第3話 浅き夢見路の最中
萌愛の卒業日は、春を迎える弥生のある土曜日と決まった。
ボクは最後の嘆願を彼女に手向ける。
「最後の日、ボクの手で送り出したい。ラストタイムに来るから、その後で二人でお祝いしたいな。」
しばらく考えた後、彼女は笑顔で答えてくれた。
「最後の日は仲間が送迎会してくれるらしいから、その前の日ならいいわよ。」
「オールナイトがいい?何が食べたい?カラオケにする?」
「あのね、次の朝の十時にはお勉強会に行かなきゃ行けないの。だからパーティはマックスで二時間よ。そのあと少し寝たいし。サウナにでも行って仮眠するから。」
「じゃあ、ホテルはボクが予約してあげるよ。だから二時間でもいいから、最後まで一緒にいさせて。一分でも一秒でもキミと一緒にいる時間が欲しいだけなんだ。」
「うーん。」
萌愛は少し考えた。
やはりホテルに泊まるとなると少し恐い。当たり前の発想だと思う。
しかし、ニッコリと微笑んで、「まっいっか。」と言って答えてくれた。
その日からボクの猛検索タイムが始まった。
店が終わるのが午前一時三十分、支度して出てくるのが午前二時。その時間に営業している店を探し、宿泊できるホテルを探す。
何度も何度も頭の中でシミュレーションを繰り返し、ようやく店とホテルが決まった。それは、朝まで営業していて旨い肉を食べさせる店とベッド間が狭いツインのホテル。理想通りの組み立てだった。
やがて冒頭で宣言していたエックスデーの日を迎える。
前日に中々寝付けなかったにもかかわらず、その日の朝も、いつもどおりの時間に目が覚めた。
今宵のお店への出動時間はいつもより遅めでよい。ラスト2セットだけに臨めばよいからである。
入店時間は午前零時十分。いつものように萌愛を指名してフロアに入る。
ドリンクを指定して待つこと数十秒。
いつも変わらぬ笑顔の萌愛がボクの隣に座ってくれる。
「今日もいつもどおり可愛いね。今夜は楽しい食事会。覚えてる?」
「もちろんよ。今日はどこへ連れて行ってくれるの?」
「美味しい肉と美味しいワインのお店だよ。」
「うふふ。楽しみだわ。」
「その前に、キミの匂いとその絹のような肌を堪能してからね。」
そう言ってボクは彼女の首筋を攻めていく。
スーッと漏れる甘い溜息が耳元で聞こえてくる。
いつもの通り、若い肌と素晴らしい匂いを堪能しつくし、後は楽しい食事会が待つだけの時間となっていた。
斜め後ろから聞こえてくる、客と嬢とのやり取りが、少しばかり耳につく。ときおり見かけるロマンスグレーのイカした紳士だった。
気になると、ついつい聞き耳を立ててしまうのはボクの性分として仕方がない。
そんなことを気にしている内に、なぜか急に尿意を催したボクは、萌愛にその事を告げてトイレに向かう。
そして鏡を見たときにあることに気づくのである。
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