Episode0「追憶」
「約束」。遠い昔の「約束」。いまでも時々夢に見る「約束」。
「あのね、「 」くん、わたし、伝えたいことがあるの!」
元気な少女のこえが聞こえる。場所は・・・幼稚園だろうか。小さな子供たちが楽しそうに遊ぶ姿が浮かび上がる。
「つたえたいこと・・・なに?」
少女とは対照的に眠そうな声で答える少年。
「そ、それは・・・いっ、いまはまだ内緒!」
少年の声に少女は慌てた様子で答える。
「どうしたの、「 」。そんなにあわてて?」
「あ、慌ててなんかないよ!」
「・・・あわててる。ないしょならはじめからいわなければいい。」
遠目に見ても慌ててるのがバレバレな少女と冷静な少年。会話の内容はともかく二人の表情からは、楽しそうな表情からは仲の良さが見て取れる。
「い、言いたいから言ったの!」
「りゆうになってない。」
「べっ別にいいでしょ!とっ、とにかく今は内緒だけどいつか話すの!」
「いつか・・・あしたからなつやすみ。」
少年のもっともな意見に少女は「うぅ」っと言葉を詰まらせ、しかしすぐに「はっ」っと顔を上げるとさも得意げに、
「な、なら「約束」よ「約束」!」
「やくそく・・・?」
指を「びしっ」と少年のほうに向けしてやったりといった表情で話す少女。それに対し少年はいきなりのことに首をかしげる。
「つ、次に会ったとき「 」くんに話すわ。だから「 」くんもその時はちゃんと話を聞いてよね。」
「・・・いつもちゃんときいてる。」
「そっ、そういう意味じゃなくて・・・とにかくそういうことでいい?」
「うん。いいよ。「約束」する。」
そういって少女と少年は「約束」の指切りをする。
そうしているうちに少年の保護者が迎えに来たので少年は幼稚園を後にする。
その別れ際「また今度ね!」という少女の声が聞こえる。少年はそれに無言で手を上げ返事する。
いまはまだ、千尋は思い出せない。かつての彼らに「今度」はなかったことを・・・
慌てる鈴瀬さんの様子を見て僕はなぜかおぼろげな記憶を思い出す。
あの男の子と女の子は誰なんだろう?いや僕の記憶だから男の子のほうは僕だと思うけれど・・・よく思い出せない。まあ幼稚園って十年以上前だろうし当然といえば当然か。
でも何かとても大事なことを見落としている気がする・・・というかなんで慌ててる鈴瀬さんを見てこんなことを思い出しているんだろう僕・・・
などと考えていると鈴瀬さんが僕のほうを向いた。
「それは・・・「約束」・・・だいじなはなしがあるから・・・」
大事な話?なんだろう・・・というか今約束とか聞こえたような・・・?
続けて鈴瀬さんが凛とした表情で僕のほうを向く。僕は思わずドキリとする。心臓の鼓動が速くなる。だってその表情があまりにかわいくて、かっこよくて、魅力的だから。見てはいけない、これ以上見つめたらドキドキしているのがばれてしまう。「好き」だという気持ちが抑えられなくなってしまう。なのに、視線を動かそうとしても動いてくれなくて、まるで魔法がかかったかのように吸い込まれて、釘付けになる。やがてその口が「すぅ」と息を吸い込み「はあっ」と吐きだす。やわらかそうな唇に目を奪われる。そしてその口がひらかれて、
「ちひろ、ぼくの「かれし」になって。」
衝撃的な一言を発する。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます