早く結婚がしたくて

 元々、その容姿ゆえに、多少のやっかみはあったのだろう。

 それまでローラちゃんと仲の良かった友達は、皆、手のひらを反すかのように、ローラちゃんの元から去っていった。


 中学の三年間、地獄のような日々を、ひたすら耐えたと、ローラちゃんは言った。


 だから、高校に上がるときは、隣県の、全寮制の女子高に入学したのだとも。



「私、早く結婚がしたいんです! 結婚して、名字を変えてからでないと、私、地元に帰れません!」


 何度も何度も聞かされた、この台詞。


 私はさっき、それをくだらない理由と言ったけれど、当人にしてみたら、きっと深刻なのだろう。


 そんなローラちゃんに春が来たのが夏の事。


 って、なんだか冗談みたいな言い回しだけど、春に入社してきて、夏に彼氏ができて、秋になった今、寿退社しようと思ってますと言われたのは事実だ。


 気持ちは分からなくもない。


 過去の出来事に加えて、社内でのセクハラ。

 これでは、中学時代と変わらないではないか。


 念のため、その彼の名字を聞いてみたら、その人は、甲斐さんというらしい。


 甲斐ローラ。


 まあ、これなら普通だろう。

 元々名前がカタカナなのだから、多少の違和感は仕方がないとしても。


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