第4話 浅き夢見路の出口

トイレに入るなりボクは我に返った。

鏡に映る自分の姿を見て、夢から覚めた。


ボクはただの太ったギョロ目の中年だった。

斜め後ろから聞こえてくるロマンスグレーのイカした紳士と可愛い嬢が展開するデートの会話を盗み聞きしながら、羨ましく思っていただけだった・・・。


トイレの鏡の前にあるのは、現実の世界に直面している自分自身の姿が映っているだけだった。


そうだ、もちろんボクも萌愛を誘ってデートがしたい。萌愛と食事会をしてみたい。

けれどボクは萌愛のタイプにあらず。デートどころか延長さえも催促されない。今宵もおざなりのキスだけはサービスしてくれるが、それ以外は対応すらも素っ気無い。

ただ時間だけが無常に過ぎていく・・・・・。

人気嬢の萌愛は何人もの客を抱えており、ボクにあてがわれた数分の時間でさえ、疲れたような素振りでの対応だ。

「さあ、そろそろ時間よ。また来てね。」

大した挨拶を交わすこともなく、ボクは寒い冬空へ放り出されるのである。


ボクを慰めてくれるはずの月は雲の中に潜り込み、ボクはトボトボと木枯らしだけが舞っている道を歩いて帰る。溜め息だけが白く濁り、ボクの道案内をしてくれる。


そういや、まだ冬だったな。

今日もいい夢を見させてもらった・・・。



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