31缶目 葬送華
「……ッ ! 」
ゾンビ映画等ではゾンビよりも恐ろしい現実的な問題となって製作陣に襲い掛かってくることになりかねないので、映像化されない子どものゾンビ。
少年と思しきその化け物への攻撃を
大きく口を開けてかぶりついてくるそいつに、稲光が走る。
激しい炸裂音とともに小さな身体が吹き飛んだ。
「……あんた、子どもにも容赦ないのね」
『……男の子は……いずれ女性を虐げる……醜悪なオスになる……だから……殺す……』
過激なフェミニストを百人ほど集めて大鍋で数日間、煮詰めたら出来上がったような人格のアイテムはボソボソと零の呆れたような声に
「まったく、
零は一瞬だけ、何やら剣を構えて呪文らしきものを唱える酉井と、彼の前に立つ光の人型を見やる。
「……強力なアイテムほど、その制御が難しいんですよぉ。だから地球でなら電化製品を AI にコントロールさせるみたいに、魂にコントロールさせるんです。その魂自体の力を利用することもありますしねぇ。まあ、そんな役割を進んでやりたがる者なんて滅多にいませんから、罪人が多いんですよぉ」
「結果、性格に難の有るアイテムが出来上がんのね……」
わざわざ説明してくれた背中側の「不審者」に零は溜息を返した。
「それにしても……酉井さんがあの剣の真の力を使うの初めてっぽいけど、それだけ今回の事件がヤバイってこと ? 」
「……いや、そんなことはありません。酉井さんは頻繁に『エスパーダ・レジェンダニア』の真の力を解放してますし、もちろんそれに必要な剣に宿る『闇の女神の分霊』の顕現も初めてではありませんよぉ」
「えっ ? でもさっきのやり取りは…… ? 」
「……彼女は一度起動し終わって眠る
「弱さを極めたメンタルが耐えられない現実をすぐに忘れるため……とか ? 」
「ひひひ、そうかもしれませんし、そうじゃないかもしれません。嫌なことは忘れるに
「それ解決してんの ? あんたが忘れても警察と被害者の方は忘れないでしょ ? 絶対に ! 」
「不審者」への言葉とともに、零が振るったバットはゾンビの頭の中味をぶちまけた。
勢い余って半回転した視線の先で、酉井の前に立つ光の人型は、黒いドレスを纏った少女になっていた。
ガリガリに痩せて、ボサボサの黒髪の下の目は落ちくぼみ、腕は傷だらけ。
そんな必要以上に闇を体現した少女。
それなのに、酉井を見つめる瞳だけに何か、光があった。
「でも……なんか寂しいね。酉井さんと一緒に戦ったことも、あの剣は全部忘れてるんでしょ ? 」
「そうですよぉ。あの和解の茶番も僕は何度も見てますからねぇ。……ですが最初はストロング系缶酎ハイを彼女に飲ませるまでに二日かかりました。それから徐々に短くなって……今では先ほどご覧の通りです」
「えっ ? 」
「記憶はリセットされても……どこか深い場所で酉井さんのことを覚えているのかもしれませんねぇ。元々酉井さんと彼女は、似たような傷を持つ者同士ですから、何か通じ合うものがあるんでしょう」
「それって……」
────
『──黒よ、白骨の纏う喪服の黒よ、
画面の中で朗々と詠唱を行う「勇者」。
「な、なんかすごい呪文だな……」
少しばかり身を画面から引く夕夏。
「かっこいい~ ! さすが勇者様~ ! 」
胸の前で手を組んで感激している
「勇者様の持っている剣は、言葉を現実のものにしてくれるんだって~。だけど剣が結構気難しくて、カッコいい詠唱じゃないと力を貸してくれないの~。だから勇者様が使おうとして発動しなかったこともあるらしいよ~」
「……それを克服した結果がこれか……『勇者』も結構大変なんだな……」
日常では使う機会のないような日本語を一度もかまずにスラスラと唱え、やがて技が発動する。
『──
勇者の前に立つ少女の足元から、黒いものが這い出した。
そしてそれは一瞬でショッピングモール内を侵食する。
床を、壁を、天井を。
「な、なんだあれ !? 」
「茎……かな~ ? 」
植物の有機的な形状をしたそれには、いくつもの禍々しい棘があった。
そしてその茎から無数の黒い薔薇が、開花した。
「綺麗~」
詩がそんな呑気な感想を述べる間に、その花びらは風もないのに舞い散る。
ショッピングモール内はまるで黒い蝶が埋め尽くしているかのようだった。
ふと、その内の一枚が、動く腐乱死体に舞い落ちた一枚が、黒い炎をあげた。
それを皮切りに、次々と黒炎が上がる。
そのどこまでも黒い火は、死者を本来の在り方に戻す荘厳な灯であった。
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