第2話 何処かしらから音がする

僕のお仕事はこの湯良野市を歩いて回り、夕方になっても明かりの灯っていない、人がいなさそうな家を見つけ次第、本部へと連絡をする、といったものである。こんな言い方をすると「泥棒か?」などと、誤解を招いてしまったかもしれない。一風変わった仕事であるが、れっきとした公務員の仕事である。というのも、この湯良野市では近年急減に空き家が増えており、役所で把握しておかないと、老朽化や異臭などが原因で、近隣住民から苦情が殺到してしまうのである。しかし、把握したところで、現在の法制度では取り壊しに対しての手続きが多く、未だ解決したとは言いがたいのが正直なところである。近々、法制度が改定されるという噂もあるが定かではない。全く困ったものではあるが、この現状があるから、僕はなんとか公務員でいられるといっても過言ではない。


僕は、地域まちづくり振興課に所属しており、半年前までは市役所へ赴き、デスクワークを行なっていた。しかし、要領が悪く、おまけに朝が弱いので、毎日遅刻ギリギリの出社であった。それを見かねた上司が、痺れを切らし僕に、見回り勤務を言い渡したのである。言い渡された当初は、「出来の悪いやつ」といった烙印をドンと押されたような気分であったが、今ではすっかり肩も軽くなり、前よりも自分らしく生活できている。市役所では、背だけが高く何もできないので、「でくのくぼ」と呼ばれていたが、今では地域の方からは、玄関扉をノックして回るから「のっくぼさん」なんて呼ばれたりしている。最近子どもたちの中には、「のくぼう」なんて言って慕ってくれる子もいる。嬉しい限りである。そんなことを思いながら、街を歩き、そろそろ帰宅しようかと思い立った時、何処かから蚊の鳴くような大きさのギターの音が聞こえた気がした。「練習中かな、僕も帰ったら、ちょっと弾こうかな」なんて呑気なことを頭に浮かべ、耳を澄ましてフンフンと聴いていたのだが、数秒後、少しおかしなことに気づいたのであった。「このギターの音、ついこないだ、空き家登録した家から鳴ってないか?」


続く


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