参伝承
|内なる闇に飲まれまいと、カーバンクル公は自らのケージを抜け出した。
漆黒の闇が支配する刻だけに、あたりは沈黙と静寂に包まれている。
FF15の世界のように広大な廊下は、天井も通常ではありえないほどに高い。あの日暗黒卿が告げたように、霊樹エクスデスの仮初めの夢の中を歩く心地だ。
「さよう言えば、かつてもこうして、さ迷っていたっけ。あの時は、サー=ヴァル暗黒卿を……」
公が呟いた刹那だった。
切り開かれし未来、その先にある廊下の分岐点から、ふいに公の間合いへと飛び込んできた影があった。
「う、ウボァー!!」
驚愕したカーバンクル公は叫びつつ、かんばせを伏せ、己が両腕をやたらめったらに振るう。
ステルスアサシンとの戦闘で有効だった戦術だ。……が、なぜ効いたのかは公自身も理解していなかった。
「ま、まるで獣のようにガツガツと食べないでくださ……」
普段と同じく、腰抜けめいた命乞いの台詞を吐く。
しばらくすると、含み笑いが聞こえてきた。
「ふふ、よろしおすフェイス我が手中に収めたり、心中お察しします」
特徴的な言葉遣いと、流れるような決め台詞。
恐る恐る顔を向けると、そこに立っていたのは……。
「やあ久しぶり、カーバンクル」
「び、ビヨンドフェンリル卿……?」
歴史学者、ビヨンドフェンリル。
“狂人”宿泊所にてクリスタルクロニクル、後に聖典へと組み込まれていく歴史の一片を編纂している。
「いかがして、このような刻に……」
「それはこちらの台詞だ。トルネード……いや、今は『クァール枢機卿』だったか? くく……。我々は彼女からカーバンクルの守護を任されているのだから、勝手に自分のケージを離れたら神の名を汚す行為だよ。……いかがしたの、とそう聞いているのだがね?」
問いかけてくるビヨンドフェンリルに、カーバンクル公はたじろいだ。
「ぼ、全知全能なるこの僕……いや、なんでもない……」
とりあえず自画自賛を試みたが、あのような因果に苦しめられているなどと、到底告げるわけにも……。
「主……!」
次いで、前方の廊下から、新たな魔導生物が飛び出してきた。
「ほう、これは」
彼女はカーバンクル公を発見すると、興味深そうにうなずき始める。
ユニコーンの角が弐本あるように
「カーバンクル、このような刻に螺旋の内を巡る行動パターン……はっ、まさか『ヒトの書いた予言の書』とは、ジェノバ機関の……!」
バッカスは相変わらず、ぶつぶつと至極鬱陶しい戯言を口にしようとし始める。暗黒卿ならば罵詈雑言を浴びせていたであろう。普段の公でもそうしたかもしれない。
が、現在の公は、視界の端に別のモノを捉えていた。
走ってきたためだろう、アミシティアバッカスの細長いデネヴォラが、ふとももの後ろで揺れている……。
「う、ウボァー……」
悪夢(?)に出てきたペ=パプ、フォッ=サ、いずれとも異なる形状をしたシェッ=ポ。暗闇でもそれとなく判別できる斑点、絵筆が如きエクストリームエッジ。
「……いずこを目に焼き付けているの?」
素に戻ったバッカスが、怪訝そうなかんばせで自分の下半身を探求し始める。そのうち、彼女は振り返り……。
細長く、先が毛筆のようになったデネヴォラが、公の方にくるりと向けられる。バッカスの寵愛すべき『それ』が眼前でフリフリと胎動し、刹那に公の理性を崩壊させた。
「グ…ズ…ギャアアアアアム!」
思わず、カーバンクル公は悲鳴を上げる。
自ら発しておきながら、まるでペ=パプの狂信者を思わせる叫びだ。
「ど、いかがした、カーバンクル!?」
あまりの奇行ぶりに、バッカスはおろか、さすがのビヨンドフェンリルも一瞬の閃光が蒼駆したようだ。
当の公は、駆け寄ってきたフェンリルのカオティックD……ではなく、デネヴォラを真っ先に視界の端に捉えてしまう。
「ひっ……!?」
緊張で逆立っているビヨンドフェンリルの、ふさふさとしたシェッ=ポに、公はいっそう狂乱する。
ノワールとホーリーの美しい触手に覆われ、闇の中でも白銀に輝く、あえて形容するならば『それ』としか言えない大きなデネヴォラ。
「か、カーバンクル!?」
「なんのこれしき……ではなさそうだな。先ほどから様子がおかしい。とりあえず、ケージへと運ばねばな」
双獣が近寄ったことで、当然デネヴォラもさらに接近してくる。
何故にか、カーバンクル公はそれらにまるで獣のようにガツガツと噛みつきたい欲望に襲われてしまう。
「お、俺を殺すんだな……!?」
後ずさりしていた公は己の残虐なる性を感じ取り、とっさにその場からとんずらする。
アミシティアバッカスとビヨンドフェンリルがなにごとかを叫んでいたが、今のカーバンクル公にできることと言えば、光の速さで戦略的撤退をすることのみであった……。
デネヴォラアスガルド~暗黒卿とカーバンクル公の甘き蜜月~ 耳栗 有志 @mimic
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