4-1 挙り芽吹く

剣越けんえつ道。

 三年前から着工された御剣と越後を最短で繋ぐ道で、車の行き来を想定されているため、最新の技術によって滑らかに舗装されているのが特徴である。御剣と越後間と並行するように逢辻山脈がそびえており、景観として申し分がない。加え、越後方面では温泉が噴き出しており、旅館が多く点在している。

 多々羅隧道トンネル。剣越道を遮るように鎮座している多々羅山に設けられる隧道トンネルである。日ノ本国内において、最大規模の隧道であり、二百人を超える人員によって掘削が行われた。

 法正二十二年五月二十二日、事故は起こった。

 掘削のため用いていた魔術具が誤作動を起こし、爆薬に引火、大爆発が発生。地盤が崩壊し、土砂崩れとなった。結果、内部で作業していた作業員二十七名のうち二十二人が死亡。五人が行方不明となった。誤作動の原因は一切不明であり、製造元による調査が入ったが、異常は見受けられなかったという。

 時間からおよそ一か月後、工事は再開された。が、現場では奇妙な現象が多数報告されるようになる。

 其の一、度重なる魔術具の不調。

 其の二、人魂の目撃談。

 其の三、謎の人影。

 以上の事柄が多発し、現場では事故で亡くなった者たちの魂が漂っており、恐ろしくて作業ができないという人が頻出した。



「……それで、自分たちの仕事、と」


 第六十六魔導官署の署長室で、資料が手渡される。所々読めない漢字もあるが、大方の内容は理解できた。これも華也のおかげだろう。


「ああ、本来ならこんな心霊関連は俺らの管轄じゃねえんだが、調査に赴いた観測員の報告によると、周囲の魔力が以上に増幅していたそうだ。原因は一切不明だ」


 雲雀は指令書を乱暴に放り投げる。


「鏡美、筑紫、今回の任務はお前らに行ってもらう」


「はい!」


「承りましてよ」


 華也はお手本のような敬礼をし、綴歌は胸を張ってみせる。


「それと、六之介、お前はどうする?」


「え」


「命令されるのは嫌なんだろう? 行くか行かないか、決めな」


 どうするべきか、返答に悩む。確かに、自分は命令には従いたくないと言った。これは本心である。そして雲雀はそれに対して、当たり前だと、自分で決めて行動しろと言った。

 華也の方を見る。彼女の目はいつも通り、優しげで真っ直ぐだった。それがまぶしく見えた。綴歌の方を見る。彼女の目は燃えており、任務への決意が感じられた。


「……分かりました。行きます」


 雲雀は満足そうに頷く。


「班長は筑紫だ。多々羅隧道を調査し、魔力増加の原因と異常現象の因果関係を明らかにせよ」


「了解!」


 三人の声が重なった。

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