三章 呪われるバースデー 2—2


 みんなを見てると、赤城さんがムッとしてた。まあ、この人は、しょうがない。前から怪しかったし。


 しかし、真島さんばかりか、奥瀬さんまで変な顔してた。

 僕は急激に心配になってしまった。

 まさか、この人も赤城さんと同じタイプなのか? 蘭さんのこと好きだとか言わないよね?


 まあ、誕生パーティーじたいは楽しかった。僕の料理も好評だった。電気消してロウソクの火をふきけしたり、みんなの心のこもったプレゼントとか。


 僕はこの前、清水で買っておいた茶碗をあげた。蘭さん用のやつが、まだなかったからだ。


 猛は蘭さんのお母さんを写した念写写真。いいな。低コスト。


 奥瀬さんは蘭さんが読みたがってた古本。


 赤城さんはお手製のジャケット。自分で作れるところがスゴイ。

 片身にだけピンストライプ入ったシックだけど、ハデなやつ。むちゃくちゃ、蘭さんに似合う。


 ひときわインパクトあったのは、三村くん製作の蘭さんマスクだ。この前作ってた例のあれ。

 透きとおった肌に、ほんのり紅がさし、本当に生きてるみたいに見える。長いまつげは市販のつけまつげかな?


「どや。こんしんの出来栄えやろ」


 僕は、ひきぎみ。

「リアルすぎて、ちょっと怖い。コワ綺麗な感じ」


 でも、蘭さんは喜んでた。


「スゴイ。自分で見ても、そっくり。あとでカツラかぶせて、カベにかけときましょうか」

「ええっ……夜中に動きだしそう」

「そこがいいんじゃないですか。わかってないなぁ。かーくん」


 蘭さん、さては僕を怖がらせて遊ぶ気だな?


 最後に川西さんが、せんさいなタッチの桜の油絵を渡した。三村くんのあとでインパクトはなかったけど。蘭さんの実家に近い御所の桜だ。


「たしか、あのへんやったはずやから。なつかしいんちゃうかなと」

「ありがとう。嬉しいです。家族でお花見した場所ですからね。川西さん、僕、思いだしましたよ。僕がクラブの練習してたとき、よく校庭や花壇で写生してましたよね」

「おぼえててくれたんや。僕なんか地味やし、誰もおぼえてへんと思うてた」

「でも、仲のいい友達がいたじゃないですか。たしか、同じ美術部で、いつも二人でしたよね」


 川西さんは急に、くちごもった。


「う……うん」

「なんて言ったかな。あの人。一年のときの学祭で、カマキリの絵を描いてたんだ。それが印象的で。真っ白いカマキリだった。なのに、タイトルは『夢』なんだ。変わった絵を描くんだなって」

「………」


 なんだろう? 川西さん。だまりこんじゃって。

 ちょっと変だなとは思ったけど、川西さん、もともと無口だし。


 そのあと、みんなで飲んで、楽しく過ごした。


 そのとき、僕らは誰も思ってなかった。

 この日が楽しければ楽しいほど、あとが、つらくなるとは。

 僕らには、八波みたいな予知能力はないから。


 そして、あの日が来た。

 十二月十五日。

 蘭さんの二十六回めの誕生日にして、呪われた日。

 僕はこの日のことを思いだすと、今でも胸が苦しい。

 できることなら、やりなおしたい。もし本当に過去へ行くことができるなら……。

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