第5話 覚めた朝

AM11:53。目覚ましの鳴る前に目が覚めた。

昨日はあんなにうじうじ悩んでいたのに、何だかとても気分が良い。「自分に嘘をついているのでは?」と考えてみたが、如何やらそうではないらしい。ラララと口遊みながら、たまごを二つ、フライパンの上に鉛直落下させた。ジュッっ、という音と共に目覚まし時計が十二時をお知らせしてきた。止め忘れた目覚ましにびっくりした時ほど、がっかりすることはないのかもしれない。もそもそと動いて止めに行き、目玉焼き作りを再開した。


本日向かう地域は特に人のいない所である。仕事をされている方が少ないので、この地域の見回りはいつもよりニ〜三時間早い時間に行っている。初期に空き家登録を開始した地域であり、きっと近いうちに人のいない町になる。寂しいなと思う。テレビをつけて時間を確認し、ニ時に家を出ることに決めた。


見回りの地域に着いたのは、三時過ぎだった。最近陽が出ている時間がどんどん長くなってきていて、この時間帯はとても暑い。「もう少し遅くればよかった」と、いつも思うが、住民の方に迷惑がかかるので、それはできない。見回る軒数は九十軒ほどである。足元に短く濃い影と、汗水を垂らしながら、淡々と歩き回った。残り十軒となったところで、地域で唯一営業している商店に足を運んだ。ゴウンゴウンと音のなっている古いアイスケースの中を覗いていると、「あら、野久保さんじゃない、一ヶ月ぶりぐらいかしら?」と、奥から店主のおばあちゃんが出てきた。昔は夫婦でこの山田商店を営んでいたが、今は一人で切り盛りしている。

「山田さんこんにちは、最近調子はどうですか?」

「どうもこうも、特に変わったことはないわね、人が全っ然来なくて暇で暇で仕方ないわ。ところでさっきからジーと眺めてたけど、今日はどれ買うの?」

「うーん、どうしようかな。山田さんの洋服が赤いので、このイチゴのやつにします。」

「毎度ありがとね」

「では、またお伺いしますね。」

当たり障りのない会話をして、僕は店を出た。夕方五時のお知らせがラストスパートのゴングを鳴らした。果汁1%の安心する味のいちごアイスを片手に、残りの家を訪問して回った。


帰りは昨日の宣言通り、ギター少女の家の前を通って帰ったが、今日はなんの音も聞こえなかった。昨日買い忘れたものを買いにスーパーに寄ることにした。安くなっている野菜、鶏肉、牛乳、卵等々を買ってスーパーを出た。「明日は土日、何しようかな」何てことを考えながら紺色の空を見上げ、帰路についた。


続く

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