ローラの悩み

 未就園児の頃から、ローラちゃんは街で知らない人はいないって位、有名だった。

 その時からすでに、可愛さと美しさを兼ね備えていたからだ。

 今もそれは、変わらない。


 小学校時代は、その愛くるしい容姿と佇まい、そして比較的珍しいであろうカタカナの名前とがマッチして、男子だけでなく女子までもが、彼女を持て囃はやした。


 一見順風満帆に見えた彼女だったが、中学に上がってから一変する出来事があった。


 登校初日。新しいクラス。


 自己紹介の場面でそれは起こった。


「豊高ローラです」

 椅子から立ち上がり、透き通った声で名前を告げたローラちゃんだったけど、次の言葉を発する前に、どこかから男子の大声が割って入ってきた。


「トヨタ、カローラ?なにそれ。車か?」


 教室内はざわめき、ローラちゃんは急に恥ずかしくなって、次の言葉が出ずに、顔を真っ赤にしながら、そのまま着席してしまった。


 話はこれだけで終わらない。



「さっきはその、ごめん」

 チャイムがなって、休憩時間になってすぐに、ローラちゃんのところに、さっき茶々を入れた男子が近寄ってきて、そう言った。


 その男の子は、小学校時代は学区が違っていて、中学になって初めて一緒になる子だった。


 彼は、前の学校では人気者だったらしく、彼がローラちゃんの前に立つ頃には、周りには人だかりが出来ていた。


 まあ、半分はローラちゃん目当てだったんじゃないかなって、私は思うのだけれど。


「大丈夫です。気にしないでね」

 内心では、さっきの事を思い出して、恥ずかしさが込み上げてきていたけれど、なんとか自分を抑え込んで、冷静にそう返した。でも、顔は真っ赤だったようだ。


 その表情を見て、その男の子も頭を掻きながら、言った。

「でもさ、カローラって、もしかして、一番多く街を走ってね?」


 話をぶり返され、少し戸惑いながらも、無言で彼を見つめるローラ。

「ってことはさ、一番人気ってことだよね。君も、きっと……」


 そう言いかけて、今度は彼の顔が真っ赤になった。

 つられて、ローラちゃんも真っ赤になって俯く。


 その二人のやり取りを、小学校から一緒だったらしい女子の一人が見ていた。


 その娘はどうやら、彼を好いていたらしく、それでいて性格もよろしくなかった。


 そんな彼女がその時言い放った一言が、後のローラちゃんの学生生活を最悪なものにする事になる。


 あからさまに敵意むき出しの目をローラちゃんに向けながら、その娘は続けた。

「って事はさ、一番男に乗られてる女って事じゃん」


 強引にカローラとローラを結び付けたその発言に、彼女は周りから非難を浴びた。


 でも、話というものは、どんどん膨らんでいくものだ。ましてや、中学の頃ともなるとなおさらの事だったろう。


 その話にはどんどん尾ひれが付き、ひと月と待たずにその話は「ローラは誰とでも寝る女子」という事になっていった。


 ましてや、そういうことに興味津々のお年頃だ。

 ローラちゃんは、毎日のように男子に声を掛けられるようになる。


 もちろん、僕もお相手願いますのような内容ばかりだ。


 殆どが、からかい半分だったようだけど、中には真剣に言い寄ってくる男子もいたらしく、体育館倉庫に連れ込まれそうになったことも、何度もあった。

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