オタクと偽オタクが聖地巡礼すると ②

「いいなぁーこんな広い家」

「フェリクス様の家、学校くらい広くない…?」


 フェリクスはローズマリーとノヴァを案内するため、広い自宅の廊下を歩いていた。


「さすが四大貴族ってやつ…?俺の家がいくつ入るかわかんないや」

「なんでそこで比較になるのがノヴァの家の一軒家なの」


 四大貴族というのはフェリクスの家柄のことだ。この国には多くの貴族がいるが、その昔王家が国を支えるために作った四つの貴族が存在する。フェリクスの家はそのうちのひとつなのだ。


 誰もが知ることなのでわざわざ言うこともないが、ノヴァに改めて言われると「ちゃんと知ってたのかこの骨好きは」と苦笑しそうになった。もしかしたら知らないんじゃないかと思うくらい、彼は相手の身分で態度を変えない人間なのだ。…骨の具合によっては変えるのかもしれないが。


「これくらい広くて部屋も多いと、骨の保管場所にも困らないよね…」

「どうしてそういう発想しか生まれないの」

「そっちだってこれだけ広かったら本の置き場に困らないって思ったくせに…」

「そ、それはまぁ…思ったけどさ…」

「ローズと違って俺のような繊細な趣味を持つと厄介なのが保管場所なんだよね…空調設備とかもろもろ」

「私だって本が劣化しないためとか床が抜けない場所とか、そもそも隠すための場所とかいろいろ厄介よ!」

「この部屋って涼しくて保管にいいかも…伯爵の家の部屋ほしいなー…」


 貴族にとって、土地の広さや建物の大きさはそのままその家の格に繋がることも多い。そして部屋にもひとつひとつ意味があり、無駄に思える部屋もその「無駄」が重要なのだ。


 普段なら客人には屋敷の中をさりげなく案内し、壁や床や柱の材質はなんだとか、あの置物や絵画はどこそこの有名な芸術家のものだとか、うちのシェフの腕をぜひ堪能してほしいだとか、相手に「うちはすごいんですよ」とアピールする。


 嫌味ではなく「あなたにとってうちにはそれだけの価値があります」と、人脈作りのきっかけにするためだ。そして「あなたには多少うちのことを教えてもいい」と気を許すサインでもある。匙加減が難しいが、屋敷の中を見せないということは逆に相手のことを「見せるまでもない相手」と蔑ろにするも同義で、かえって失礼にあたるのだ。


 しかしこの2人に部屋を見せても「骨の保管場所」もしくは「本の置き場」の話題しか出てこなかった。


「ねぇ執事さん、あんたは骨に興味ない?」

「…骨には疎いもので…申し訳ございません」

「そっかぁ」

「ですが、骨を熱した木の皮でくるみ、魔法水を垂らして、骨に浮き上がる絵文字で吉凶を占う方法は存じております」

「へぇ、けっこうマイナーなやつ知ってるじゃん…俺は魔法水は川の水より井戸の水なんだけど」

「朝露もよい、という話は耳にしたことがございます。確か、何かの骨と相性が良いとか…」

「草食系の骨と朝露の組み合わせだねー。当たる確率が上がるんだってー」


 しかもなぜかノヴァとクロードが骨の話で盛り上がっている。きっと優秀な執事のことだ。事前に骨を趣味に持つ人間について調べ上げたに違いない。


「執事さん、骨に詳しいんですか?」


 ローズマリーが声を潜めてフェリクスに話しかけてくる。まさかノヴァの話題についていける人間がいるとは想像していなかったのだろう。


「さぁ…どうなんでしょう」

「それとも執事という生き物はなんでも知ってるとか…?執事は有能ってよくある設定よね…」


 彼女は考え込んで腕を組む。フェリクスに話しかけるような、独り言のような中途半端な呟きが聞こえた。「よくある設定」とはおそらく物語の中に出てくる執事たちのことだろう。フェリクスは墓穴を掘らないよう言及するのを控えた。


「こちらの部屋です。とりあえず間に合わせで用意させたものですが…好きに選んで下さい。サイズ違いで用意してますが、あとで直させるので」


 オタク話に発展する前にフェリクスがそう言うと、執事がさっと前に出てきて扉を開ける。そこには何十着かのドレスが用意されていた。ローズマリーにドレス選びを手伝ってほしいと言われ、急いで調達したものだ。オタクのことは疎いフェリクスだが、この手のことは得意分野だった。もっとも選んだのはフェリクス自身ではなく執事のクロードなのだが。


 ローズマリーはその部屋に一歩入ると驚いた様子で目を大きく見開き、口をぽかんと開ける。そして次の瞬間、くるりと方向転換して部屋からダッシュで出ていこうとした。


 が、いつものんびり動くノヴァが俊敏にローズマリーの腕を掴んで引き止める。


「逃げるの禁止…」

「む、ムリムリムリ!ぜったい私が着るようなドレスじゃない!!」

「そう?」

「そうよ!シミひとつ作ったらクリーニング代で私の財産が吹っ飛びかねない…!」


 フェリクスの手前、ローズマリーは声を潜めて嘆いているが、フェリクスにはしっかり聞こえている。ここにあるドレスは急ごしらえで用意したものなので、最先端のデザインや人気のデザイナーのものはないが、決して安物ではない。しかし高すぎるものは彼女が気が引けると思い、ローズマリーくらいの家柄にちょうど合いそうなものを執事に選ばせたのだが…。


「気に入りませんでしたか?ならもっと違うものを…」


 フェリクスがクロードに目線を送る。それを見たローズマリーは慌てて首を振った。


「いえ、気に入らないわけじゃ…ただ…」

「これ買うんだよね?借りるにしてもレンタル料金いくら?」

「あぁ…大丈夫ですよ。お金のことは気にしないでください。よかったらそのまま差し上げます」

「も、もらえません!お金のことは気にします!」


 ローズマリーは顔を青くしたり赤くしたりして今にも倒れそうだった。


「…フェリクス様。婚約者がいらっしゃるご友人にドレスを差し上げるのはいかがなものかと」


 クロードが一歩前に出て、小さな声でフェリクスに言う。フェリクスが女性にプレゼントをするのが好きだと知っている執事は、普段はそれを止めない。が、ローズマリーが死にそうな様子を見て空気を読んだのだ。


「あぁ…言われてみればそうだな」

「ねぇねぇ」


 と、執事と話しているのもお構いなしに、ノヴァがフェリクスの肩を叩く。


「…なんだ?」

「リュミエールに請求しといて」

「え?」

「ドレス代。そしたらローズも気にしないと思うしー…」

「…そういえば、彼はこのことを知ってるのか?」

「知らないよ。連絡つかないし、ローズが嫌がったから」

「嫌がる?」

「あいつ、ローズの着ている服を『面白みのない布』って言ったらしくて、まともなドレス選びできないって思われてんの」

「面白みのない布…」


 それはフェリクスには絶対生まれない発想と発言だった。彼にとって女性が身につけているものは全て褒める対象でしかない。例えどれだけセンスがなかろうが最悪の服を着てようが泥だらけだろうが、相手に恥をかかせないのが紳士だと言い聞かされてきた。


 だからそんな台詞をあっさり吐くリュミエールの脳内に半ば呆れ、いくら幼馴染とは言え、そんな人間関係にヒビを入れて粉砕するような発言をしても付き合いをやめないローズマリーの懐の深さを称賛する。もっとも、それだけ彼女が世間ずれしているとも取れるわけだが。


 あるいは、婚約者であることを忘れるくらい存在が当たり前の幼馴染に対して、人並み以上の好意を抱いている…ということも考えられるが…。


「もういっそ面白みのない布で十分だわ…このドレス一着売ったらロマンス小説が何冊買えるのか…」


 淑女にあるまじき発言だが、フェリクスをオタクだと思っているローズマリーは平気でそんなことを言う。だが、すぐに顔色を変えてフェリクスたちのほうを振り向いた。


「あの、いえ、そういう意味じゃないんです!ロマンス小説っていうのは、あの、あれです!知り合いがそういうのを好きで…」


 急に慌てて弁明しだすので、フェリクスもノヴァも不思議に思いローズマリーを見た。しかしすぐに、彼女がクロードの存在を気にしていると気づく。彼女はクロードをチラチラ見ていたのだ。


 そういえば、クロードはローズマリーのことを隠れオタクだと知ってることを、フェリクスはまだ彼女に言っていなかった。と同時に「いくら執事とはいえ勝手にローズマリーの秘密を教えた」という問題が浮上した。


 だからフェリクスは咄嗟に口ごもる。クロードはオタクに偏見はない。が、だからいくら大丈夫と言っても、そもそも彼女はオタクでない人間にオタク趣味を知られたくないわけで…。


 フェリクスはどうしようかと考えあぐね、そして言った。


「大丈夫ですよローズマリー。彼もオタクですから」


 にっこりと、相手を安心させるように穏やかな笑顔を作って言い放った。自分のときと全く同じ手段に我ながら芸がないと思ったが、これが一番最善の回答…というか、もうこう言う以外に思いつかなかったのだ。


 オタクバレしたくない人間がオタクバレしたとき、どんな行動が最善なのか。おそらく永遠に分からない気がした。


「………」


 フェリクスに突如としてオタクにされたクロードは、珍しく返事もせず押し黙る。


「……だよね?クロード」


 しかしフェリクスが押し黙る執事にとどめの一言を発すると、彼は一回まばたきをして静かに「はい」と言った。


「そ、そうだったんですか!」

「最初は違ったんだけど、僕の話に付き合ってるうちにどうも触発されたらしくてね…」

「そ、そうか…貴族ともなると、執事がオタク話に付き合ってくれてオタクに目覚めることもあるのね…」


 ローズマリーは頬に手を当てて「私も執事ほしい…」と、感心したようにため息をつく。ひとまずこれでローズマリーのプライドは保たれただろう。クロードのなにか言いたげな視線を背中越しに感じたがフェリクスはそれを無視した。


「へー…あんたもオタクだったんだー…」


 ノヴァが「ふーん」とか「ほー」とか、間延びした声で言いながらクロードをじろじろ見る。明らかに怪しんでいる様子だった。クロードはそれには返事をせず、何を思ったかドレス選びを躊躇しているローズマリーに一歩近づく。


「お嬢様、こちらのドレスはいかがですか。レヴァンテン王が女騎士に送ったブローチとよく似たデザインのものがセットなのですよ」

「え?」

「こちらの淡いブルーのドレスは、竜騎士アルスたち騎士団の制服と袖のデザインが一緒で、ドレスの色はマントによく似たものだとか…」

「あぁ!言われてみれば!」

「これもいかがでしょうか。このコーラルピンクのシフォンドレスは…」

「妖精王のお姫様のアレね!確かによく似てるわ!」

「そうでございます」


 フェリクスとノヴァが「何言ってるんだこいつ」と内心思っている横で、クロードは意味不明な説明とともにドレスを見せ、ローズマリーはそのたびに妙な声を発して喜ぶ。


 戸惑うフェリクスたちの心情を察してか、クロードは振り向いて短く言った。


「モチーフです」


 そう、この有能な執事はローズマリーが選びやすいよう、彼女が好きな本に登場する人物が身につけているものや、それらを彷彿とさせるドレスを選んできたのだ。いわゆる「モチーフドレス」として。


「クロード様も竜騎士の本を読んだのですか?」

「様はいりません」

「クロード…さんも読んだのですか?」

「はい。3巻の騎士団選抜試験のくだりが好きで、10回読みました」

「あーやっぱり!私も!私もそのあたりすっごい好きです!」


 フェリクスをよそに、2人の話は盛り上がる。


「落ちこぼれのアルスが伝説の槍を見つけるシーンすっごい好きなんです私!」

「わかります。その槍に頼らず試験を勝ち抜いてみせると誓うシーンと、それを陰ながら見て去っていくアルスの親友の立ち位置もいいですよね」

「そう、そうなんです!アルスが努力していることを知っている親友と、天才の親友に追いつこうとするアルスの関係がまた…」

「自分にない相手の良さを認めあっている感じですね」

「それー!」


 話題はかなり、盛り上がっている。

 ローズマリーの目は輝き、頬は紅潮し、非常に生き生きしていた。思わず敬語を使うことすら忘れてしまうほどに。


 クロードはオタクではない…はずだ。なのに彼女の会話にさらっとついていく。フェリクスと同じようにオタクではないのに、フェリクス以上にオタクの会話を成立させている。


「へー…本当にオタクだったんだ。何言ってるのかさっぱり分かんない」


 ノヴァがそろそろ飽きたような雰囲気を醸し出しつつ呟く。フェリクスは思う。自分もちょっと2人の会話が分からない、と…。


「ローズ、そろそろ決まった?」

「ちょっと待って!こっちもいいけど…あーでも女騎士のブローチも捨てがたい…」


 ノヴァがローズマリーに近づくと、クロードは入れ替わるようにその場を離れる。


「…クロード」

「はい」

「………いや、別に」


 フェリクスによって強制的にオタクにされてしまった執事が、あっさりその場を切り抜けローズマリーとオタク談義に花を咲かせる。本来なら「よくやった」と褒めるべきなのだろう。


 が、フェリクスはこの同い年の無口で無表情で何を考えているかわからない執事を素直に褒められなかった。


「ねぇノヴァ、当日は入り口まででいいから、ついてきてくれない?」

「えーやだよ…」

「お願い!貴族がいっぱいなんて緊張で死ぬ!」

「じゃあ行かなきゃいいのに…」

「聖地巡礼がしたいのよ!分かる!?一生に一度とないこのチャンス!」

「わかんねー…」


 フェリクスが執事に対して微妙に葛藤している間に、ローズマリーとノヴァの会話はパーティー当日の話になっていた。


「あいつにエスコートしてもらえば大丈夫だよ…」

「人のドレスを布とか言う男にエスコートされて大丈夫だと思うの…?」

「ガンバレ」

「しかも絶対美しいものとか見つけたらドン引きされるような行動取るわよ…」


 ローズマリーは「お願い!」と懇願し、ノヴァは「やだ」とにべもなく断って逃げようとする。そんなノヴァの腰に抱きつくようにしがみつき、ローズマリーは更に頼み込んでいる。その様子を見てフェリクスはノヴァに対して得体の知れない妙な感覚を覚える。


「どうかされましたか、フェリクス様」


 クロードが彼の様子を敏感に察知したのか、耳元で2人に聞こえないよう小声で問う。


「…いや、なんでもない」

「…もしかして、羨ましいのですか?」


 思いがけない言葉にフェリクスは咄嗟に振り返り「はぁ?誰が何を羨ましいって?」と、執事を問い詰めようとした。が、ローズマリーたちがいることを思い出して己を落ち着かせる。


「…どういう意味かな?」


 羨ましい―…。この執事は何を見てフェリクスが羨ましがったと考えたのだ。フェリクスは目の前にあるものを見渡すが、そこにあるのは大量のドレスと、ローズマリーとノヴァだけだ。


「抱きつく相手が違う男性で、残念ですね」


 ボソっと、フェリクスにすら聞こえるかどうかの音量でクロードは独り言のように呟く。この執事がそんなふうに言葉を発するとき、それは決まって自分の意見を述べているときだ。


「…勘違いだ」


 フェリクスが笑顔で彼に圧力をかけると、彼は無言で一歩下がった。謝罪がない。つまり自分の発言は間違っていないと思っている態度だ。


(羨ましい?ローズマリーにしがみつかれ懇願されているノヴァが?)


 そんなわけがない、とフェリクスは執事の言葉を否定する。そんなやりとりをこちらがしている一方で、向こうの幼馴染2人は謎の攻防戦を繰り広げている。


 相手が幼馴染だろうがなんだろうが、年頃の女性が人前で男性に抱きつくなんてみっともない。それが一般的な感覚だ。それを平気でやってのける淑女とはかけ離れたローズマリーの行動。


 そして家柄的に紳士として振る舞うのが一般的なのに、着ている服も見栄を張るつもりがない適当なもので、さらに寝癖のついた髪や締まりのない顔、眠くてダルそうな喋り方で二言目には骨ばかりのノヴァ。


 どちらもフェリクスの周囲にはいないタイプだ。だからそんな自由さが目新しく新鮮で、少し羨ましく映ったのだ…ということで己を納得させた。


「ていうか、リュミエールの婚約者って皆に知られるけど、それはいいの?」

「いいけど、なんで?」

「目立つの嫌なんでしょ?」

「それとなんの関係があるの?」


 ノヴァにしがみついたローズマリーは彼を見上げて言う。ノヴァはしばらく黙っていたが、唐突にフェリクスたちを見る。


「こういうのって、一度痛い目を見ないと分かんないのかな…?」


 こういうの…とノヴァはローズマリーを指差す。


「…さぁ」


 フェリクスはノヴァの言わんとすることを理解したが、曖昧に返答する。どうもローズマリーはあの農民から貴族の称号を勝ち取ったリュミエール子爵のことを「とんでもない変人」で、だから周囲から煙たがられてたいした存在感はないと思っている。幼馴染ゆえ、貴族としてのリュミエールを知らないからだろう。


 だが、先日リュミエール子爵に会ったあとフェリクスが彼を調べた範囲では貴族として普通に振る舞っているようだった。少なくともドン引きされるような情報はなかった。仮にそのような行動があったとしても「農民から貴族」という肩書と、あの美貌を持ち合わせている男を社交界が放っておくわけがない。


 社交界は常に話題と利益を欲している。そして希少価値が高いものにはいろいろな意味で容赦はない。


 ローズマリーがリュミエール子爵の婚約者だと知れたら、彼女はさぞ大変な思いをするだろう…ということをノヴァは懸念しているのだ。しかしフェリクスは、先日あの子爵と話した様子から「そのあたりのことはうまくやる男だ」と感じている。ローズマリーやノヴァが知らない一面をあの男は持っているのだ。


 だからフェリクスには、あの男が社交界でどのように注目を浴びるかが目に浮かんだ。きっと公爵夫妻のパーティーはかなりの騒ぎになるだろう。


 一応、社交界で常に人目を引く有名人のフェリクスからしたら、注目をさらってくれれば落ち着いて聖地巡礼が出来るので有り難いことだが。


(むしろ成り上がりで派手な人間は、引き立て役にもなるしな…)


 いつの時代も実力で貴族の地位を勝ち取った人物の登場は、すでにいる貴族の立場を揺るがしてきた。だが四大貴族の称号が与えられているフェリクスにはあまり関係がない。むしろそんなものに一喜一憂する必要がない、という余裕で品位を示せるのだ。


 幸いフェリクスは家柄だけでなく見た目も非常に恵まれていた。リュミエールは確かに美しい男で、あえて比較すればフェリクスは劣るだろう。が、こちらには何百年と続く貴族の風格がある。決して負けはしない。


(…いや、なんで勝ち負けを気にしてるんだ。それよりどうやって聖地巡礼とやらを実行するかが問題だ)


 着たいドレスが決まったのか、青くてフリルの付いた控えめなドレスを手にしてローズマリーが「どうよこれ!」とノヴァに対して意気込む。何かのモチーフらしく必死にそれを語っているが、あの調子で聖地巡礼の際に場所について語られたらと思うと…。


「フェリクス様。そろそろあの話題に即座についていけませんと」


 クロードが2人に聞こえないよう小声でフェリクスに忠告する。


「…分かっている」


 オタクでないこの執事にはできている。ならフェリクスにだって努力でできるはずだ。しかし成り上がりの貴族に負けない自信はあっても、オタク趣味に臨機応変に対応できる自信はまるでなかった。

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