エピソード1・5  どうしても霞 ゆずは「ソレ」がほしい

「スラッシュブラザース」略して「スラブラ」、それは様々な作品の人気キャラクターたちが一つのゲームに登場し格闘で戦うという超人気ゲームである。

霞兄妹もまたそのプレイヤーであり今の彼らは「兄妹」ではなく「好敵手」である。

「ルールはどうする?」

「まあ普通なら、アイテムありのランダムステージで三機ぐらいで数戦やるのがセオリーですがここはあえて終点のみ、アイテムなしの一機対一機でどうでしょう?」

「アイテムなし終点はともかくとして・・・一機同士っていうのはなんで?」

「そのほうが緊張感がありますしそれに・・・ゆずのお願いのためでもあります!」

「お願い?」

「はい、この対決で勝ったほうは一つだけ、負けたほうになんでも指示できるというものです。」

そういって、ゆずは年相応に膨らんだ胸を張ってくる。

「なるほどね・・・僕がプレッシャーに弱いのを知っていて、少しでも勝ちやすくするためにプレッシャーをかけるには一機対一機が得策というわけだね・・・ってなんでも指示できるって何?初耳なんだけど!」

「お兄ちゃんは別にプレッシャーに弱くはありませんよ。ただしょうもないことでミスするだけで。」

「いや、フォローになってないフォローはいいから質問に答えて!」

「そうですね。いや、せっかくだから何か賭けてやったほうがたのしいかな~なんて・・・べっ、別にやましいことなんて考えていませんよ~」

その割にはゆずは千尋と目を合わせようとしない。

「まあいいけど・・・ただなんでもっていっても可能な範囲内でね。」

「わかっています!勝負です!お兄ちゃん!」

そういってゆずは目を「キラキラ」輝かせながら千尋のほうを向いて言う。

そして千尋とゆずはキャラクター選択をする。

このゲームを語るうえで外せないのはやはりキャラクターである。

選ぶキャラによって必殺技などの性能が違い、ほかのキャラとの相性も存在するので非常に大きく勝敗にかかわる。

(ゆずはこう見えてゲームではテクニックで器用に立ち回るタイプだ。そんな柚子を相手にするんだったらやはりこちらも多くのキャラを見れるキャラがいいだろう。)

ここでの「キャラを見れる」とは大きく相性に左右されないという意味である。

そして千尋が選んだのは世界的人気ゲーム「ポコッとモンスター」略して「ポコモン」からの出演の「ぴかぴかちゅう」略して「ピカチュウ」である。

そしてお互いのキャラクター選択が終わりお互いの選んだキャラを確認すると・・・なんとゆずも「ピカチュウ」を選択していた。

「ゆずも僕と考えることは同じだったんだね。」

「兄妹仲良し、ですね。」

長い試合を予想し身構える千尋となぜか上機嫌なゆず。

「それじゃあ・・・いくよ、ゆず!」

「ピカチュウ、霞 ゆず、参ります!」

お互い口上をいい、「ファイト」の文字とともに試合が始まる。

のだが・・・この兄妹、考えることが同じなのか始まるや否やどちらも飛び道具でけん制をはじめ一向に近づこうとしない。これでは埒があかない。

「どうした、ゆず。リアルではぐいぐい来るのにゲームでは引っ込み思案なのか。かわいいぞ。」

テンションが上がっているのかあるいは素なのかは分からないが恥ずかしいセリフを自然に言い放つ千尋。

「かわいい・・・えへへ・・・じゃなくて、お兄ちゃんこそリアルだけではなくゲームの中でも陰キャですか!」

かわいいといわれだらしない笑みを浮かべながら自分のことを棚に上げ言うゆず。

「陰キャ言うなし!飛び道具でけん制だって立派な戦術だよ!」

「わかっています!だからゆずもやっているんです!」

「だったらなんで陰キャなんていうの!?」

千尋はもっともなことを口にする。

「だってお兄ちゃんが陰キャなのは事実じゃないですか!どうせ教室でもぼっちなんでしょう!それなのに・・・それなのに、デートする女の子はいるとかライトノベルの主人公ですか!」

「いや、僕、彼らほどハイスペックじゃないし。陰キャ系主人公の作品って描写こそ少ないけれどよく見ると一見平凡な主人公が普通にイケメンだったり飛びぬけたものこそなくても全体的にスペック高かったりするんだよね~」

「それお兄ちゃんのことじゃないですか!」

しびれを切らしたゆずが近づいて攻撃を試みながら言う。

「まあ確かに自分でも顔は悪くないと思うけれど、というかいいと思うけれども、ぼくの場合かっこいいというよりかわいいって感じじゃない?」

千尋はゆずの攻撃をさばきながら思ったことを口にする。その言い方、セリフはまるで第三者である。しかし、千尋のセリフである。霞 千尋は良くも悪くも自己評価が高いのである。

「自分で言うのがザ・マイ・ブラザーって感じですね!まあそうですけど。」

「ゆず、ザとマイは同時に使わないよ。」

「わかっていますよ!マジレスしないでください!」

(ていうかあんなにこだわってたのに「お兄ちゃん」って呼び方はどこに行ったんだ・・・それにしてももともとハイテンションなゆずだが今日はいつになくテンションが上がっているな。そんな姿もかわいい。)

相変わらずシスコン全開である。

「だいたいゆずのほうこそどうなの?そのルックスでその性格ならさぞかしモテるでしょ。」

「女子校にクリスマスももバレンタインもないんですよ!」

「あ~そりゃそうか。でも、彼氏持ちの子とかいるだろ?」

「ええ、いますよ。あれなんなんでしょうね・・・爆発すればいいと思います・・・」

ゆずはさっきとは打って変わって底冷えするような表情で答えてくる。

「まあ、ゆずの場合かわいいから男の子が遠慮しちゃうのかもしれないし。元気だして!」

「まあ、ユア シスターですからね。」

かわいいと言ってもらえて上機嫌になったのかにっこりと笑顔のゆずが答える。

「さてどんどんいきましょう!」

テンションが戻ったのかゆずはノリノリである。ちょろいのである。

「それ、負けフラグだよ。」

「強がっていられるのも今のうちです、かわいい妹にいたぶられて快感を感じてしまうお兄ちゃんの姿を見せてください!」

「いや、覚えないから。」

(というかなんでゆずといい未来ちゃんといい僕の周りの年下の女の子は興奮すると「サディスト」になるんだろう・・・いや、未来ちゃんは常にだな・・・まあ二人のそんな姿もかわいいんだけど・・・美少女はいいな~何やってもだいたいのことは「かわいいからいっか」で許されて。)

などと世の中の真理を考えていると・・・

「はああっ・・・」

ゆずが掛け声とともに攻撃をしてくる。が、千尋はすんでのところでガードしてゆずの攻撃のすきをつきコンボをヒットさせる。

「一瞬ボーとしていたのでチャンスかと思いましたが、まさかそれも計算していたとは。誘い受けですね・・・さすがマイ ブラザーです。」

「いや、ほんとにボーとしていただけだけれど・・・」

「ちなみにゆずは攻めるのも好きですが、受けるのも好きなのでいつでも攻めてきてくださいね!」

そういってゆずはすぐに攻撃されない距離まで千尋のキャラと距離を取ると・・・隣でプレイしていた千尋の背中に回り込み、抱き着くような形で柔らかな胸を当ててくる。

瞬間、「ふにゃ~」とした感覚が千尋の背中を襲い対戦の緊張がほぐれる。

「やわらかい・・・じゃなくてゆず、胸当たってる当たってる!」

「当てているんですよ。ゆずのこと、いつ襲ってもいいですからね。」

「ゲームの話だよね!」

「さあどうでしょう?」

ゆずはいたずらっぽい笑みを千尋に向ける。

「とりあえず、お互いやりにくいから離れよう?」

「やる・・・やっとその気になってくれましたか、お兄ちゃん!今すぐ「ぱんつ」を脱ぐので待っていてください!」

「ゲームの話、だよっ!」

そういって千尋はゆずを自分の体からはなす。

「わかりました。戦闘続行ですね。」

お互いに画面に向き直り再び真剣な表情になる。

「スラブラ」の勝利条件は場外に敵のキャラを吹っ飛ばすことである。

攻撃が当たると%がたまりこれが高くなるほど吹っ飛ばされやすくなるというシステムである。

現在、千尋の「ピカチュウ」は100%、ゆずの「ピカチュウ」は120%ほどたまっている。

(あと一撃大きな攻撃を当てることができれば・・・僕の勝ちだ!)

千尋は息を飲み集中してより一層険しい顔つきになる。

一方のゆずは・・・こちらも真剣な表情をしているが、笑っていた。大好きな兄との戦いを心底楽しむように。

(これで、決める!)

千尋はコントローラーを操作し自らの「ピカチュウ」をゆずの「ピカチュウ」に近づける。

「来ましたね・・・」

ゆずは興奮しているのか立ち上がっている。

(ジャンプして一歩後退、そのあとダッシュと見せかけてもう一度ジャンプをして回り込んでスマッシュで吹っ飛ばす!)

千尋は心の中で勝ちへの道筋を思い描き実行するためにゆずの「ピカチュウ」に近づく。

それは一瞬のことだった。

考えていた通りジャンプをすると見せかけて後退する、その時!千尋の目線は「ピカチュウ」の動きにあわせて少し横に動いた。その先には横でプレイしていた立ち上がっているゆずが「ピカチュウ」になりきったかのようにジャンプした姿が見える。

そしてそのとき、それは起きた。ちょうど千尋の目線の高さに来ていたスカートがジャンプに合わせて「ふわり」とめくれた。

(白・・・!)

かなしいかな、千尋は男の子の性でその中身に意識を取られる。そしてその瞬間、たったコンマ数秒、されど、このゲームにとって大きすぎる時間、千尋の手はとまり・・・その隙にゆずに裏を取られ、千尋の「ピカチュウ」は場外に吹っ飛ばされてしまった。

ゆずの逆転勝利である。

「やりました!ゆずの勝ちですね、お兄ちゃん!」

ゆずが心底うれしそうな顔で言ってくる。

「そ、そうだね・・・最後は手が泳いじゃったかな?」

泳いだのは手ではなく目である。

「これでゆずはお兄ちゃんになんでも一ついうことを聞いてもらえるんですね・・・えへへ・・・」

ゆずが「えへえへ」とだらしない顔で笑っている。

「そういえばそんなこといっていたね・・・いいよ、約束は約束だから。」

「そうですね。わかりました。それでは・・・」

ゆずが少しの間思い悩みだす。千尋はじっとゆずに視線を向ける。

沈黙がつかの間を支配し、やがてゆずが口を開く。

「そ、それでは!お兄ちゃんが!いま!はいている!「ぱんつ」をください!」

「え、なんだって!?」

(ゆずが興奮した声で何かを言ってきたがよく聞こえなかった。なんだか「ぱんつ」って聞こえたような・・・もしそうだとしたら今日二件目の「ぱんつ」案件だな・・・いや、未来ちゃんとのは僕の不注意だけれど・・・)

「だから・・・「ぱんつ」をください!恥ずかしいので二度も言わせないでください・・・」

ゆずが「もじもじ」とほおを赤らめながらこちらを見つめてくる。

「ぱんつって・・・あの「ぱんつ」のこと・・・」

「はい、その「ぱんつ」のことです!」

ゆずは確かに力のこもった返事をする。どうやら真面目に言っているようだ。

「いろいろつっこみたいことはあるけれど・・・あえて「なんで」って聞くよ・・・」

そういって千尋は最も大きな疑問を口にする。

「そんなの・・・ゆずがおにいちゃんの「ぱんつ」を嗅ぎたいからに決まっているじゃないですか!」

さも当然というようにゆずは千尋を見上げてくる。

「いやいや!自分が何を言っているかわかっている!?」

「わかっていますとも!それでも、どうしてもゆずはそれが欲しいのです!」

なぜなら「ぱんつ」ですよ「ぱんつ」洋服とはまた違ったお兄ちゃんの!年頃の男の子特有のいい匂いがするんですよ!」

そういってゆずは鼻息を荒くする。

そう、霞 ゆずは正真正銘の「変態」である。

「いやいやいや、さすがにそのお願いは倫理的にまずいでしょ!」

「どうしてですか、いつもお兄ちゃんの「ぱんつ」を洗濯しているのはゆずなんですよ。いまさらなにも問題ないじゃないですか!」

「確かにそうだけれど・・・それならどうして、こんなことを頼んでくるのさ?」

「どういう意味です?」

「いやだって僕の「ぱんつ」の匂いを嗅ぎたいだけなら僕に無断で洗濯する前に嗅げばいいじゃないか?ゆずの立場からしたらわざわざ僕にいう理由がなくない?」

千尋はゆずにもっともな疑問をぶつける。

「そ、それは・・・確かに洗濯前に何度かにおいをかごうと思ったことはありますけれど、それをしてしまうと大好きなマイ・ブラザー千尋お兄ちゃんを裏切ってしまうような気がして、できなかったんです。」

「それでお願いって形で僕の「ぱんつ」をほしがったの?」

「はい。こうすればフェアな状態でお兄ちゃんの「ぱんつ」を手に入れられると思ったったので・・・」

ゆずは頬を赤らめ「もじもじ」しながら恥ずかしそうに答える。

「なるほど、わかった。やっぱりゆずはいい子だね。」

「そんなことないです。ゆずはお兄ちゃんの「ぱんつ」を欲しがっちゃうような「変態」さんです。悪い子です・・・」

「ゆず、それは違うよ。別に「変態」だからって「悪い子」とは限らないよ。人なんてみんなだれしも性癖を持っていてその内容が「変態」な人だってたくさんいる。でも人に迷惑をかけていなければ、それが「変態」だからと言って悪いなんて咎める権利他人にはないんだよ。少なくとも僕はそう思う。」

千尋は「ゆっくり」と、しかし「はっきり」とした声音でゆずに語り掛ける。

「お兄ちゃん・・・」

「それに、ゆずは僕にフェアな形で接したいと思ったんでしょ。その気持ちはだれかを大切に思う優しい気持ちであってそんな気持ちを抱くのはゆずが誠実ないい子である証拠だよ。」

そういって千尋はゆずに笑顔を向ける。

「ありがとうございます、お兄ちゃん。やっぱりお兄ちゃんは優しいです。」

ゆずははにかむような笑顔で答える。

「というわけで、ゆず、いいよ。僕の「ぱんつ」が欲しいならあげるよ。」

「本当ですか!」

ゆずは千尋の言葉に驚く。

「約束は約束だしそれに・・・勇気をもって僕の「ぱんつ」が欲しいって面と向かって行ってくれたゆずの真剣な気持ちに僕も応えたいと思ったから・・・」

「ありがとうございます、お兄ちゃん、う・・・ぐすっ・・・私こんなこと言ったらぐすっ・・・お兄ちゃんに、ぐすん・・・大好きな人に嫌われるんじゃないかって不安で・・・ひっく・・・お兄ちゃんがゆずに愛想をつかしてどこか、うっ・・・ゆずの手の届かないところに行っちゃうんじゃないかって・・・くす・・・お、お兄ちゃんの・・・ぐすっ・・・前で、な、泣くなんて駄目、なのに・・・心配させたら駄目なのに・・・」

千尋のまっすぐな思いに感情がこみあげて、ゆずは、思わず、涙する。

「よしよし・・・大丈夫だよ。たとえ、ゆずがどんなに「変態」だったとしても、もしたとえば勝手に僕の「ぱんつ」の匂いを嗅いでいたとしても、それ以上のことをしていたとしても・・・嫌いになったりなんかしない、どこにも行ったりしない、僕はゆずの「お兄ちゃん」で居続けるから・・・だって、ゆずは僕の、たった一人の、大切な「妹」なんだから・・・」

泣いているゆずを「ぎゅっ」と抱き寄せ、頭を優しく撫でながら、千尋はゆずに優しく囁く。

「お兄ちゃんはやっぱりお兄ちゃんです。いつもかっこよくて、かわいくて、面白くて、そして優しくて・・・ゆずのことを甘やかしすぎなんじゃないかってぐらいに甘やかしてくれて・・・今だって、そんなこと言われたら、そんなに優しくされたら、ゆずは、ますますお兄ちゃんのこと・・・好きに・・・なっちゃいます。」

泣き止んだゆずが千尋に「ぎゅっ」と抱き着き返し千尋の胸に顔をうずくまらせてそういう。

「よかった・・・泣き止んだんだね。それと、今度からは僕に言わずに「ぱんつ」の匂いを嗅いでもいいよ。」

兄妹愛を確認し「いいはなしだなぁ・・・」と思っていたところで突然、千尋がとんでもないことを言い出す。

「ど、どう言った風の吹き回しですか!嬉しいか嬉しくないかで言ったら嬉しいしそりゃあゆずからしたら願ったり叶ったりですけれど。」

ゆずが困惑した表情で千尋に尋ねる。

「いや、だって正直に言うとゆずは僕の「ぱんつ」の匂いを嗅ぎたいわけだろ。そのことを知ってしまったらできることは協力したいと思ってさ。」

千尋は涼しい顔で答える。

「いや・・・自分で言っといてなんですけれど・・・それ、お兄ちゃんは恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしいに決まっているでしょ!」

「ですよね~」

「決まってるけど・・・恥ずかしさよりゆずの正直な気持ちを大事にしたい、かな。」

そうはいってもやはり少し恥ずかしいのか千尋は目を逸らしながらゆずに言う。

「わかりました。これからはたまに定期的に匂いをかがせていただきます。」

言葉こそ冷静なゆずだが、やはり、うれしそうだ。

「うん、それで今日の「ぱんつ」は今欲しい?」

「今欲しい!」

突如、まるでスイッチが入ったかのようにゆずは興奮しながら即答する。

「聞いといてなんだけど、そこまではっきりと言われると少し引くよ!

・・・わかった、今脱ぐからゆずは部屋の外に出ていて。」

千尋は覚悟を決めた様子でゆずに言う。

「わかりました。終わったら教えてくださいね。」

そういってゆずは部屋の外に出ていく。

そして千尋が「ぱんつ」を脱ごうとズボンに手をかけると・・・

「ちらり、です。」

ゆずが自分でそういいながらドアの隙間から「ちらちら」とこちらを見ている。

「自分で言うのか・・・」

千尋が困惑しているとゆずが、

「これはお兄ちゃんの着替えを見たい一方、のぞいてはいけないという良心に悩まされているゆずの複雑な心からとった行動です。」

「は、はあ・・・」

ゆずの説明口調に千尋は苦笑いを浮かべるがやがて・・・

「というか早く向こうを向いてくれない!?さすがに妹に自分の局部を見られたくはないから!」

と、最もなことを口にする。

「はーい。」

ゆずはどこか楽しそうな笑みを浮かべながらリビングのドアを閉める。

そして「ぱんつ」を脱ぎ終えた千尋は「終わったよ」とゆずを呼び戻す。

「ありがとうございます、お兄ちゃん。それでは拝借します。」

というとゆずは千尋からぬぎたて乗り換え「ぱんつ」を受け取った。

「えへへ・・・夢にまでみたお兄ちゃんの「ぱんつ」・・・えへへへへ・・・」

ゆずの様子がおかしいがそれは割とよくあるので千尋は気にせずに、

「夢って・・・大げさじゃない・・・?」

と思ったことを口にする。するとゆずは・・・

「何言っているんですか。お兄ちゃんがいつもしている「妄想」と同じようなものですよ。いつも夢見ていたことが現実になったんですよ。ゆずの「夢」が一つ叶ったんですよ。」

ゆずはいつになく興奮した様子で千尋に力説する。

「う、うん・・・それは・・・よかったね・・・よかったのかな・・・?」

千尋が思わず苦笑いしていると、ゆずはさも何事もないかのように千尋の目の前で千尋の「ぱんつ」を顔に当て「すーはー、すーはー」と大げさなのではないかと思うぐらいに大きく呼吸をして匂いを嗅ぎ始めた。

「はあ~お兄ちゃんの、すぅ~、は~、いい匂い。すこし汗でむせていて、くんくん、は~体の匂いとはちょっと似ていて、でもやっぱり違う匂い。」

「ごめんゆず、匂いを嗅いでいいとは言ったけれど・・・けれどもっ、さすがに僕の前で嗅ぐのはやめてくれないかていうかやめてくださいお願いします!」

さすがの千尋もこれには真顔で言う。

「どうしてですか?」

「いやさすがに他人、それも妹が僕の「ぱんつ」で興奮しているのを目の前で見せつけられるのは恥ずかしいというか、分かっていてもやっぱ困惑するというかとにかく何とも言えない気持ちになるからできれば遠慮してくださいおねがいします!」

なぜか妹相手に丁寧語になっている千尋。彼がいかに切実に願っているかが分かる。

「むぅ~わかりました。お兄ちゃんの前で匂いを嗅いで実況する「実況プレイ」をもう少し楽しみたい気持ちもありますが・・・本気で言ってるみたいなので一人でいるときに堪能させてもらいます。」

「実況プレイって・・・ゆず、まさかわざとやっていたの・・・」

「はい、お兄ちゃんはかわいい妹に「イケナイコト」をさせている背徳感で興奮できるしゆずは「イケナイコト」をしているのをお兄ちゃんに見られていることからくる恥ずかしさによる快感と、背徳感を感じて困っているお兄ちゃんかわいい姿を横目で見ることにより満足感を得られるという一石二鳥はおろか一石三鳥ぐらいにおいしいイベントですからね。」

とんでもないことを悪びれることもなく笑顔で言うゆず。末恐ろしい妹である。

「・・・と、とにかく匂いを嗅ぐのは一人の時にして・・・」

「はーい。」

困惑しながらなんとか言葉を言い放った千尋に無邪気に返事をするゆず。

「う、うん。とにかく分かってくれたみたいでよかったよ・・・今日はもう疲れたから寝るね。おやすみなさい、ゆず。」

「おやすみなさいです、お兄ちゃん」

寝る前のあいさつをゆずと交わし千尋は二階の自室に歩みを進める。

今日あったことは深く考えないようにしようと心の中でつぶやきながら・・・

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