10缶目 Do It Yourself



「フフ、どうだDIYで作ったこの貯金箱は ? 」。


 酉井とりいはストロング系酎ハイの缶に穴を空けただけの不燃ごみをれいに掲げてみせる。


「……Do It Yourself というより Doumitemo Iranai Yatsu って感じだね」。


 呆れたように返す零。


 酉井はそんな彼女の様子を気にも留めずに畳の上に魔法陣が印刷された大きな紙を広げ、その中心に貯金箱を置く。


「酉井さん、それ一円玉どれだけ入ってんの ? 確か最低五百枚必要なんでしょ」。


「引っ越してきてから作った貯金箱だから百枚も入ってないな」。


「全然足りてないじゃん ! ……まさかその燃えないゴミに四百円以上の価値があるとか思ってんの !? 」。


「人が一生懸命に作ったものを……。まあいい。あのエルフは『このコインを五百枚』と言った。『五百円』ではなくな。恐らく貨幣としての価値じゃなくて一円玉自体が欲しいんだろう」。


「一円玉そのものが…… ? 」。


 いぶかしげな顔のれい


「一円玉の素材は ? 」。


「……アルミだろ。まさかアルミニウムが欲しいの ? 」。


「……それを今から確かめてやる ! 」。


 そう言い放つと酉井はまたバタバタと部屋を出て行くと、すぐに両手に一つずつ大きなゴミ袋を下げて戻ってきた。


「不燃ゴミの日に寝過ごして良かったぜ」。


 ニヤリと笑う酉井の持つ半透明のゴミ袋の中にはぎっしりと詰まったストロング系酎ハイの空き缶。


 それがどんどん魔法陣の上に積み上げられていく。


「確かにアルミ缶だけど……。もしあっちが一円玉以外必要としてなかったらただゴミを送りつける結構なレベルの嫌がらせにならない ? 」。


 ゴミの山を見上げた零は少しだけ不安に思ってから、自嘲気味じちょうぎみわらった。


(やっぱり酔ってる。本当にあの番組が異世界からの放送で、あの魔法陣で実際に物のやりとりができるなんてあるわけないじゃない……)。


 酉井はなにやら紙にペンでサラサラと書きつづり、丁寧に折りたたんでゴミの頂点に置き、さらにその上に冷蔵庫から取り出したばかりのキンキンに冷えたストロング系缶酎ハイを四本載せた。


「フフ、この四本はおまけだ。この世界の酒造技術に驚愕するがいい」。


 機嫌良さそうに言って、酉井は手にしたストロング系酎ハイの缶を飲む。


 零が何か言おうとした時、スマホが鳴った。


 母からのラインだ。


 彼女が画面に目を落として、再び顔を上げた時、ゴミの山は綺麗に消えていた。


「え ? て、手品 ? 」。


 零の間の抜けた声。


「さて、後は品物が送られてくるのを待つか」。


 酉井はどっかりと腰を下ろすと胡坐あぐらをかいてテレビをつけた。


 画面の中ではちょうどFAで今年から移籍してきたプロ野球選手がヒットを放った所。


「よし !! 」。


 酉井の機嫌はさらに上昇する。


「……ダメ……飲みすぎだわ……。白昼夢はくちゅうむを見てる……。お店休もうかな……」。


 零は顔を手で覆って、へなへなと座り込む。


「……その方がいいかもな」。


 酉井が背を向けたまま言った。


「え ? 」。


「あのエルフは本当に性格が悪いんだ。たまに溺れている人間に浮き輪を売りつけるようなことをする」。


「どういうこと ? もしかして『聖水』が必要な状況になるかもしれないってこと ? ……そんなわけないじゃん ! 私、もうお店に行くから ! 」。


 自分に言い聞かせるように言って、零は立ち上がり玄関に向かう。


 廊下の途中の壁には大きな姿見がはめ込まれており、彼女はそこで自らの顔を確認する。


「……全然赤くなってない……あれだけ飲んだのに……それに殴られた後もなんともない……」。


 何か変な焦燥しょうそう感。


「そういえば通報したのに警察も来てない……どうして ? 」。


 零は小走りで玄関へ急ぐ。


 後ろからせっかく出塁したのに、ダブルプレーでチェンジになったとテレビが叫ぶのと、酉井の落胆の声が聞こえた。


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