27缶目 おかしなアイテム達
直径5センチ、長さ10センチほどの透明な円筒形のガラスの中に封印されている小さなミイラ。
そのお人形のようなサイズで、ぴったりと合う魔法使いのローブを身に纏っている。
そしてその小さな乾燥しきった唇は微かに動き、常に何事かを嘆いているようだ。
「……男は……崇高なる女性を虐げている……自らの力で生きていけない女は……そんな男に媚びを売り……同じく崇高なる女性を虐げている……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない…… ! 」
「
酉井に渡されたそれを親指と人差し指でつまみ、
「そいつはアイテム『戦乙女の嘆き』だ。コートのポケットにでも入れておけ。お前の攻撃に全て『雷撃』の属性がつくし、敵の攻撃に対しても『雷撃』を飛ばして自動防御してくれる優れものだ」
「それはいいんだけどさ……。なんでこんなに世の中の男に対して敵対心持ってんの ? 」
零は顔をしかめたまま、尋ねた。
「そのミイラの元は魔術師だったそうだ。あっちの世界の魔術院とかいう何をしているか検討もつかない施設で頑張っていたらしいんだが、今一つ認められなかった。それは彼女が女性で、男達から差別されていたからだそうだ。こっちの世界でもあるだろ ? 女性管理職の割合が男に比べて少ないとか……」
「ふーん。それで男を恨んでんだ」
「それだけじゃないぞ。そいつは自分という崇高な魔術師が女というだけで認められないのは、国の頂点である王が男であるせいだ、という結論に至り行動を起こすんだ」
「行動 ? この世界のフェミニストみたいな女性の権利を主張する運動 ? 」
「いや、独身だった王の妹を旗印に掲げてクーデターを起こすんだ。国王が女性となれば不当な女性差別がなくなると信じてな」
「なんかすごいね……。で、その革命は成功したの ? 」
「いや、鎮圧されたが、相当危なかったらしい」
「え ? そんなに賛同者がいたの ? 」
「決起したのは彼女一人さ。もし彼女が日本にいれば英雄になれたかもしれないが、封建的な異世界では早すぎたんだよ。だが彼女の魔術の才能は本物だったみたいで、禁呪を使って地獄から兵隊を召喚して国軍を壊滅寸前まで追い込んだそうだ」
「なんていうか……凄まじいね」
「そして捕らえられた彼女は当時最高の魔術師たちによって呪いをかけられ、そんな姿になった上に、得意だった雷魔法を使用して彼女を携帯する者を守護するアイテムにさせられたんだ。ところがどういうわけか誰が持っても効果が発動しない。唯一発動したのが、『戦乙女』の称号を持つ独身の女が持った時だけだったんだ」
零は呪詛を吐き続け、時折「あなた……同じ……共に革命を……」とありがたくもない仲間認定をしてくるそれを無言で見つめ、コートのポケットの奥底へと仕舞いこんだ。
「ちなみに彼女のクーデター未遂の後、女性に高等魔術を学ばせるのは危険だ、という風潮になり彼女は女性魔術師からは
「……女の敵は女ってやつ ? ……余計に女性の立場を悪くしたんだね」
というやり取りがあって零の装備は整い、その後、
────
それはリビングのテーブルに無造作に置かれていた。
まさか針治療に使うわけでもないだろうに。
小さな溜息が漏れた。
母と妹が事故死してから、父は少し……いや大いに変わってしまった。
葬式は出したが、本来ならばその後、行かねばならない火葬場へは行かなかった。
両方の祖父母や親戚が健在ならば絶対に許されなかっただろう。
俺だって反発したが、父は頑として聞き入れなかった。
それから変な香りのお香が焚かれたり、おかしなお経のような声が聞こえたり、うんざりした俺にとって一階は外に出る時の通過点になった。
そんな状況、俺が休日で父が出勤の日、珍しく静かな一階に下りたら、これだ。
俺はその変な針を持ち上げる。
「これで刺されたら、痛いどころじゃ済まなそうだな……」
『そんなこたぁありやせんよ ! むしろ気持ちよくなるくらいのもんでさぁ ! 』
針についた
「うわぁ ! 」
俺は慌てて手の中のそいつを投げ捨てる。
『いてて ! ひでえなあ ! なにするんですかい ! 』
「ロックな鍼灸師が使ってそうな針がしゃべった……」
『あっしは鍼灸治療用の針なんかじゃありやせんよ。無理を道理に変える魔法のアイテムでさあ ! 』
魔法 ?
いやスマホが喋る時代だ。
これも何かのからくりがあるに違いない。
『あ~、信じてやせんね ? 仕方ないですがね。あっしが起こした奇跡をちゃんとわかるようにしてあげやすから、あっしを持ち上げてくださいやし ! 』
俺は恐る恐るその髑髏の針を持ち上げる。
信じたわけではない。
だがその非日常の香りが、日常に疲れた俺には少しだけ刺激的だった。
『そりゃ ! 』
ガブリ、と髑髏が俺の右手の親指を噛んだ。
「イダダダダダダっ ! 何しやがる !? 」
鋭い痛みを感じた俺は再び、針を床に投げつける。
髑髏に噛まれた親指には、まるで指輪のような痣ができていた。
『どうもすいやせん ! でもこれでわかるようになりやしたから、ほら来てくださいやし ! 』
そしてその呼び声を聞いた者がゆっくりとドアを開ける音がした。
「そんな……まさか……」
そこには死んだはずの母と妹が、生前そのままの姿で立っていた。
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