11缶目 Hi ! Ace !
この地方都市は山と海との距離が近く、それゆえ平地にある町からも両方の距離が近かった。
月明かりの下、当然外灯もないが舗装はされている山道を
零が道を曲がった時、その先の暗がりに嫌なものを見つけた。
車だ。
大型のワゴン車。
日本一有名な車メーカーが販売している土建業者の走る倉庫としてや、さまざまな送迎等に使用されている高性能で人気の高い車種だが、どういうわけか犯罪者
そしてこんな山道で見かけた時はそんな風評被害の方をイメージしてしまう。
零は一瞬、来た道を振り返ったが、意を決して進む。
車にも人の気配はない。
零が車の脇を通り、運転席を背伸びしてのぞきこむが無人だ。
少しだけ
密集した五十センチほどの高さの草の海から白い服の丸まった背中が島のように見えた。
それは揺れている。
何か粘着性の音も聞こえてくる。
(この背中……女だ。女が上なんだから合意の上の行為だよね…… ? )。
零がそう判断して、そっとその場を後にしようとした時、草の中から女が丸めた身を起こした。
それを見て零は悲鳴をあげる。
女の白く濁った瞳や腐り落ちそうな灰色の皮膚ではなく、その口元からブラ下がっているものが原因だった。
たった今、お腹から引っ張り出したような細長い
その
どう考えても女に
ゆらりと女が立ち上がり、くわえた臓物も伸びていく。
ベチャリと音がして、口から腸と思われるものが落ちた。
彼女が零に向かって大きく口を開けたせいだ。
白濁した瞳が零を見据え、ゾンビな彼女は走りだした。
零は今日、何度目になるかわからない悲鳴をあげた。
ふっと零の目に背中が映った。
そして彼は手にした瓶を思い切りゾンビに向けて振り、その中身の液体が派手に
まともにそれを浴びたゾンビ女は一瞬動きを止めたが、再び動きだす。
用法は間違っていないのだろうが、用量が足りないようだ。
「うおっ !? 」。
酉井は慌ててもう片方の手に持ったストロング系酎ハイの缶をゾンビ女に突き出す。
ぐぽぉ ! と嫌な音がして口にロング缶が突っ込まれる。
底から口内に入った缶の頭を手のひらで押さえてゾンビの接近をとどめる酉井。
滅茶苦茶に両腕を振り回しながら、なんとか近づこうとするゾンビ女。
「零 ! カバンの中からもう一本『聖水』を ! 」。
珍しく焦った酉井の声に弾かれたように零は動き出す。
少し離れた所に大きく口を開いたまま置かれた革製の茶色いドクターバッグへ駆け寄った彼女は中を覗き込んだ。
「え ? なにこれ ? 」。
カバンの中は明らかに外観以上の空間が広がり、その中にぎっしりと「聖水」の瓶とストロング系缶酎ハイが詰められていた。
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