第31話 神社

「中に入らなくて良かったんだと思います」

 Aさんの体験だそうだ。



 ある山の麓に神社がある。そこがAさんの散歩コースの、折り返し地点となっている。

 定期的に誰かの手によって掃除がされているであろうその神社は、その綺麗さの反面、気味の悪さを感じさせるほど無音だった。


 秋も終わり頃だった。

 その日は丁度することもない、暇な日だった。散歩コースも遠回りを重ね、いつも行かないような裏道まで歩き回っていた。

 神社まで来ると、今日は境内に入ろうかと迷った。しかし、その日はなんとなく嫌な感じがして神社の周りを一周して帰ることにした。

 神社を一周する道は緩い勾配になっていて、奥に行くほど標高が高くなっている。必然的に、神社を見下ろせるようになる。

 ん?

 時期は晩秋である。落ち葉によって境内は秋の色に染まっているはずだ。現に、自分の足元には踏みしめられた落ち葉がくしゃくしゃになっている。

 柵の内側。神社を囲う柵の内側だけ、不自然に落ち葉が取り除かれているのである。そこ以外は掃除された形跡が無いのにも関わらず、そこだけは入念に落ち葉を避けてある。

 


「女性がいたんですよ」

 Aさんはそう答えた。

「境内から外に出ようとしてるんですかね。柵の内側をぐるぐる歩き続けているんですよ」

「僕と目が合うとね、柵を掴んでこちらをジッと見上げてきました。比喩じゃなく真っ黒な両目でしたよ」


「幽霊ってのは、目がなくて足があるんですかね。と云うかあれは幽霊なんですかね? 人なんですかね?どちらにしても気味が悪いですよ」

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