第8話

◯幽霊団地(夜)

   四人を飲み込んだ洗濯機、次第に胃(?)の調子が悪くなって青ざめてく

   る。粉末洗剤を胃薬感覚で飲むが、やがて耐えられなくなり、オエっと吐

   き出す。ぬるぬるの五人が出てくる。

メバチ子「…人生最悪の気分です」

コタロウ「アッコちゃん! 起きてよ! アッコちゃん!」

   亜子、目を開ける。

亜子「…コタロウ? ごめん こわかったんだ… お前を守るなんていって 口

 ばっかりだ あたし」

   亜子は握っていた粉々のペンダントをコタロウに渡す。

   ペンダントを見たメバチ子、

メバチ子(M)「生命電気感知ジャミング装置…」

   と、雄叫びが響き渡る。団地中の洗濯機が巨大な口を開けている。

メバチ子「まっずくないですか!?」

   室内から飛び出してきたテレビや冷蔵庫、自動販売機や街灯まで憑キモノ

   家電に姿を変える。そして家電同士で交わり始める。

やまい「異種交配だ! これがバケモノ家電のアンファンテリブルな恐ろしさ

 さ!」

   メバチ子はコタロウと亜子の目を覆う。

うおのめ「なんであんたが誇らしげなんだっ!」

   うおのめ、近くのバケモノ家電を一撃で粉砕する

うおのめ「イケる! ヤってる最中は無防備だ!」

   だがうおのめの後ろにボトボトとバケモノ家電が産み落とされる。

   大きく、そして両親の特徴(洗濯機テレビみたいな)を引き継いでいる。

やまい「第二世代! 出産から成長まで 一分とかからない!」

   うおのめ、第二世代の家電と打ち合う。しかし次々と増える。

うおのめ「家電の乱交かよ…っ!」

   うおのめに巨大な影が落ちる。

やまい「すごい… ぼくものこのサイズは 初めて見るぜ…」

   巨大な赤ちゃんをかたどった憑キモノ家電が団地の中央に立つ。

   T『超巨大複合型憑キモノ家電!』 

メバチ子「これが蜂の巣をつついた代償…」

うおのめ「…メバチ子 全員連れて逃げろ」

メバチ子「しかしうおのめさん一人では…っ!」

うおのめ「お前らと違って結局兵隊は代わりがきく!」

巨大家電「…ミンナ …キモチ悪イッテ …イッテル」

うおのめ(M)「知能があるか!? だったら交渉の余地がーー」

   うおのめが話かけようとした瞬間、巨大家電の一撃が直撃する。

うおのめ(M)「ーーねえっ!」 

コタロウ「うおのめさん!」

   コタロウは宙を舞ううおのめを受け止める。二人に無数の家電が襲い掛か

   る。メバチ子とやまいが汎用型アーマグラ(銃)で応戦する。

メバチ子「本隊の到着まで時間を稼ぎます! 借りを作ることになりますが構いません ね?」

巨大家電「キャッ! キャッ! キャッ! キャッ!」

   が、巨大家電の上空からの追撃。大人三人が盾になり攻撃を受け止めてコ

   タロウを守る。

やまい「というのは建前で… 逃げられないんだ…」

巨大家電「モット 遊ボウ ヨウーー」

   巨大家電が三人を押しつぶさんとする。全身から血が吹き出る。

うおのめ「つうわけだっ …コタロウ! 短い間だったが…楽しかったぜ」

コタロウ「いやだよ! うおのめさん! ぼくを一人にしないで!」

うおのめ「おい亜子!」

   亜子、嫌がるコタロウを引きずるようにその場から離れようとする。

亜子「無駄死にだけはさせちゃならねえ…!」

   だがコタロウが突然片膝をつく、

亜子「コタロウ!? ど どこか痛いのか!?」

コタロウ「まずいよ アッコちゃん…すっごくお腹がっ! 空いた!」

亜子「……はあ?」

コタロウ「ああああ! そういえば夕食食べてない! ああ もう…ダメ 意識

 したらーー鳴る!」

   コタロウ、お腹が「ぐーーーーっ」と鳴って倒れ込む。直後、コタロウから

   強烈な青い光が立ち上る。光は笑い声を轟かせながら、牙のような形にな

   りコタロウを食べる。

メバチ子「生命、電荷反応…」

   コタロウ、光を纏いながらゆっくり立ち上がる。

   と、口の端から何かが落ちる。それはコタロウの犬歯。

やまい「ーーっ!」

   やまいは目を見ひらく。

やまい「それがきみのアーマグラフかっ!」

   やまいの白衣の下に潜ませた大量の工具が見える。

   T『SNK型神経加速アーマグラフ』

   やまいは辺りに散らばる部品で超高速で何かを作る。

巨大家電「アアアアン! 眩シイヨオオオオーーッ! パパァ! ママァ!」

   呼ばれて現れた二体の大型家電がコタロウを襲う。轟音。砂煙。煙が晴れ

   て現れたコタロウは、顔の下部を覆う歯のついたマスクをしている。コタ

   ロウを襲った二体の大型家電は、巨大な牙で削り取られ事切れている。

やまい「きみたちが一分で命を生むというなら ぼくは一秒でアーマグラフを作

 る!」

   コタロウがにやりと笑う。

   T『IRB型咬合力強化アーマグラフ!』

コタロウ「シャバだあああああああ!」

メバチ子「…生命電気に精神を乗っ取られています」

うおのめ「んなことあんのかよ…」

   コタロウは周囲を見回し舌なめずり。

コタロウ「おいおいご馳走が並んでいやがる」

巨大家電「パパト ママノ 仇!」

   暴れまわる巨大家電の四肢を、コタロウの歯が噛みちぎる。

   巨体が周囲を巻き込みながら倒れこむ。巨大家電は周囲の家電に呼びかけ

   る。

巨大家電「ボクノ パートナーハ!? 恋人ハ!? ハヤク 作ッテヨ!」

コタロウ「だあーほ そういうもんは自分で捜せ」

    コタロウ大型家電の上に乗り両手を合わせる。

コタロウ「まあ一生叶わねえけどなあ! いただきます!」

    巨大家電が牙でごっそり削れる。

巨大家電「アゝ… セックスッテ 気持チイイ ダロナァ…」

   コタロウは巨大家電から青白い帯状の生命電気を引きずり出す。

   アーマグラフに挟まれてビチビチと蠢めく。

   コタロウバリバリと嚙み砕き飲み込む。

メバチ子「同族を 喰った…」

コタロウ「んめえええぇぇぇぇ…」

うおのめ「コタロウ!」

   コタロウはうおのめたちの方を見る。

コタロウ「オードブルが並んでいやがる」

   コタロウ、よだれを拭う。

メバチ子「あたしたちも… 食べるつもり?」

   コタロウ、三人に襲いかかる。

うおのめ「仲間にアーマグラフを向けんじゃねえ!」

   うおのめの一撃がコタロウに入り吹き飛ぶ。

   コタロウ、家電の山にぶつかりうなだれる。ぽろっとマスクが外れる。

コタロウ「うおのめ さん…」

うおのめ「だがわかるぜ 腹減ると機嫌悪くなるよな」

   うおのめの片足がなくなっている。

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