第3話 シーソー心理

 空き家登録した家からギターの音が聞こえるなんてそんなバカな、と思いつつ途切れてしまった弦を紡ぐように、耳を澄ましながらその音の鳴る方へ向かった。十数秒後、家の前に着いた。やはり空き家登録をした家から、音は流れ出ている。近くの住民は不思議に思わなかったのだろうか、と思ったがその空き家周りを見渡して納得した。裏のお家は防音バッチリの豪華な家で、片隣は空き地、もう一方の隣は耳の遠くなったおじいさんが住んでいる家だ。確かに気づかれにくい。一体どんなやつがギターを弾いているのだろうか?、もしかしてこれは僕だけに聞こえているみたいなやつで、幽霊の仕業なのだろうか?、といったことが頭をぐるぐると駆けまわる。僕は、ギターのBPMに合わせて玄関扉を4回ノックし、「こちらは、湯良野市役所です。どなたか、おられますでしょうか?」と尋ねた。


 ガタガタっ、と音がした。やはり中に誰かいたようである。家の中に入るわけには、いかないのでどうしようかと考えていたら、すっかり物音はしなくなってしまった。考えている間、扉の開く音もしたし、雑草が揺れる音もした。どうやら逃げられてしまったようだ。それもそうである。馬鹿正直に役所の者です、と伝えて「あら、どうされました?」なんて言って気さくなおばさんが出てくるはずがない。いやはや一体、誰がいたのだろうか。どうやって逃げたのだろうか。少しでも手がかりを掴むために、隣の空き地へ行ってみることにした。


 空き地側から塀に少し足をかけると、家の中の様子が少し見えた。そこにはギターが横たわっていた。ギターを置いたままなら確かに逃げやすい。次に空き家の裏手をのぞいてみた。そこには生い茂った雑草と、積み上がったプラスチックのビールケースがあった。なるほど、裏の家に逃げたのか。これはまずいな、市役所と警察に連絡しないと、と思いポケットに手を入れて携帯を取り出した時、空き家の裏の家の二階に、灯りがついたのが見えた。女の子がキョロキョロと心配そうな顔で辺りを見渡している。ボーッと見ていたら、女の子と目があった。そしてカーテンが閉まった。僕は、携帯をそっとポケットにしまい、「これは連絡するべきなのかなぁ、まいったなぁ…」と、空き地の塀にもたれかけて呟いた。


続く

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る