第4話 湯気の向こう

 結局誰にも、一連の出来事を連絡しないまま帰路についた。空き家でギターを弾いていたと思われる少女のことが、頭の中をぐるぐると巡る。どうやら現在、脳はシャッフル再生を受け付けてくれないらしい。おかげで、家に着くまで帰りに買い物をする予定であったことをすっかり忘れていた。近所のスーパーまでは自転車で5分ほどだが、なんだか家を出る気にもなれなかった。いつもは帰ってすぐに2時間ほど仮眠した後、夜の時間を過ごすのだが、眠れそうになかったので、ギター少女のことについて考えてみることにした。


「少女は裏のお家の人で、見た目は中学生か高校生ぐらいだった。家がとても立派なので、ある程度裕福な生活をしていると思われる。ギターの音が聞こえたのは、午後六時十二分。えーとあと髪型はショート、いやあの長さはボブって言うんだっけ。いやどうでもいいな。」

わかっていることを、ボソボソと口に出して箇条書きにしてみたものの、大した情報がないなと思った。しかし、少女がなぜあの空き家で、ギターを弾いていたのかがどうしても気になる。気になって仕方がないが、どうしようもないので、気を紛らわすために僕もギターを弾くことにした。好きな曲をシャッフルで適当に弾いていく。ギターを弾いている時だけは、いろんなことを忘れられる。気づけば一時間近く経っていた。頭の中の霧が少し晴れて、お腹が空いていたことに気づいた。僕は冷蔵庫の前に立ち扉に手をかけたが、すぐに手を離した。今日は料理をしたくない気分である。やかんでお湯を沸かし、カップ麺にお湯を注いだ。出来上がりを待ちきれなかったため、少し固い麺を食べながら、ぼーっとテレビを見た。また頭の片隅にギター少女のことが浮かぶ。そして僕は思った、「あの少女も何か悩みを抱えているのかもしれない。」と。明日、歩いて回る地域は今日とは別のところだが、しばらくの間、帰りにあの空き家の近くへ寄ることに決めた。決めた途端に、今度は眠たくなった。軽くシャワーを浴び、歯を磨き、昼の十二時に目覚ましをセットし、僕は眠りについた。


続く

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