第20話 くち

 カラオケの帰り道。私を含めた男性二人と女性一人で、川沿いを歩いていたときの話です。男性の方をA、女性の方をBとしますね。


 私、帰る途中で

「帰り、スーパー寄りたいから次の曲がり角を右に行くわ」


 そう言って、AとBから離れたんです。


 後日、Aから

「気ぃ使ってくれてわりいな。お前、俺がBちゃんのこと好きなの知ってたんだな」

 って電話が来たんですよ。


 勿論知っていましたが、そんな優しさで二人きりにしてあげるほど私はお人好しじゃありません。


「ありがとうな! お陰で上手くいったよ」


 そんなことを言われたっきり、あの二人には会えてないんですよ。

 実はあの時、道の向こうに無数の黒い口が見えて逃げ出しただけなんです。川に誘っているようにも見えましたけど。


 え? ああ、実はそこが気になってたんです。そうです。最後に聞こえた「ありがとうな! お陰で上手くいったよ」ってのはAの声じゃなかった気がしますね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る