??」


「あぁ…仮にもし一命をとりとめても昏睡状態から目覚めることはないだろう…つまり、ものさしでラグナロクから世界を救うという事は誰かの犠牲が無くてはならないのだ…」


それはあまりにも無慈悲な者であった。ものさしの力を使うという事は己の命を代償に世界を救うという事だ。


「何かの犠牲を無しに何も得る事は出来ない…か…」


黙っていた千鶴が呟くように言った。


「片岡君…いきなりの話で申し訳ないが、君がもし命を賭してこの世界を守る覚悟があるのならものさしのありかを示した地図をやろう。その覚悟が無いなら私とはここでお別れだ。どちらか決めてくれ時間がないんだ…」


俺は吉永の唐突な話についていける訳もなく、雫は下を向いたまま何も話さない。



その時背後からカチャリと銃の安全装置が解除される音がした。


「OFABだ…吉永…貴様に重要情報隠匿の疑いがかけられている。来てもらおうか…」




「チッ、連邦治安維持局か…時間が来てしまったようだ。片岡君、君は命を賭して世界を守る覚悟があるか?」


俺は言葉が出なかった。


それと同時に銃声が鳴り響いた。

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