母さん、装備治すよ詐欺にご注意ください!

ちびまるフォイ

そんな装備で大丈夫か?

「やや、やややや!!」


「な、なんですか?」


「勇者さん、もしかしてその剣を使って長いのではないですか?」


「まあ……そうですね」


「そうでしょう? 実は私、流れの鍛冶職人をしていましてね。

 どうしてもあなたの剣を治したいと思っているんですよ」


「なにか問題でもあるんですか?」


「問題だらけですよ! 素人目には見えないかもしれませんが

 その剣は今まで魔物の血をすいすぎたために魔剣となり

 のちに勇者さんを襲ってしま――」


「いや、俺は勇者なんで鈍いとか平気なんで」


「襲ってしまうことはないかもしれませんが、

 だいぶその剣は内側にヒビが入っていて今にも壊れそうです!」


勇者は手に持っている剣をまじまじと見た。


「そうは見えませんけど……」


「内側ですからね。しかし、私のような専門家にはわかるのです。

 ちょっとそこの草を切ってみてください」


「えい」


ズバッ。


「ほら! わかりますか! 今の音、音ですよ!

 内側にガタがきている剣だとこのような音が鳴るんです!!」


「えーっと……」


「いいんですか、勇者さん。もしこの先もっと大物を前にして

 激戦のさなかにぽっきり剣が折れてしまうようなことがあっても!」


「そ、それは……」


「備えあれば憂い無し、ですよ。

 ここはひとつ、私にその剣を直させてもらえませんか!」


「まあ、それなら……お願いします」


勇者はしぶしぶと剣を渡そうとしたとき、鍛冶師は目をギラつかせた。


「やや? ややややや!!」


「今度はなんですか?」


「その防具ですよ! だいぶ傷んでいますね!

 ええ、わかります。私にはわかりますとも!!」


「この防具はさっき身につけたばかりの新しいやつですよ?」


「あーーっと! あーーっと!! ここに虫食いの卵が!!」


鍛冶師は勇者の目を盗んで装備虫の卵を防具にぶつけた。


「勇者さん、ここを見てください! ほら卵があるでしょう!?

 これはね装備虫といって気づかぬうちに防具を侵食するんです」


「取っちゃえばいいんじゃないですか?」


「ダメですよ! こうして卵を産み付けられているということは、

 すでにこの防具は巣となっているんです! 治しましょう!

 私ならたちどころにこの防具を元の状態に治せますよ!」


「いや、でも……」


「いいんですか!? 相手の攻撃を受け止めるはずの防具が

 肝心の戦闘の場面になってボロボロになっても!!

 今は問題ないかもしれませんが、いつ壊れるかわからないんですよ!」


「だったら予備を持っていくんで……」


「そんなのに着替える時間がありますか!?」


「わ、わかりました。お願いします……」

「素晴らしい選択です」


鍛冶師はにこやかな笑顔に戻って何やら計算をはじめる。


「武器と防具の修繕をあわせて……これくらいの金額になりますね」


「いっ、1億……!? 高くないですか!?」


「なにを言っているんですか。命あってのものじゃないですか。

 お金で心配が払拭できるなら安いもんでしょう?」


「し、しかし……」


「ココでケチった結果、大事な局面で命を失っていいんですか!?」


「わかります! それはわかりますけど!!

 そもそも1億も持ってないんですよ」


「でしたら半額の5000万でけっこうですよ?」

「さっきの価格設定は!?」


「我々も鬼ではありませんから。

 あくまでも勇者さんの装備を整えて全力でバックアップしたい。

 お金ではなく気持ちの問題なのです」


「はぁ……」


「では5000万を」




「やっぱりいいです」


「は?!」


勇者の理に鍛冶師は大きく目を見開いた。


「この武器と防具を治すのに5000万使うのであれば、 

 そもそも新しいものを揃えますし」


「いやぁ、使い慣れたもののほうが良いでしょう?」


「だいたいどれも同じようなものです。

 むしろ新しいもののほうが信用できますしね」


「ぐ、ぐぬぬ……」


鍛冶師は歯をぎりぎりと噛み締めた。


「でしたら、実はあなたにだけ特別なプランをご紹介します!!」


「プラン?」


「実は私が治した武器と防具のモニターになってもらいたいんです。

 モニターとして装備を着て、治され具合などを1ヶ月おきに答えていただくだけで、


 なんと!!


 支払った5000万がキャッシュバックされます! 実質0です!」



「いいんですか?」


「金額の問題ではないのです! 勇者さん、もう断る理由はないでしょう!?」


「しかし……」

「さぁ!」


「新しい装備も……」

「さぁさぁ!!」


「わかりました。それじゃ防具もお願いします」


「かしこまりました!!!」


鍛冶師は嬉しそうにガッツポーズをした。


「それじゃ装備を治す前に契約書をくれませんか?」


「契約書?」


「いや、どこの鍛冶屋産でも装備の強化するときには

 成功と失敗の場合をそなえて加工契約書を交換するじゃないですか」


「あ、ああーー……」


鍛冶師はキョロキョロと目線をそらす。


「契約書は?」


「あーー……うちにはそういうのないんですよ」


「ないの!?」


「契約書があると書類の手続きで時間が掛かるでしょう?

 だからあえて契約書を使わない契約により

 お客様をすぐに助けられるようなスピード重視で進めています」


「そ、そうなんですね……聞いたこと無いけど」

「そうなのです!」


「クーリングオフとかはできますか?」

「できません。そういうのじゃないので」


「出来に満足しなかったら?」

「それはお客様個人の問題です」


「し、心配だなぁ……」


「勇者さん、装備と防具を預けるのは心配かもしれません。

 ですが安心してください。必ず治してお返ししますよ」


鍛冶師は武器と防具を受け取った。

心の中では勇者に舌を出してバカにしていた。


(まんまと騙されたようだな。

 こっちは5000万さえ手に入ればトンズラよ。

 ちょっと専門的なことを言って不安にさせれば金を出すなんて

 ボンボン生まれの勇者はやっぱり頭がお花畑だぜ)


鍛冶師はほくそ笑みながら去っていった。





その後、鍛冶師は勇者を見つけるなり怒鳴った。


「おい!! この武器と防具を触ったら、

 体が離れなくなったぞ!! こんなものいるか!!」



「呪いの装備はだいたいそうなります」


勇者はクーリングオフをさわやかに断った。

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