えぴそーど4  ちひろ  いん  わんだーらんど ぱーとわん

「ちひろ、でーと、しよ?」

学校から帰る途中、鈴瀬さんに唐突に言われた。

「でーとって、あのデート?逢い引きって意味の?」

「やー、そのでーと・・・」

そういって鈴瀬さんは僕の方を「もじもじ」と少し照れくさそうにしながら横目に見てくる。普段あまり見せない仕草だ。愛らしい。

(鈴瀬さん・・・「彼女」とのデートかあ・・・ずっと憧れていたけれど、いざ言葉にされると恥ずかしいな・・・)

僕は自分の体が「ぽわー」っと暖かくなるのを感じて恥ずかしさから思わず目を伏せる。

「・・・いや、だった?」

そんな僕の様子を見た鈴瀬さんが不安そうに僕の様子を伺ってくる。

「いやじゃないよ!むしろその逆というか・・・嬉しさと恥ずかしさが入り混じったといいますか・・・」

慌てて僕は鈴瀬さんの言葉を否定して興奮しているせいでまだまとまっていない自分の気持ちを口にする。

「うれしい・・・ならよかった・・・ゆうきをだしてさそってよかった・・・」

僕の言葉を聞いて心底嬉しそうにする鈴瀬さん。思わずこっちまで笑顔になってくる。

(そうだよ。鈴瀬さんがせっかくさそってくれたんだ。まがいなりにも僕は鈴瀬さんの「彼氏」なんだしここは僕の方からも何かアプローチをしないと・・・)

そう思って僕は自分の頭をフル回転させ、何か気の聞いた言葉を探す。

しかし、悲しいかな、今まで「彼女」がいたことのない僕には何も思いつかなかった・・・

「ちひろ・・・?」

突然だまりこんでしまった僕を心配そうに見つめてくる鈴瀬さん。

「大丈夫!なんでもないから!」

「やー、ならよかった。それでね、いくばしょなんだけど、こことかどうかな・・・」

そういって鈴瀬さんはペアチケットを僕の目の前に差し出してくる。

「こ、これ「ディザイヤーランド」通称「Dランド」のチケットじゃん!どうしたの!?」

「やー、「夢と魔法のネズミの国」・・・しりあいのつてをたどってただでゆずってもらった・・・いっしょにいこ?」

「も、もちろんだよ!でも本当にもらっちゃっていいの?」

「いい・・・ちひろといっしょにいきたいから・・・」

そういって鈴瀬さんは僕の手を握ってチケットを一枚渡してくる。

(あっ・・・鈴瀬さんの手、さらさらしてて気持ちいい・・・)

危うく口から出そうになった言葉を慌てて飲み込み心の中で呟く僕。

「ちひろ?」

「あっ、ううんなんでもないよ本当に!そ、それでいつ行こうか!」

「やー、ちひろさえよければこんしゅうのどようびにいきたい・・・」

「ええっと今週の土曜日は・・・うん。何もないから大丈夫!」

「りょうかい・・・それじゃあくわしいじかんとかはまたらいんする・・・どようび、たのしみにしてる。」

そういって鈴瀬さんは小さく笑い僕に別れを告げて駅のホームにかけていく。

(僕もすっごく楽しみだよ、鈴瀬さん。)

つい言いそびれてしまった言葉を心の中でつぶやき僕も帰路につく・・・





「ただいま~」

家につき、いつもと同じように挨拶をする千尋。

「おかえりなさい、お兄ちゃん。」

すると兄より帰っていた妹、ゆずが「待ってました!」と言わんばかりに千尋に抱き着いてくる。

「うわっ。」

「えへ、お兄ちゃんスリスリ~妹のゆずですよスリスリ~」

喜びの感情を爆発させたゆずが千尋の胸に頬をスリスリさせだらしのない笑みを浮かべる。

「ゆず、どうしたの?距離感が近いのはいつものことだけど・・・今日は一段と近いような・・・」

妹に「スリスリ」されて嬉しい反面困惑の表情を浮かべる千尋。

「えへへ、実はですね・・・お兄ちゃんを映画に誘おうと思ってずっと待機してたんです!」

そういってゆずは何故か玄関に正座する。子犬のようである。

「映画?何の?」

「はい、それは・・・こちらの「剣刀乱舞」の実写映画です!」

そういってゆずは満面の笑みで千尋にスマホの画面を見せてくる。

「ああ「剣刀乱舞」か。ゆずが好きなやつだね。実写か・・・」

実写という言葉を聞いて一瞬だけ、けれど確かに千尋の表情がこわばる。

(アニメやゲーム、漫画の実写化って爆死していることが多いって聞くけれど大丈夫かな・・・)

「大丈夫です!この「剣刀乱舞」は舞台化もされていてそこで成果を上げている作品なので実写のクオリティーは折り紙付きです!」

(心の中読まれた!?)

千尋の一瞬の表情の変化を読み取ったんだろう、ゆずが「大丈夫!」と熱弁をふるってくる。普段は兄同様鈍いのにこういう時だけ鋭い。

「そうなんだ・・・なら安心だね・・・でもどうして急に僕を誘ったの?」

千尋はゆずの剣幕に押されながら疑問を口にする。

するとゆずは先ほどまでの勢いを失い急にしおらしくなって「もじもじ」と恥ずかしそうにし始める。

「そっ、それはですね・・・」

「それは?」

「お兄ちゃんと映画に行きたいから!っていうのもあるんですけれど・・・その・・・実は入場時にパンフレットがもらえてですね・・・そのパンフレットを保存用と使う用の2部欲しいからっていうのが本音です・・・」

言いづらそうに頬をかきながら本懐を正直に白状するゆず。兄同様良くも悪くも正直すぎである。

「ああ、そういうことか。わかった、いいよ。それで・・・いつ行くの?」

妹の下心を理解した千尋は詳しい日程をゆずに尋ねる。

(それにしても今日はお誘いが多いな・・・これでラノベとかだったらゆずも今週の土曜日を提案してきて鈴瀬さんとの約束を先に入れたのがばれて追及を受けるっていう展開になったりするんだろうけど・・・まあないよな。)

等と心の中でフラグを立てまくる千尋。そしてまるでそのフラグがたったのを見越したかのようにゆずが・・・

「今週の土曜日とかどうでしょう!善は急げ、です!」

と非常な宣告を告げてくる。見事なフラグ回収である。しかも即回収。一級建築士である。

「こっ、今週の土曜日!?」

妹の言葉に思わず大きな声で驚く千尋。そしてこの先にあるであろう万が一の、最悪の事態を想定してその顔はだんだん青ざめていく・・・

「はい!・・・ん?どうしたんですかお兄ちゃん?顔色が優れないように見えるんですが・・・」

そういって不思議そうに顔を覗きこんで様子をうかがってくるゆず。

「な、なんでもないよ!」

気まずいのだろう。ゆずから明らかに視線を逸らして答える千尋。

(落ち着け!ただゆずと鈴瀬さんのお誘いの日が被っただけじゃないか!別に悪いことは何もしていないんだし堂々としていればいいじゃないか!)

心の中で呟く千尋。しかしその思いとは裏腹にその態度は動揺を隠せていない。

「むっ・・・なんか怪しいですね・・・お兄ちゃん?」

挙動不審な兄に疑惑の目を向ける

「はいっ、なんでしょうかゆずさん!」

動揺しすぎて妹に敬語で答える千尋。少し情けないのである。

「土曜日・・・駄目なんですか?」

「あ、いや、その・・・うっ、うん。実は先約があってその日は駄目なんだ・・・」

ゆずにいつもよりワントーン低い声で尋ねられ正直に白状する千尋。

「先約・・・ですか・・・まあそれなら仕方がないですけれど・・・誰とどこに行くんですか・・・?」

先約が入っていると聞き残念そうに「仕方がない」というゆず。しかし、詳しい事情について追及する。

「だっ、だれって・・・えっと、その、とっ、友達!そう、友達だよっ!友達とネズミの国に言ってくるんだよ!」

千紘のことを隠しとっさに友達と言い張る千尋。それにしても不自然である。

「友達・・・ですか。高校に入って新しくできたんですね・・・学校になじめているようで何よりです・・・」

「何より」という割にはやたら声のトーンが低いゆず。

「そっ、そうだよ!新しく高校に入ってできたんだよっ!」

妹の言葉に乗っかり嘘にうそを重ねる千尋。まあ状況が状況だけに仕方ないと伊庭仕方ないかもしれない。

「わかりました。映画はまた今度の機会にします。御飯ができているので少し早いですが夕食にしましょう。」

そういってゆずは兄に向けていた「じとー」っとした視線を解除して「スタスタ」とリビングに歩いていく・・・

(ふぅ、よかった・・・何とかデートのこと気付かれずに済んだみたいだ・・・いやまあ絶対にばれちゃいけないなんてことはないけど・・・やっぱ初デートだし少し恥ずかしいからね・・・言い方悪いけどゆずが馬鹿で助かったよ・・・)

などと妹に心の中で失礼なことを言いゆずを追いかけリビングに向かう千尋・・・



しかし、千尋はこのときまだ気づいていなかった、妹は兄が思っているよりもずっと賢く鋭いということに・・・そして兄は兄自身が思っている以上に愚かであるということに・・・





夕食を取り終わったゆずは自分の部屋のベットに寝転がりスマホを開きます。

何のためにこんなことをしているかって・・・?それは・・・事情徴収のためです!

先ほどのお兄ちゃんの話ですが、断言出来ます。あれは嘘です!

ゆずが何年妹やってきてると思ってるんですか!14年ですよ14年!14年と7カ月ですよ!気づかないわけないじゃないですか!あんなあからさまな態度を取られて!

・・・いや、お兄ちゃんは本気でゆずが気づいていないと思っているんでしょうね・・・我がお兄ちゃんながら愚かだと思います・・・

えっ、なに?お兄ちゃんの前でのゆずと「きゃら」が違う?

いやそりゃそうですよ・・・千紘さんも言っていましたけれど人間だれしも「きゃらづくり」しているものです。ゆずも例外ではありません・・・というか女の子なんてだいたいこんなもんです・・・女子校通ってるとよくわかります・・・というか千紘さんの話は間違いなく実話をもとにした話ですね・・・言葉一つ一つに妙な説得力がありましたからね・・・

まあそれはそれとして話を戻しますが・・・

そう、お兄ちゃんですよお兄ちゃん!高校で出来た「友達」なんて言っていましたけれどあれは嘘ですよ!嫌だってあきらかに目が泳いでたし何ならかなり挙動不審でした・・・ええ本当に・・・「友達」はおろか「知り合い」すらいないんじゃないんですかね・・・少し心配です・・・

・・・というか中高一貫校に通っていて・・・実質中学4年生でクラスに友達がいないなんてありえるんですかね・・・普通ありえないですよね・・・

まあ、それがありえるかも?ミルク色の異次元~って思えるのがお兄ちゃんの怖いところですね・・・って、ついつい某日常系アニメのオープニングが脳内で再生されてしまいました・・・お兄ちゃんが毎日繰り返し再生しているのを一緒に聞いていたせいですね・・・悔い改めなければ・・・

って、また話がそれましたが要はあれです!ゆずはいまからお兄ちゃんの発言のうらをとってどこまでが本当でどこまでが嘘なのかを確かめたいと思います!

・・・いや、ゆずだってお兄ちゃん・・・もとい他人のプライバシーを侵害したくなんてないんですよ?でもお兄ちゃんがしっかりしていないから・・・ゆずがしっかりしないといけないんですっ!



・・・さっきからゆずはだれに話しているんですかね・・・?



・・・まあいいでしょう。調査を開始します・・・せめてネズミの国に行くぐらいは本当であってほしいですね・・・それも嘘だと悲しくなります・・・

かっ、勘違いしないでください!悲しくなるっていうのはお兄ちゃんがネズミの国に行く妄想をしなきゃならないぐらい非リア充ってことに対してであって、けっして「どれだけゆずと映画行きたくないんですか!」っていうことで悲しくなるって意味じゃありません!

ほっ、本当です!

とっ、とにかく調査を開始します・・・まずは・・・「友達」と行くっていうのが本当なのかを確かめたいと思います。そのためにはお兄ちゃんの唯一の「友達」であろう優さんに確認を取る必要がありますね。

ゆずはスマホの画面を操作して「ライン」を開きます。その中から優さんのアカウントをタップしてトーク画面を開きます。

さて、どんなふうに聞くのがいいですかね?たしか優さんに最後にあったのは去年の年末でしたね・・・旧知の中とはいえ久しぶりに連絡するのは少し緊張しますね・・・

いいえ、ここで立ち止まる訳にはいきません!もし立ち止まってしまったらお兄ちゃんが本当に「先約」があってゆずとのデートに行けなくなったのか分からないままです!もし万が一何も「約束」がなかったとしたら・・・ゆずはお兄ちゃんに嫌われているってことになりますよね・・・うぅ、そんなこと考えただけでも気分が悪くなってきました・・・

・・・ゆず、最近なんかお兄ちゃんに嫌われることしましたかね・・・

最近お兄ちゃんとの間にあったことなんて・・・ゆずがお兄ちゃんの「ぱんつ」を欲しがったり、お兄ちゃんの恥ずかしい話を皆さんにした挙句お風呂をのぞき見してることをうっかり口走りそうになったりしたぐらいですかね・・・

・・・たくさんやってますね!やらかしまくってますね!やらかしすぎて「ぱんつ」云々の話なんか今のいままで忘れていましたよ!

・・・はぁ・・・

いや待ってください落ち着いてください落ち着くんですゆず!まだ口をきいてくれるってことは完全には嫌われてないはずですっ!

・・・これはいつかネットかなんかで見た本当にあった怖い話なんですが・・・


ある兄妹がいてそのお兄ちゃんが自分の書いてるライトノベルのメインヒロインに妹の名前を使ったのをうっかり当の本人である妹に話してしまって、その結果2週間妹がまったく口をきいてくれなくなったって話があるそうです・・・


もしゆずがこのお兄さんの立場でお兄ちゃんが妹の立場だったらと考えて口をきいてもらえなくなったらと想像すると・・・身の毛もよだつ恐ろしい話ですね・・・

ですが裏を返せば、そのぐらいのことをしてしまっても兄妹の間に強い絆があれば2週間口をきいてもらえなくなるぐらいで済むってことです!

そして今のゆずはまだお兄ちゃんと口をきいてもらえてる!ってことは嫌われていると考えるのは早計すぎるでしょう!

ええ、きっとそうです!そうに違いありません!

というわけで話を戻しますが・・・なんでしたっけ・・・ええっとそうです!優さんに確認を取るって話の途中でした!

優さんに確認するためゆずはラインに文章を入力します。

「優さん、お久しぶりです。霞ゆずです。いま少しお時間よろしいですか?」

こんな感じでしょうか?ちょっと固すぎますかね・・・まあ、丁寧なのは悪いことではないですしいいですよね!

ゆずは入力した文章を確認して送信ボタンを押します。

さてと、これであとは返信が来るのを待つだけですね・・・

・・・宿題でもして気長に待ちますか。

そう思いゆずは宿題を開きます。科目は数学です。

むむっ、範囲は二次関数ですか。手強いですね・・・

・・・二次関数の式の中にXとY以外の文字使って複雑にするのやめてくれますかね・・・

なんですかaとかbとか。出題者側の性格の悪さを感じます!

はぁ・・・愚痴をこぼしていても仕方がないので手を動かします。

そして10分ほど経ったところでラインの通知音がなります。もちろん優さんからです。

「こんばんは、ゆずちゃん。久しぶりだね。元気だった?今なら大丈夫だよ。」

優さんから「今なら大丈夫」とお返事を頂けたのでゆずはさっそく本題に入ります。

「あの、実はですね、お兄ちゃんが今週の土曜日「友達」とネズミの国に行くって言っているんですが優さん心当たりありませんか?」

「ネズミの国ってあのディザイヤーランドのことだよね。千尋が行くって?」

「はい、なんでも高校に入ってから出来た「友達」と行くって言っているんですけど・・・

ぶっちゃけるとゆずは嘘だと思うんですよ!」

「それは、どうしてだい?」

「だってお兄ちゃんこの話していたとき明らかに挙動不審でしたし・・・それに何よりコミュ障のお兄ちゃんに二週間そこいらでいっしょにネズミの国に行くような「友達」が出来るとは思えません!」

「あ~確かに言われて見れば千尋昔から人見知りなところあったからね・・・ゆずちゃんもだけれど。」

「うっ、恥ずかしいのでゆずのことは気にしないでください!とっ、とにかく優さんには心当たりがないんですね。」

「うん。あっ、でも心当たりはないけど千尋がゆずちゃんに嘘をつく理由ならわかるかも。」

「理由わかるんですか!そっ、それはなんですか!」

「う、うん。それは・・・」

「それは・・・?」

「ずばり、千尋は「友達」とではなく「女の子」とデートでディザイヤーランドに行くんじゃないかな?」

「!?」

「まあ、あくまで推測だけれどね。でも、それならゆずちゃんに嘘ついたのも恥ずかしいからって理由で説明つくし、それについこの間「彼女」出来たって言ってたし・・・」

「・・・」

「ゆ、ゆずちゃん?」

「そっ、それです!それですよ優さん!ゆずとしたことがすっかり見落としていました!そうですよ!千紘さんですよ!千紘さん!お兄ちゃんは千紘さんと「デート」しにネズミの国に行くんですよ!」

「い、いや、あくまで推測だからね・・・というか千尋、あの女の子と付き合えたんだね。よかったよかった。」

「こうしてはいられません!さっそく事実関係の調査に向かわねば!優さん、いろいろありがとうございました!」

「う、うん。どういたしまして・・・」

優さんにお礼を言ってゆずはトーク画面を閉じます。

そうか、そういうことでしたか!これは一大事です!お兄ちゃんだいすきクラブ緊急会議です。もちろんお兄ちゃん抜きで!

ゆずはこの間お兄ちゃんがトイレに行っている間に皆さんで話あって作った「ちひろだいすきクラブ がーるずさいど」の画面を開きます。

べっ、別にお兄ちゃんを仲間外れにしてるわけではないんですからね!ただ皆でお兄ちゃんの情報や写真を共有しようってことで4人で話あって作っただけであって!ほ、本当なんですからね!

そして皆さんに緊急招集の旨を伝えるためゆずは「皆さん集まってください」と、投稿するのでした・・・





ゆずちゃんとラインを終えて僕、篠崎 優はトーク画面を見返す。

(なんかいろいろゆずちゃんを暴走させるきっかけになること言っちゃった気がするけれど千尋大丈夫かな・・・)

僕は親友、千尋の身を案じて目を閉じる。

(とりあえず、ごめん、千尋。)

今更なかったことにもできないので、親友に心の中で一言謝罪の言葉を述べて僕は眠りにつく・・・





ゆずが集合をかけて一分ほどで千紘さん、紗雪さん、未来ちゃんの三人がライン上に集まってくれました。

・・・集めておいてなんですけど皆さん暇なんですかね?いやまあ、ゆずもですけど。

「それでゆず・・・なんで集合かけたの?」

千紘さんがいつもと変わらない文体でラインしてきます。もっともな質問です。

「よくぞ聞いてくれました千紘さん!ズバリですね、単刀直入にいうと・・・この中で今週の土曜日にお兄ちゃんと「デート」に出かける人がいるんじゃないかと思って詳細を尋ねるために集合をかけました!」

「千尋先輩が休日にデートですか!?」

「それは確かな情報なのかしら霞さん。」

紗雪さんの返信に「はいっ!裏は取れています!」と返信しようとしたとき・・・

「やー、それぼく・・・」

とゆずが返信打つ前に千紘さんから返信がありました。びっくりです!入力速すぎます!

「や、やはり千紘さんでしたか!ぬっ、抜け駆けですか!?」

「やー、抜け駆けも何もぼくは千尋の彼女なんだからデートするのは当たり前といえば当たり前・・・」

「た、確かにそうですね・・・」

千紘さんの正論すぎる意見にゆずは返す言葉をなくします。手強いですね・・・

「でも・・・」

「でも?」

「ぼく達は「ちひろだいすきクラブ」・・・だから千尋のことについてはフェアに勝負したい・・・だから・・・」

「だから・・・?」

「今回の初デート、3人がついて来たいならこっそりついて来てもいい・・・ぼくは何も知らなかったことにするから・・・」

「!?・・・いいだしておいてなんですけどそれって千紘さん達に迷惑かかりませんか?」

「やー、その点については大丈夫・・・3人も他のお客さん同様ギャラリーぐらいの感覚で捉えておくから・・・」

「わかりました・・・千紘さんの言葉に甘えさせてもらいます・・・ゆずはお二人のあとをこっそりつけさせていただきます!」

「やー、それでこそ「ちひろだいすきクラブ」・・・未来と紗雪は・・・?」

「当然、未来も霞さんに同行します♪こんな面白そうな話見逃すわけないじゃないですか♪」

「二人が行くなら私も同行させてもらうわ。カメラを持って行って鈴瀬さんと千尋君の初々しい姿をレンズに収めるわ。後でいい思い出になりそうだから。」

「やー、二人ともよろしく・・・当然千尋には内緒・・・」

「女の子だけの甘い秘密、ですね♪」

「当日が楽しみだわ。」

「み、皆さんよろしくお願いします!」


こうして、千尋の知らないところで「デート」の裏舞台か整うのであった・・・



「土曜日楽しみだなー」

何も知らずにのほほんと土曜日を楽しみにする千尋。



かくして、一同はそれぞれの思惑を胸に波乱の土曜日を迎えるのだった・・・

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